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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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アニマの木の主を連れて戻ると、人化した精霊たちは、みんなすごく喜んでくれた。

みんなにとっても、お母さんみたいなものなんだね。

アニマの木の主も、みんなに会えてすごく嬉しそうだった。

生まれてきた子どもたちをだっこしてると、なんだかすっかり、おばあちゃん、な顔になってる。

こうしていると、ひとつの大きな家族のようだった。


アニマの木の主を連れて、彼らは、旅に出ると言った。

彼らの楽園を探して。


レグルスは、それについて行きたいと言った。

アルボルたちの中に入れば、レグルスは異種族になってしまうのだけれど。

アルボルは、あっさり了承してくれた。


僕らも、レグルスは、王都には残らないほうがいいと思っていた。

革命軍のことをよく思わない人たちは、彼らの立てたレグルスのこともよく思ってないし。

革命軍の人たちに見つかっても、なんだか面倒なことになりそうだ。


だから、僕らと一緒に連れて行こうと思ってたんだけど。

アルボルたちと行くのもいいかもね。

こんなにアルボルになついているんだし。

アルボルだって、レグルスのことは、もうすっかり弟みたいに思っている。


旅立ちの準備を進めるなか、僕らは、時間を見つけて、他のアニマの木にも会いに行った。


アルボルは、ブブと同じように、アニマの木の主を召喚する力があるらしい。

初めて会う木でも、声をかけると、主は姿を現わしてくれた。


アニマの木の主は、普通の人たちのように、性質も好みもいろいろだった。

僕らは彼らと話しをして、移動してもいい、と言ってくれた主を、実体化させた。

そうすると、アニマの木は、違う場所に歩いて行けるようになるんだ。


アニマの木の実体化は、いつも僕がやってたんだけど。

それを見ていたレグルスが、一度、自分にもやらせてほしいと言い出した。

やってみたところ、案外簡単にうまくいった。


アルボルが主を召喚して、レグルスが実体化する。

ふたりいれば、アニマの木の移植も、可能だった。


ふたりは、この先旅に出て、過密な場所のアニマの木を実体化し、アニマの木の少ない場所へと導いて、植え替えていった。

ふたりは生涯共にいて、世界中にエエルを届ける仕事をしたんだ。


彼らは、聖兄弟と呼ばれ、ルクス王と同じように伝説になる。


旅の途中、彼らは、適性のある人を見つければ、自分たちの技の伝授もした。

こうして、アニマの木を植え替える人材も増えて、世界にアニマを満たす仕事はますます勢いがついた。


世界にきめ細やかにエエルが満ちると、この世界は、とても棲みやすい場所になった。

穏やかな気候。たくさんの水。肥えた土。

森も川も、山も街も。

ありとあらゆる場所が、ありとあらゆる生命にとっての楽園になった。


豊富なエエルは、たくさんの魔法を起こす。

魔法は、人の暮らしをとても便利にした。

たくさんの魔法が研究され、編み出されていった。


アニマの木の移植によって世界に敷かれたエエル網は、世界中を幸せな魔法に満たした。

それは、研究院の中にあったあの便利な状況が、世界にそのまま拡大したようだった。

皆が安全に満ち足りて暮らせる世界が、実現した。

これこそは、伝説の古代の楽園だった。


アルボルは、レグルスよりもうんと早く年老いて、やがてふたりは兄弟ではなく、親子に見えるようになって、そして、祖父孫に見えるようになってしまうんだけれど。

そうなっても、ふたりは、自分たちを兄弟だと名乗り続けた。

そうして、とうとう最後に、アルボルはレグルスを置いて逝ってしまう。

ひとり残されたレグルスは、王都に戻り、研究院に入って、魔術師になる。

後の王立魔法学校の元を作ったのは、このレグルスだった。


話しを戻そう。


アルボルたちは、実体化したアニマの木の主を何人か引き連れて、新しい土地を目指して旅立った。


僕らはその旅立ちを祝福して見送った。


けれど、その僕ら自身の旅立ちの時もまた、近付いていた。


王都はまだ混乱していて、ルクス王を支持する人たちと、革命軍を支持する人たちに、大きく二分されていた。

王都の混乱を招いたのは、森の民であるルクスのせいだと考える人たちも、革命軍を応援していた。


ルクスは王様になったけれど、またいつ、王座を追われるかは分からない状況だった。

もっとも、ルクス自身は、王座にはそんなに興味もなかったし、替われと言われれば、ほいほい替わったかもしれないけど。

ルクスの周りの人たちは、今度こそルクス王を守る、と息まいていた。


今は革命軍は大人しくなっているけれど、いつまた状況は変わるか分からない。

行方の分からない前王が何かを仕掛けてくる可能性もあった。


「やっぱさ、俺は、ここにいないほうが、いいんじゃね?

 いや、そうしたらさ、俺の首を取る、とかも、実質不可能になるわけだし。

 なになに、いつでもこの玉座には戻ってこられるんだから。

 困ったら、呼んでくれ。

 お前ら全員、優秀なんだから。

 後のことは、任せた。」


ルクスはそう言って周りを説得した。

みんな、この王様はいったい何を言い出すんだ、って、ぽかんとなってたけどね。


「最初からその約束だったろ?」


ルクスはそう言って押し切った。


「全国にエエル網を敷けば、遠話も、高速移動も、可能になる。

 これこそは、あたしの仕事だろう。」


アルテミシアは、引き留める研究院の人たちをそう言って説得した。


「まだまだあちこちに、闇の壁や怪物たちに取り込まれたアニマの木がある。

 それも救出しなくちゃ。」


「それは、わたくしたち研究員の仕事です。

 どうか、所長は、ここに残り、皆を導いてください。」


アルテミシアはそう引き留められたんだけど。


「確かに。

 闇の壁も、怪物も、アニマの木の植え替えも、誰か他の者にも可能だ。

 だけど、あの手のかかる王様の面倒は、代替が効かないだろ?」


とうとう、ルクスを引き合いに出した。


手のかかる、とか、面倒、とか言い方はさんざんなんだけどさ。


みんな、分かってるんだ。

ルクスとアルテミシアを引き離すことなんかできない、って。

だから、それを言われたら、もう誰も、反対なんかできないのさ。


で、そうしたらさ。

今度は、ルクスとアルテミシアについていきたい、って人たちが、ぞろぞろと志願し始めてさ。

いや、集まるわ集まるわ。

郷ふたつ分くらいの人数、集まったんだけど。


それを見たルクスは、よしよし、しめしめ、と彼らを数人ずつのグループに分けた。

近衛兵の人たちと研究院の人たち、いい感じに組み合わせてね。


「壁や怪物は、世界中に現れているからな。

 お前ら、俺についてくるくらいなら、手分けして、それを退治しろ。

 やり方は、もう分かってるだろ?

 なになに、やってみりゃ、きっとできる。

 だから、やれ。

 いいか、これは、王様の命令だぞ。」


と、強権を発動した。


ねえ、ひどいよねえ。

みんなの気持ち踏みにじるような真似してさ。


だけど、命じられた人たちは、なんか、喜んでてさ。

王様の勅命をいただいた。我ら、特命隊だ、ってね。

やれやれ、みんな、なんていい人たちなんだろう。


そうして、あるいいお天気の日の朝。

僕らは王都を出発したんだ。







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