表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
413/474

413

その日もいつも通り、ルクスとアルテミシアは朝から出かけていた。

僕も、いつも通り、畑に行って、当番のご先祖様と、おしゃべりをしていた。


「もしかして、みなさんには、エエルが見えているんですか?」


「ほい。

 見えておりますな。」


「!!!見えるんだ。

 どんなふうに見えているんですか?」


「それはこう、きれいなリボンのような…」


ご先祖様は手のひらを左右にひらひらさせてみせた。


「そもそもは、この畑のエエルは、かなり絞ってありますのよ。

 ぎりぎり、足りんくらいにのう。

 余分にあると、その分、あちらへ流されやすくなるんじゃ。

 そんで、あんまり足らんようなら、こう、そろりそろりと、足して行くのよ。

 こんなふうにの。」


ご先祖様は、畑にむかって、ぱっ、と手を開いた。


「ほら、この指先から、細い細いエエル、見えますかの?」


にこにことこっちを振り返るけど。


「…すいません、見えません。」


「まあ、見えんのは仕方ない。」


けど、なんだろう、ちょろちょろちょろ、と清水の流れるみたいな音が、聞こえる気がする。


「わしは、こういうやり方じゃが、煙草をふかして煙を送っとるやつもおるのう。

 まあ、人それぞれじゃ。」


「あ。それ、見たことある。」


前に、煙草をぷかりぷかりしていたのは、エエルを送ってたのか。


「木の方でも、余分なエエルは出さんように、見張っておりますがの。

 たまーに、見張りが居眠りなんぞしよったら、ごっそり、こーんなのが来ることもあってな。

 そういうときには、エエルの尻尾をつかんで、こう、引き戻しますのよ。」


ご先祖様は、まるで、太いロープか何かを引っ張るような仕草をしてみせた。


「これ、そっちゃ行ったらいかん。

 これ、こっちじゃ、とのう?」


ロープは見えないんだけど。

その格好を見ていると、なかなかの力仕事みたいだ。


「なに、やっとることは難しくはないんじゃが、うかうかすると、あちらへ流されてしまうからの。

 そうならんように気は抜けませんな。」


ご先祖様は、そう言ってふわふわと笑った。


そんなふうにいつも通りの一日が過ぎて、帰ってきたら、みんな揃って晩ごはん。


最初のころは、村の人たちにご飯も用意してもらってたんだけど、お世話になりっぱなしじゃ気がひける、って、アルテミシアは厨房と食材を借りて、自分たちの分は自分たちで作るようにしていた。


もっとも、研究熱心なアルテミシアは、ここの人たちのお料理を教えてもらったり。

お返しに、アルテミシアのお料理を教えてあげたり。

夕方の厨房には、大勢の人が集まっていて、いつもすごく賑やかだ。

それはそれで、みんな楽しそうだなって、思ってた。


だけど、お料理も全部できて、きれいにテーブルに並べられても、今日は、ルクスはまだ帰ってこなかった。


「どうしたんだろう?

 ルクス、遅いねえ?」


いつもなら、日が暮れる前には帰ってくるんだけど。

あー、腹減った、って、ご飯作ってくれるアルテミシアの周りうろうろしてて、つまみ食いしては、叱られてるんだけど。


「アルテミシア、今日はルクス、どこに行ってたの?」


「さあなあ。

 村の連中と狩に行くとか言ってたっけ。」


ルクスはお肉、好きだからなあ。


「アルテミシアは一緒に行かなかったんだ?」


「あたしは、薬草の植え付けがあったからね。」


ルクスとアルテミシアも、いつも一緒ってわけじゃない。


「先に食べるかい?」


アルテミシアは、そう僕に尋ねたけど。

僕は、首を振って、いったん席を立った。


「一緒に狩に行った人って、誰?

 僕、様子を見てくるよ。」


もしかしたら、みんなまだ帰ってないのかもしれない。


「じゃあ、一緒に行こう。」


アルテミシアもそう言って席を立った。


一緒に狩に行った人の家を訪ねたら、ちょうど、夕飯の最中だった。


戸を叩くと、子どもたちがぞろぞろと様子を見に出てきた。


「こんばんは。

 あの、お父さんって、もう、帰ってる?」


「とっくに帰ってるよ?」

「今日はすごい獲物が獲れたって、自慢してさ。」

「お祝いだって、お酒飲んで、もう寝ちゃった。」


子どもたちは口々に言った。

その後ろから、前掛けで手を拭き拭きおかみさんが顔を出した。


「おや。おそろいで。

 今日は大猟だったねえ。」


おかみさんも上機嫌だった。


「さっきまで、亭主の自慢話を、聞かされてたんだよ。

 同じ話しを何度も何度もするもんだから、ちょっと大変だったけどね。

 いや、あの、ルクス様ってのは、狩の腕もすごいらしいね?」


やあ!

とう!

と子どもたちは、剣を振る真似をしてみせた。

きっと、お父さんの話しを聞いて、覚えちゃったんだ。


「それで?

 いったい、何の御用かい?」


「いや。あの…」


何て尋ねようかとっさに迷って、口ごもった僕の前にアルテミシアは進み出た。


「ご亭主は、今日はいつ頃、お戻りに?」


アルテミシアはおかみさんに尋ねた。

そうさねえ、とおかみさんはちょっと考えてから、答えた。


「昼前には帰ってたかねえ。」


昼前?

僕の胸がどきどきし始めた。


「…みんな、一緒に戻ったの?」


恐る恐る尋ねたら、おかみさんは首を傾げた。


「はて。

 そりゃあ、そうだろう?」


あっさり答えてから、僕らの顔を見て、何か異変を感じ取ったのか、眉をひそめた。


「ちょっと、待っておくれ。

 今、うちの亭主を叩き起こすから。」


せっかく大猟のお祝いで、楽しくお酒を飲んで、いい気持ちで寝てるんだろうけど。

そうしてもらうことにした。


少し待つと、その家のご亭主が、眠そうな目をして現れた。


「こりゃあ、お揃いで。

 ルクス様?

 なら、狩が早く終わったから、少し、行きたいところがあるって言って…」


行きたい、ところ?


「どこ、行ったんだい?」


おかみさんにつつかれて、ご亭主は、ふむ、と首をひねった。


「いや。

 行った先までは…」


だけど、聞かなくても、多分、ルクスの行先は分かっていた。


「有難う。

 僕、行きます。」


急がなくちゃ。

挨拶もそこそこに僕は走り出していた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ