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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ルクスとアルテミシアとブブと僕。

四人で歩くのは久しぶりだ。

ルクスもアルテミシアも、ずっと忙しくしてたから。

なんだか、一緒に歩くってことが、すごく嬉しかった。


明るい日差しを浴びながら森を歩いていると、子どものころのことを思い出す。

ずいぶん、遠くまで来たけれど。

今もあのころと変わってないこともある。


王都内のアニマの木の移植は、近衛兵と研究員の有志で作られた特命隊に任せてきた。

やり方は、教えてきたし。まあ、大丈夫だと思う。


アルボルたちとあちこち巡って、アニマの木の主にも何人か出会ったけど。

アニマの木の主って、この世界のことに詳しい人が多かった。

風や、鳥や、虫が、アニマの木に、いろんな話しを持ってくるんだそうだ。

誰も知らないことを知ってる、情報通なアニマの木もいたりして、びっくりした。

もっとも、その情報の真偽のほどは、怪しいのもあったけどね。


彼らは、この世界のことに、とても興味を持っている。

そうして、この世界の営みを、温かく見守ってくれている。


ただ、彼らは、自分で歩いて行って、直接それを見ることはできない。

それで、ときどき、間違ったことを信じていたりもする。

それを、彼らは残念に思っている。

だから、とにかくいろんなことをもっと知りたい、と言う。

話しを聞かせてほしい、と、せがまれることも多かった。


彼らは総じて、とても聞き上手だ。

どんな話しも、興味深く、辛抱強く聞いてくれる。

そんな彼らに、風も鳥も虫も人も、話しをする。


街中に生えていたとあるアニマの木の主は、すっかりご近所の人たちと仲良くなってて、まるで愚痴を聞いてくれるご隠居、のような存在だった。


彼は、すごい情報通で、辺り一帯の家族構成、夫婦関係、親子関係、誰と誰が幼馴染で、誰と誰が恋仲で、なんて事情を、微に入り細に渡って、すべて知っていた。

秘密の片思いも、長年の確執も、彼は全部知っている。


だけど、アニマの木は口が固い。

決して、余計なことを言ったりしない。

秘密を他に漏らすことは、絶対にしない。


だからこそ、彼は信用されて、みんな、アニマの木の主に、心の中の重荷を下ろすように話しをするんだ。


だけど、ときどき、ほんの少しだけ、アニマの木の主は、住民の本当の願いの後押しをすることもあった。

辛い片思いの橋渡しをしたり。

長い間のわだかまりが解ける、ちょっとした機会をあげたり。


そうして、恋が成就したり、仲直りが叶ったり、人が幸せになると、すごく喜ぶんだ。


ときにはどうすることもできない、悲しい気持ちや苦しい気持ちを話されることもあった。

そんなときも、彼は、慰めの言葉は言わない。

ただじっと寄り添って、悲しみや苦しみの癒えるまで、そこにいてくれる。

それに救われた人も、大勢いたんだ。


僕らがその木に会いに行ったとき。

大勢の住民が、どうかこの木は連れて行かないでほしい、と願い出てきた。


そして、木と人々とのそんな経緯を、僕らに詳しく話してくれた。

彼らは、アニマの木の主の姿を見たことはなかったんだけど。

この木がどれだけ優しいか、よく知っていた。


人の側からそんなことを言われたのは初めてだったから。

すごく驚いたんだけど。


アニマの木に見守られて、その辺りの人たちは概ね幸せだった。

アニマの木の主も、そこから移動することは望まなかった。

人々も、木のことを、とても頼りにして、大切にしている。

彼らは共にいて、本当に幸せなんだ。

望まれなければ、僕らも、無理に移植を勧めることはしなかった。


そんな話しを、道々、僕は、ルクスとアルテミシアに聞かせた。

ふたりとも、へえ~、と感心しながら、僕の話しを聞いてくれる。

アニマの木の主並みに、辛抱強い聞き上手だ。

幼いころも、よく森を歩きながら、ふたりに話しを聞いてもらったなと思い出した。


「結局さ、王都のアニマの木のことは、お前に任せきりになっちまったな。」


「構わないよ。

 ふたりとも、すっごく忙しかったし。

 僕は他にできることもないんだもの。

 アルボルとレグルスが手伝ってくれたから。

 すっごく助かったよ。」


「移植の秘術を、皆に伝えてくれて、助かったよ。

 君の魔法は、研究院の研究を、一足跳びで進化させるからな。」


「やってみたら、なんとなくうまくいったんだよ。

 あれ、秘術だったの?」


知らなかったなあ。


ルクスとアルテミシアは顔を見合わせてから笑った。


「君は、永遠に、そういう人なんだろうね?」


「この世界で一番不思議なのは、お前の存在だよ。」


それって、褒めてる?それとも、貶されてる?


「ときどき、そういう子どもが生まれる、って話しを、昔、聞いたことあったっけ。」


「森の宝、って言うんだよね。そういう子どもを。」


「あれは、ただの伝説だと思ってたけどな。」


「君のこと、族長に見せたいよ。

 なんて、言ったんだろうね?」


「案外、族長は見抜いていたのかもな。

 あの占いの婆も。

 だからこそ、お前のことを守れ、って、俺たちに言ったのかもなあ。」


「まあ、そんなの、言われなくったって、君のことは、生まれたときから、可愛くて仕方なかったけどね。」


「婆がなんと言おうと、俺たちは、お前のこと、最初からずっと、可愛いって思ってたよ。」


ふたりに頭をくりくりされて、僕はちょっと照れる。

ふたりとも、背伸びしないと僕の頭には手が届かなくなっちゃったけど。

撫でてほしくて、僕はちょっと、頭を下げた。

そしたら、ふたりとも、ぐりぐりぐり~、って撫でてくれてさ。

ブブがそれを羨ましがって、ブブも、ブブも~、って寄ってきたら、ふたりまとめて、ぐりぐりされてた。


「ふたりのおかげで、僕はずっと幸せだよ。」


だから、もう、ずーっと、ずーっと、一緒にいようね?


王都の近くのアニマの木の移植は、特命隊にお任せできるから、僕らはなるべくアニマの木を避けて、先へ先へと道を急いだ。

ブブがいればアニマの木の気配は分かるから、避けたければ、それも可能なんだ。


いろんな木と話すのはとっても楽しいんだけど。

今は、もっと遠く、うんと遠くへ、先を急ぎたかったから。


王都の周囲は、闇の壁や怪物たちももうほとんどいなくなっていた。

だけど、世界にはまだまだ、闇に囚われてしまったアニマの木がたくさんいる。

その木も助けなくちゃ。


それに、ブブの疑似アマンには、アニマの苗木も、たくさんしまったままだ。

彼らの安住の地も、ちゃんと見つけてあげないといけなかった。


だから、任せられるところは任せて、僕らは先へと急ぐことにした。


この世界のエエルは偏在していて、まだまだエエルの足りない土地はたくさんある。

そんな場所に、アニマの木を植えるために。












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