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僕はアニマの木のところへ行くと、ご先祖様たちに、ルクスのことを話した。
話しを聞いてご先祖様たちは、上を下への大騒ぎになった。
「なんじゃ?
エエルの穴へ誰か人が入ったじゃと?」
「そんなもん、あの道を誰か通れば、すぐに分かるじゃろう?」
「わしらの血筋ではない、稀人じゃとか。」
「それにしても、あり得ん。
見張りもおるじゃろう。」
「ほうじゃ。見張りじゃ。」
「今日の当番は誰じゃ?」
誰じゃ、誰じゃ、とみんなして走り回ってたけど、誰も名乗り出ない。
と、あーーーっ、と誰かが叫んだ。
「今日はもしかして、居眠りばあさんじゃ!」
「居眠りばあさんか?」
「それは、ヤバい。」
ヤバい、ヤバい、とみんな囁き合って黙ってしまった。
すると、ある一画がすっと開いて、そこにうつらうつらしているおばあさんがひとり、ちんまりと座っていた。
この騒ぎのなか、気持ちよさそうにこっくりこっくり居眠りしている。
なにか夢でも見ているのか、ほほほほほ、と小さく笑った。
「ご初代様か。」
「そりゃあ、いつ転生してもおかしゅうないくらい、ここにおるからのう。」
「村の者は、全員、この方の血を引いているというてもいいくらい、旧い旧い方じゃ。」
ひそひそと囁き合うのが聞こえた。
「あの。」
僕は、おばあさんの前に進み出て声をかけた。
気持ちよさそうに寝ているところ悪いけど、急ぎの用なんだ。
「今日、穴のほうに、僕の友だちが、行きませんでしたか?」
「ほへ?」
おばあさんは片方の目だけ開くと、ぼんやりと僕を見た。
その目は、すぐに、うとうとと閉じそうになる。
僕は、おばあさんの肩をがしっと掴んで、さっきより大きな声で言った。
「あの!
眠いところ、すいません。
今日、僕の友だちを見ませんでしたか?」
「ほへ?」
おばあさんはもう一度、今度は両方の目を開けた。
「…誰があのばあさんを当番にしたんじゃ?」
「誰も穴には行きゃせんもの。他の当番よりはマシだと思うたのじゃ。」
「細かい仕事はほとんどない。ただ、見ているだけじゃからのう。」
ご先祖様たちがひそひそと話すのが聞こえた。
「…友、だち?」
おばあさんの目が、ゆっくりと僕を見て、焦点が合った。
「ほう?おまえさんの?」
「ええ。
森の民を見ませんでしたか?」
森の民、と言ってしまえば、分かりやすいと思った。
だって、見た目も村の人と全然違うもの。
おばあさんはのろのろと首を傾げた。
「はて?
森の民、かのう。
もう、何年も見ておらんような…
いや、最近、見た、かの?」
僕はのんびりしているおばあさんに、いらいらして詰め寄った。
「見たんですね?
どこで?」
僕は、おばあさんがまた眠ってしまわないように、肩をゆすった。
おばあさんは、僕にゆすられて、はわわわわわ、と頭をゆらした。
僕は慌てて手を止めたけど、おばあさんの肩は掴んだままだった。
「お年寄りに乱暴なことして、ごめんなさい。
でも、大事なことなんだ。」
「お年寄り?
はて、わしよりも、おまえさま方のほうが、うんとお年寄りじゃろうて?」
ほほほほほ、とおばあさんは笑ってから、言った。
「森の賢者様がの。
あの穴を放置しては、皆、困る。
じゃから、なんとかせにゃならん、とおっしゃっての。」
いかにも、ルクスが言いそうだ。
「なんにせよ、いっぺん、見に行きたいとおっしゃるから。
わしはの、ぎりぎり、目印の木より先には行かれんように、とお教えしたのじゃ。」
「目印の木?」
「ほうじゃ。
森の中に、ひょーん、と一本、高い高い木があるのよ。
誰が見てもそれと分かる。
目印の木じゃ。」
「有難う。」
僕はそれだけ聞くと、行こうとした。
すると、何人かのご先祖様たちが、僕の前に進み出てくれた。
「わしらがご案内いたしましょう。」
「ご初代様の不手際は、わしら全員の責任じゃ。」
「なになに、目印の木までなら、行っても大丈夫じゃ。」
「しかし、ぎりぎりの限界ではある。」
「そこから先へ、一歩でも踏み込めば、穴に囚われるからのう。」
「じゃから、案内させてくだされ。」
有難いと思った。
「お願いします。」
僕が言うと、みんな頷いてくれた。
走りだそうとしたら、いきなりぎゅっと腕を掴まれた。
腕を掴んだのは、アルテミシアだった。
「どうした?
君はいったい、誰と話していたんだ?
どこへ行く?」
いつの間にか、アルテミシアは僕に追いついて、ご先祖様たちと話すのを見ていたようだった。
だけど、アルテミシアには、ご先祖様たちは見えないから、多分、僕ひとりで、あれこれひとり言を言っていたように見えただろう。
「ルクスの行先を聞いたんだ。
今から行ってくるよ。」
僕はなるべく不安にさせないように、軽く言った。
「それなら、あたしが行く。
危険な場所なんだろう?」
けど、アルテミシアは簡単にはごまかせなかった。
「大丈夫だよ。
ご先祖様たちが案内してくれるって言うから。
本当に危険なところには行かない。」
そう説明してから、あ、と思った。
「アルテミシアには、ご先祖様たちは見えないよね?
だから、アルテミシアはここで待ってて。」
「なら、せめて、一緒に…」
言いかけて、アルテミシアは、ちょっと口ごもった。
僕が、じっと見つめたからだ。
「大丈夫。
ルクスはきっと連れて帰る。
僕を信じて。」
僕のこと、頼りないって、思ってるのは、知ってる。
だけど、アルテミシアを危険な目には合わせたくない。
いつも、守ってもらってばっかりの僕だけど。
本当は、僕だって、アルテミシアのこと、守りたいんだ。
僕はそれ以上アルテミシアに何か言われる前に、ご先祖様たちと走り出した。




