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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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その日はおじいさんの家に泊めてもらえることになった。

滅多にない稀人は、ご馳走でもてなされて、村で一番大きい家に泊めてもらえるそうだ。

この歓待には、ピサンリの村を思い出した。

もっとも、あの村の人たちは森の民を特別扱いしてたけど、ここの村の人たちは、僕らが森の民だからって歓迎してくれるわけじゃないみたいだ。

平原の民だろうと、山の民だろうと、余所から訪れた人はみんな、稀人、なんだって、教えてくれた。


真夜中頃だったと思う。


僕は、ふと、目を覚ました。


今日は月がなくて、外は暗い。

仲間たちの気持ちよさそうな寝息が聞こえる。

僕は、もう一度寝ようと、目を閉じた。


と、ふと。


くくくくくっ、と誰かの笑う声が聞こえた。


???

誰?

寝言で笑った?


それにしては、声がしわがれている。

まるで、お年寄りのように。


くくくくくっ。

ふふふふふっ。

いーっひっひっひ。


うへっ?


ぎょっとして目を開いた。

すると、真っ暗なのに、目の前にぼんやり光るお年寄りの顔が、いくつも浮かび上がっていた。


お年寄りたちは、みんなにこにこして、寝ている僕の顔を覗き込んでいた。


げげげっ?


思わず悲鳴を上げかけたら、一番近くのお年寄りが、しーっ、と指を唇に当てた。


僕は急いで自分の口を手で塞いだ。

なんとか、悲鳴は上げずにすんだ。


お年寄りたちは、みんなほんのり青く光っていて、その上、ふわふわと宙に浮いていた。


「昼間、会いたいと思うておられましたじゃろう?」


「じゃから、みんなして、会いにきたんじゃ。」


お年寄りたちは口々に言った。


会いたい、って…


あ!


「もしかして、アニマの木の主さんですか?

 って、どの人が?」


ひのふのみ…

お年寄りたちの姿は、ぼんやり光ったり、ふっと消えたりするから、とても数えにくい。

けど、この部屋だけでも、数十人はいそうだった。


「なんもなんも。

 遠慮はいらん。」


「わしら全員、主さん、じゃ。」


お年寄りたちはそう言って、きゃらきゃらと弾けるように笑った。


「えっ?この全員?」


「いやいや。

 もっとおりますぞ?

 全員来たら、到底この部屋には入りきらんから。

 これは、選抜メンバーじゃ。」


選抜、メンバー…


「そんなこと、あるんだ…」


思わず感心したんだけど。


僕の声がうるさかったか、アルテミシアが、ぅぅぅ、と言うのが聞こえた。

僕は思わず、もう一度、自分の口を手で抑えた。


それを見たお年寄りが言った。


「ここで騒いでおったら、お仲間の眠りの妨げになりますのう。」


「わしらについてきてくださらんか?」


僕は、うんうんと何度も頷いて返事をした。

それから、みんなを起こさないように、そぉっとそぉっと寝床を脱け出した。


外に出ると、そっちにも、こっちにも、ぼぉっと青く光るお年寄りの姿があった。

お年寄りたちは、まるで仲良しの村人のように、お互いに声をかけあっていた。


「お前んとこの孫の顔、見て来たのか?」


「おう。こないだ見たときより、また一回り大きゅうなっておった。」


「そんなわけはないじゃろう。

 昨日見たばっかりじゃのに。」


「そうじゃったか?」


「まったく、毎日、飽きもせんと。

 よう通うことじゃ。」


「飽きるわけなかろう。

 あんなに可愛いものは、他にありゃせんよ。」


それはまるっきり世間話をする村人の姿だった。

みんなぼんやり光って、宙に浮いてるけど。


お年寄りたちは、三々五々固まって、ふわふわと進み始めた。

彼らは、あのアニマの木を目指しているみたいだった。


僕は彼らについていった。

月明かりはなかったけれど、お年寄りは、僕の傍をふわふわ飛んで、足元を照らしてくれた。


ほんのり光る不思議な行列と一緒にアニマに木に着くと、そこには、もっとたくさんのお年寄りがいて、みんなふわふわ光っていた。

アニマの木の、そっちにも、こっちにも、それはまるで、冬至祭りの灯のようだった。


「すごい。

 こんなにたくさん。」


「またこの村に生まれ変わった者もおりますけれどのう。

 子孫のことは、ずぅっとここで自分が護るんじゃ、と言うて、居座っとる者もおりますから。」


この村の人たちは、こんなにたくさんの加護を毎日受けているんだ。

みんな、平穏に幸せに暮らせるはずだと思った。


「あなたは、あれじゃろう?

 世界の綻びを直してくれた、…あれ、なんじゃったかいの?」


「賢人様じゃ!」


「賢人ではない、賢者様じゃ!」


「変人?」


「もっと違う!

 賢者!け、ん、じゃ!」


なんとも、賑やかしい。

だけど、見ていてとても楽しい。

そのまま夜の明けるまで、僕はそこにいて、お年寄りたちとおしゃべりをしていた。











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