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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ルクスの戴冠式には、王都中から、たくさんの人が集まってくれた。

研究院の一番広い部屋が、その式場になったんだけど、式場にはとても入りきれず、研究院中の部屋に人が溢れかえった。

急遽、直接ルクスを見られない人たちには、魔法中継を使って、どこにいても、ルクスの姿が見られるようにした。


研究院にいたころの僕は、ほとんど、匠たちと一緒に過ごしていたから、魔法装置を使わないいわゆる、魔法使い、な人たちとはあんまり接点はなかったんだけど。

実は、研究院では、いわゆる普通の魔法使い、な人たちも、育成されてたんだよね。

彼らはエエルの流れを感じ取るのに長けている人たちで、紋章を使わなくても、その流れに手を加えて、いわゆる、魔法を起こせるんだ。

昔、ヘルバがやってたみたいに。

僕も、その方法は、ヘルバに習ったから、ちょっとだけ、できるんだけど。

研究院で育成された魔法使いたちは、僕よりもっと、すごい、魔法を起こせる人たちだ。


彼らの連携で、ルクスの姿は、みんなに見てもらえたってわけ。

せっかく、足を運んでくれた人たちが、見られないんじゃ、申し訳ないもんね。


それにしても、ルクスがこんなに人気あるなんて、思いもしなかったよ。

王様やってたころは、僕、ルクスのこと、あんまり得意じゃなかったし。


だけどね。ルクスは本当に、いっつも、みんなのことばっかり考えてたんだね。

そうでなけりゃ、こんなにわざわざ、みんなが来てくれることなんか、ないと思うんだ。


ただ、戴冠式で、ルクスに冠を渡す役は、レグルスがやることにしてたんだけど。

当日になって、それは取りやめになった。

レグルスの姿を見て、あれは、革命軍の立てた王様だって気付く人もいるかもだし。

こんなに大勢集まるからには、やっぱり、用心したほうがいい、ってことになったんだ。


もっとも、レグルスは、そんなの全然、気にしてなかったみたいだけど。

レグルスの代わりに、それは、アルボルが引き受けることになって。

むしろ、レグルスは、そっちのほうを喜んでいた。


レグルスはさあ、もうアルボルにべったりで。

どんなときも、何をしてても、アルボルと一緒じゃなきゃダメ、って感じなんだ。

ルクスに冠を被せる儀式も、レグルスの練習にアルボルは付き合ってくれてたから。

その役目がアルボルに替わっても、手順なんかはちゃんと分かっていた。


ひざまずいたルクスの頭に、アルボルはアニマの若木の冠を厳かに被せる。

たったそれだけのことだけど、なんだかすごくサマになってて、絵になる姿だった。

後世、ルクス王の戴冠、と名付けられたその構図は、たくさんの芸術家たちの手によって、絵画や造形のモチーフになるんだけど。

いやもう、まったく、その練習を見ただけでも、じーん、と感動するくらい、名場面だったんだよ。

僕なんか思わず泣いちゃったもん。


その後は、僕の祝福の番だった。

いやもう、緊張したのしないのって。

ええ、もう、滅茶苦茶、緊張しました。

だから、僕には無理だって言ったのに、って。

頭の中、泣き言でいっぱいだったよ。


右手と右足同時に出るし。

マントの裾踏んで、転びそうになるし。


そうしたらね、いきなり、研究院の中に、さあああって、風が、吹いたんだ。

建物の中に、だよ?窓も開いてなかったのに。

その風は、他のみんなにも感じ取られて、みんな不思議そうにあっちこっち見回した。

どこからも、風の入ってくる場所なんかなかったから。


その風は、とても、いい匂いがした。


夕方、ヘルバと木の下のベンチに座って、浴びた風のように。

馬車を操るピサンリの隣に座って、浴びた風のように。

飛行絨毯に乗って、匠と一緒に、浴びた風のように。


すっごく、気持ちのいい風だった。


その瞬間、すん、って、本当に、すんっ、って、気持ちが落ち着いてさ。


あ、そっか。そうだよね。

僕、これから、ルクスを祝福するんだ、なんて。

すっごく当たり前のことを、思い出してさ。


そうしたら、ルクスへの気持ちが溢れてきて。


ずっと小さいころから一緒だった、大事な友だち。

困ったときには、いつも力になってくれて、良い事も、悪い事も、一緒にやった。

そのルクスに、これからも、いいことがいっぱいいっぱいありますように、って。

そんな当たり前のこと祈るのに、緊張なんかすることない、って。


なんかさ、後はもう、あんまり覚えてない。


ただただ、君の幸せを祈るよ、って、ルクスに笑いかけた。


そうしたらね。

なんとなんと。

ルクスの被っている冠から、一斉に、若芽が吹き出したんだ。


いや、被ったままもし大きな木になったりしたら、流石に危ないでしょ。

って、思うよね?

僕も思ったよ?

だから、慌てて、冠を取ろうとしたんだけど。


ルクスはその僕を制して、自分で冠を取った。

そうして、それを、玉座の上に、そっと置いたんだ。


すると、するすると冠は、玉座を包み込むように、立派なアニマの木になった。


アニマの玉座。

ルクス王の玉座はそう呼ばれている。

その玉座は、全国のアニマの木と繋がっていて、どこのアニマの木からでも、一瞬で、この玉座へと戻れるようになっていたんだ。


この後、ルクスは、世界中を旅して回るんだけどさ。

本当に、王都に用のあるときには、一瞬で、ここに戻ってこられたからさ。

みんなにも、ルクスが旅することを、反対されなくて済んだんだ。


これこそは、アニマの木からルクス王への祝福だった、かもしれない。


それにしても、あのとき吹いた風は、なんだったんだろう。

もしかしたら、あの風が、この魔法を起こしたんじゃないか、って、僕はちょっと思ってる。


そうして、戴冠式は、無事に執り行われた。

後は、もう、みんなして、飲めや歌えや騒げやの、大宴会。

まったくこんなにたくさんのご馳走、いったいどうしたんだろうって、思ったけど。

どうやら、集まってくれた人たちみんな、持ち寄ってくれたみたい。


みんなご自慢の得意料理を持ってきたみたいで。

あっちこっちで、試食品評会が開催されることになったんだ。


それがもう、戴冠式以上に大騒ぎでさ。

平原の民って、食に関しては、煩い人たちなんだね。

いやあ、それはもう、楽しかったんだけど。

見てるだけで、僕はお腹いっぱいになっちゃった。


王様になったルクスは、この国の名前を、正式に、パラアマン、と宣言した。

この世界のものはみんな、アマンからやってきた。

だから、ここはもうひとつのアマン。


古代パラアマン文明の、ルクス王伝説。

うんとうんと後になって、ルクスはそんなふうに語られるんだ。

もうほとんどさ、おとぎ話レベルになっちゃうんだけどね。


その歴史は、この戴冠式の日に始まった、とされている。

いや、じゃあ、これ以前のことは、なかったことにしちゃったの?って感じなんだけどさ。

なかったこと、ってより、これより後のことと、ごちゃごちゃになっちゃってるんだ。


例えば、研究院の研究のこととか。

匠たちの工房のこととか。

ルクス王の元で、異種族間の交流は奨励され、たくさんの新しい発明も成された。

って具合にさ。


まあね。

後の人たちから見たらさ。

そんなのどっちも、ごちゃ混ぜになっちゃったって、仕方ないのかもしれないけどさ。








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