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寝込んでいる間、ご先祖様たちは、僕に会いにきてくれなかった。
しょっちゅう村には来てるんだから、来ようと思えば来られるはずなんだけど。
具合が悪いと思って、遠慮してくれてたのかも。
だけど、あのときのお礼はちゃんと言っときたかったし。
起きられるようになるとすぐ、僕は、アニマの木へとむかった。
「こんにちは。」
相変わらず気ままに過ごしているご先祖様たちに、とりあえず挨拶する。
「おう、よく来たな。」
「まあ、ゆっくりしていけ。」
「からだはもう、いいのか?」
「大変だったそうだな。」
あっちこっちから、ご先祖様たちの声が聞こえた。
…この中に、この間一緒に行ったご先祖様は、いないみたいだ。
っても、みぃんなお年寄りだし。
ちょっと、見分けがつかない?ってとこも、あるんだけど。
「あの。
ご初代様、は?」
とりあえず、個人識別できている人のことを聞いてみる。
ああ、おう、とあっちこっちから返事が聞こえた。
「ばあさまなら、どこかその辺で居眠りしているんじゃ?」
「今日は非番のはずじゃ。」
そうなんだ。
「花畑が、あの方のお気に入りの場所じゃ。
そこへ行ってみなされ。」
親切そうなおばあさんがそう教えてくれた。
僕は、教わった通りに、行ってみることにした。
アニマの丘の麓をぐるっと取り巻くように、花畑は作ってある。
丘がちょうどいい風除けや日除けになるから、四季折々の花が、いつも咲き乱れていた。
まだ花の咲かないちょっと淋しい畑の傍で、居眠りしているご初代様を見つけた。
ご初代様は器用に丘の斜面にもたれて、気持ちよさそうに眠っていた。
そこは、ご初代様のお気に入りの場所なのか、斜面には、ちょうどご初代様の背中の丸みにぴったり合わさるような、小さなくぼみができていた。
僕が行くと、ご初代様は、目を片方だけ開けて、僕を見た。
「ほうほう。目をお覚ましなさったか。
ご無事にお戻りになられて、何よりじゃ。」
それだけ言うと、また、うつらうつら眠ってしまう。
僕は今日は、もう無理やり、ご初代様を起こしたりせずに、隣に腰を下ろして、ご初代様の目を覚ますのを待っていた。
いい、お天気だ。
柔らかな風に、花が揺れている。
よく見ると、蕾がたくさんついていて、そのうちこの畑にも、きれいな花が咲き乱れることだろう。
「…あの方はなあ、この花が、たいそうお好きじゃったのよ。」
ぽつりぽつりと、おばあさんがそう話すのが、聞こえた。
「あの方?」
「今も、あの暗闇におられる。
お前様、お会いになったのじゃろう?」
それって、あの、夢で会った、いにしえの勇者、のことだろうか?
いやでも、あれは、ただの奇妙な夢じゃ…
「世界の命運を担って、戦った。
そうして、世界をお救いになった。
しかし、あの方自身は、闇に捕らわれて、今も、あそこにおられるのよ。」
そうか。あの勇者は本当にあの場所で、闇に捕らわれているのか。
ルクスも捕らわれかけた、あの闇に。
「おばあさん、もしかして、あの勇者と知り合いなんですか?」
おばあさんは、ほっほっほ、と笑って僕を見た。
「あの方とわしは、恋仲、じゃったのよ。」
いきなりとんでもない発言に、僕は目をむいた。
「っ?!っこ、っこ、こい、な、か?」
「そうじゃ。
うーんとうーんと、濃い、仲よ。」
おばあさんは、僕を見て、にんまり笑った。
ぐへっ。
なんか、すごいダメージを喰らった気がする。
おばあさんはそんな僕に、けらけらと笑いだした。
「う、っそ~!!!」
「はあ?嘘?」
どうやらからかわれたらしい。
おばあさんは、いたずらっぽく目をきらきらさせて、僕を見た。
「お前様、もしかしたら、わしより長う生きておられるじゃろうに。
なんじゃ、おぼこいのう?」
「は?」
からかうんなら、もう、いいです。
僕はさっさと行こうと、腰を上げかけた。
その僕を、おばあさんのしんみりした声が引き留めた。
「わしは、あの方に憧れておった。
まったく、微塵も、相手にされんかったが。
そんなことは、かまわんかった。
ただ、あのお方のお姿を、遠く遠くから眺められただけでも。
その日一日、幸せな気持ちで過ごせるくらいに。
わしは、あのお方のことを、お慕いしておったんじゃ。」
う。
なんか、そんな顔して、そんな話しをされると。
ものすごく、気になっちゃうよ。
「わしにも、そんなふうに人を想うた頃も、あったんじゃ。」
僕は、もう一度、おばあさんの隣に座り直した。
「あの戦は、悲惨なものじゃった。
エエルをじゃぶじゃぶ無駄遣いするあやつらを滅ぼさなければ、この世界は滅んでしまう。
わしらは、心の奥底から、そう信じておった。
あの方は、その先頭に立っておられた。
皆を率いて、誰より一番危険な場所へと、自ら斬り込む、そういうお人じゃった。
風より疾く、鳥のように身軽で、雷のように鋭い剣の使い手。
誰より優しく、皆を思い、世界を守ろうとする、勇者じゃった。」
そういう人、僕もひとり、いや、ふたりかな、知ってる。
いや、違うか。
風より疾くなくても、鳥のように身軽でなくても、雷のような剣の使い手じゃなくても。
こつこつと、世界を守ろうと働く人たちを、僕は、たくさん、たくさん、知っている。
今、この世界に勇者はたくさんいる。
「勇者の働きで、この世界は滅びを免れた。
なのに、世界を救った勇者は、あの場所で闇に捕らわれてしもうた。
この村の者は、皆、あの勇者と共に戦った者の子孫なのじゃ。
そうして、勇者を捕らえた闇が、世界に広がらないよう、この地を護っておる。」
そうだったんだ。
「…勇者を、闇から助けたりは、しないんですか?」
「それは、不可能じゃ。
もちろん、何度も何度も、そうしようとした者はおったけれど。
誰一人、成功せんかった。
勇者を助けようとあの闇へ近付いた者は、誰も帰ってこない。」
………そっか。
確かに、あの闇は手強い。
ルクスでさえも、捕らわれてしまったくらいなんだから。
僕はただ、うーん、と呟いたっきり、他に何も言えなかった。




