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僕らの旅は順調だった。
もちろん、壁や怪物と戦わなくちゃいけないことは何回もあったし。
アニマの木の主と話し込んじゃって、気付いたら三日くらい経ってた、なんてこともあったけど。
ラブリーフライングソーサーちゃんには遠話装置がついていて、それで、王都のみなさんとは連絡もつく。
特命隊のみんなは遠くまで遠征してくれていて、いろんな土地の状況も伝えてもらった。
僕らの旅した、郷のあった森、ピサンリの村、川沿いの町、畑の街、石の街、それから、王都に、トゥーレの村。
それから、オルニスと行った、水竜の森とそこへ至る村や町。
これらの村や町には、アニマの木も多く生えていて、エエルも豊富にあるようだった。
だから、僕らは、あえて街道から逸れて、アニマの木の気配のないほうへないほうへと道を選んだ。
そういう場所にも、人の棲むところはある。
けれど、そういう土地の人たちは、余所の土地の人とはあまり交流してなかったりする。
世界が滅びかけたことも、エエルの復活も、疑似アマンの混乱も、彼らにはほとんど関係ない。
彼らも、畑の実りが少なくなったり、嵐や日照りにあったり、家畜が子を生まなくなったり、困ることはあるのだろうけど。
千年を一日の如く、目の前の問題に丁寧に対処をして、こつこつと毎日の暮らしをただ繰り返すだけだ。
そんな彼らは、どこか森の民にも似ている気がして、親近感を感じる。
ただ、森の民と違って、彼らは、旅人を温かく迎え入れ、もてなしてくれた。
その辺は、彼らもれっきとした平原の民なんだなと思う。
僕らが訪れると、村中の家々から、一斉に人が出てきて、にこにこと勢揃いした。
幼子も大人も、みんな好奇心いっぱいの目で僕らを眺めていて、ちょっと気恥ずかしい。
その中から、白い髭を長く伸ばしたおじいさんが進み出て、にこやかに挨拶をした。
「稀人の皆さま、ようこそ、お越しくださいました。」
「まろうど?」
聞き慣れない言葉に、ルクスは挨拶もせずに首を傾げた。
おじいさんは、丁寧に膝を曲げて、お辞儀をした。
「このような辺鄙な場所に、余所から人の来ることは滅多にありません。
だから、ここへ訪れる人は、みな、尊い賓客。
稀人、にございます。」
なんか、僕ら、そんなごたいそうなものじゃないんだけど。
「大したおもてなしはできませんけれど、どうぞ、ごゆるりと、ご滞在ください。」
「あ。その、お世話になります。
俺たち、その、あっちこっち旅をしていて…」
そんなことは見りゃ分かるんだろうけど。
いきなり出鼻を挫かれてしまったのかもしれない。
ルクスは、珍しくちょっとしどろもどろになっていた。
「あ、の。
なんか、困ってることとか、ないっすか?」
「はて?」
おじいさんは首を傾げた。
「ここしばらく、畑もよう実り、家畜もまるまると肥え太っております。
日差しも温かく、雨もちょうどいいくらいに降ってくれます。」
そっか。
ここにはエエルはちょうどいいくらいに届いているんだ。
「その上、今日はこのような稀人のご登場。
それもこれも、きっと、ご先祖様のご加護のお蔭。
後で、お供えを持って、お参りに行かねば。」
「おそなえ?おまいり?」
「ええ。
我らの祖霊の眠る地に、畑の実りをお供えして、感謝を申し上げるのですよ。」
ソレイノネムルチ、というのは何だろう?
僕らはちょっと首を傾げた。
「よかったら、俺たちも、その、おまいり、に連れて行ってもらえませんか?」
ルクスはにこにことそう切り出した。
おじいさんは、ほう、とちょっと驚いたように言ってから、にこにこと嬉しそうに、さっきよりも丁寧にお辞儀をした。
「なんとなんと、稀人様にお参りしていただけるとは。
ご先祖様方も、さぞかし、お喜びのことでしょう。」
ソレイ、ってのは、ご先祖様のことか。
ご先祖様は分かる。
そっか。
ソレイノネムルチ、ってのは、ご先祖様の眠る場所、ってことか。
ここの人たちは、年を取ったら、どこかに集まって、お昼寝、とかするのかな?
おじいさんは、すごく喜んで、僕らをその場所に連れて行ってくれた。
そこは、村からは少し離れた小高い丘の上で、立派なアニマの木が生えていた。
アニマの木は、とても成長が早いけれど。
森の民の僕らには分かる。
この木は、本当に、旧い、木だ。
そして、その木の周りには、石を積んだ塚がたくさんあった。
「この塚のひとつひとつの下に、祖霊様が眠っておられます。」
そうか。
ようやく分かった。
僕ら森の民は、とても長く生きる。
年を取って、もうそろそろいいかな、と思ったら、アニマの木のところへ行って、アマンへと渡る。
アマンに行けば、もう年も取らないし、永遠に生きていられるから。
だけど、ときどき、本当に、滅多にないことだから、僕も、話しに聞いたことはあっても、直接見たことはないんだけど、何かの事情で、自分の力でアマンへと渡れなかったときには。
郷の誰かが、アニマの木の傍の土に、そのからだを埋めてあげるんだ。
そうしたら、その人も、魂になって、アニマの木を渡れるんだ、って。
つまり、ここの塚の下の人たちも、そうやって魂になって、アニマの木を渡ったんだ。
アニマの木の前には、立派な台が作りつけてあった。
おじいさんは、両手に抱えて持ってきた食べ物やお花を、その台に置いた。
それから、香りのいい香木に火をつけて、それも台に置くと、木にむかって手を合わせた。
「わたしたちのご先祖様は、この木を渡って、こちら側へとやってきました。
そうして、また、この木を渡って、あちら側へと還るのです。
還られたご先祖様は、この木に宿り、子孫である我らを見守ってくださっています。」
そうなんだ。
僕らもあわてておじいさんの真似をして、手を合わせた。
この木を渡って彼らのご先祖様がこっちに来たのって、多分、はるか昔のことだろう。
そんなに大昔から、彼らは、ずっと変わらずに、こんなふうに暮らしてきたんだ。
きっと、たくさんのご先祖様が、この木に宿って、彼らを見守っていることだろう。
彼らが滅びも混乱も関わりなく、穏やかに暮らしていけるのは、この木の守護のお蔭かもしれない。
おまいり、を済ませた僕らは、村の家に案内された。
そこは長老であるおじいさんの家で、おまいりをしている間に、村中の人が、僕らを歓迎する支度をしていてくれた。
何もありませんが、と言いながらも、並んだご馳走は、色とりどりで、どれもすばらしく美味しかった。
平原の民って、本当に、食事にはこだわりが強い。
そして、美味しい物を、楽しく食べる、のが、何より好きな人たちなんだ。
それだけは、どこへ行っても変わらないな、ってつくづく思った。
この土地のエエルの気配は、それほど濃くはないけれど。
この穏やかさを護っているモノがある。
あのアニマの木の主は、いったい、どんな人なんだろう。
是非、会ってみたい、って思った。




