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駐屯所に着くと、ゆったりとした衣に身を包んだ若者が、いきなり飛び出してきて、僕に抱きついた。
平原の民の背丈じゃない。
ということは、森の民?
王都に、森の民の知り合いなんか、いたっけ?
「おかえりなさい、主様。」
彼は、泣きながらそう言った。
あれ?
誰だっけ?
ごめん、ちょっと、君のこと、誰だか、分からない…
ん?
主様?
あうじたま~~~!!!
そう言って僕にしがみついていた姿と、目の前の若者とが、重なった。
「まさか?
アルボル?」
大きくなったとは聞いていたけど。
まさか、こんなに大きくなったなんて。
平原の民に囲まれて、頭みっつ分くらい、背丈が大きい。
「アルボルなの?
もっと顔を見せて?」
僕は抱きついているアルボルを引き剥がして、その顔をよく見た。
子どもというより、もうすっかり若者の顔だ。
ずいぶん変わった気もするけど。
ぜんぜん変わってない気もする。
髪の色も目の色も、眉の形も笑い方も。
やっぱり、あのアルボルだ。
アルボルは顔の半分口なんじゃないかって思うくらい、にぱっと大きな口を開けて笑っていた。
そうだ。アルボルはこれだよ。
これは、アルボルだよ。
「よかった。元気そうでなにより。」
久しぶりなんだから、もうちょっと何か言いようもある気もするんだけど。
僕はそう言うだけで精一杯だった。
アルボルはもう一度、ぎゅっと僕に抱きついた。
昔と同じ、アルボルのあたたかさが直に伝わってきて、これさえあれば、何も言わなくても、大事なことは伝わるなあ、と思った。
「僕のこと、憶えてる?」
「もちろんです、主様。」
「ねえ、その主様、っての、やめてよ?」
昔から思ってたんだけどさ。
なんで、そう呼ぶんだろうねえ?
「だって、あなたのことはそう呼べ、と、お師匠様が…」
「お師匠様?って、誰?」
そんな話し、聞いたことないよ?
「隣にいらっしゃいますよ?」
隣?
って、僕の隣にいるのは、ブブだけだった。
「まさか?
ブブがお師匠様?」
はい、とアルボルはにっこりうなずいた。
「こちらの世界はとても楽しいところだから、人になって、ここに棲めばいい、と。
そう教えてくださったのです。」
「ええっ?
人になれって言ったのって、ブブだったの?」
初耳だ。びっくりだ。
「お師匠様は、たくさんの精霊に、そうお勧めになりました。
だから、みんなのお師匠様です。」
「ええっ?
それは本当なの?」
振り返って尋ねたら、ブブは、にこっとして頷いた。
「ブブ、いった。
あるじさま、いる、せかい、しあわせ。」
!!!!!
そういえば、初めて会ったとき、僕のこと、主様って、呼ぶ精霊が、いやに多いなって思ってたんだ。
なんでそう呼ぶのかなって、思ってたんだけど。
ブブが!それを、ひろめてたのか!
確かに、ブブは使い魔だから、僕のこと、主様、って呼ぶのも、そんなものか、程度に思ってたけど…
それを見ていたアルボルは、はにかんだみたいにちょっとうつむいて、恐る恐るという感じに言った。
「主様、がダメなら、お父様、とお呼びしてもいいですか?」
「ええっ?お父様?…いきなり、それも、ちょっと…」
アルボルはあからさまにがっかりした顔になった。
「なんだ。残念…」
いやね?そうしょんぼりされると、僕も、いいよ、って言いそうになるけどさ?
だけど、僕、まだ、子どものいる年じゃ…
いや、平原の民なら、子どもどころか、孫もいてもいいかも、なんだろうけど…
「…あの。」
ふと、誰かが僕らに声をかけてきた。
見ると、レグルスが、アルボルの服を遠慮がちにつまんで、くい、くい、っと引っ張っていた
「レグルス?
目が覚めたんだ?」
ぐったりと気を失っていたレグルスを、ルクスはお城からずっと抱えてきてたけど。
どうやら、目を覚ましたらしかった。
「よかった。
具合はどう?レグルス?」
浄化の火は、人を傷つけることはないんだけど。
レグルスは怪物になってしまっていて、その怪物もレグルスの一部だったわけだから。
レグルス自身にも、ダメージはないとは言い切れないと思った。
ただ、レグルスは自分の足で歩いていたし、一見した感じ、痛そうだとか苦しそうだとかには見えなかった。
顔色も、お城にいたころよりいいくらいだ。
あのころは、ちょっと青白かったけれど、今はほっぺたに、少し赤みがさしている。
ちょっと不安そうにアルボルと僕を見上げているその姿は、どこから見ても、普通の子どもにしか見えなかった。
レグルスはわずかに首を傾げて言った。
「…その、レグルス、というのは、僕のこと、ですか?」
?????
もしかして、記憶がない、とか?
僕はルクスを探してきょろきょろした。
ルクスは、アルボルのすぐ後ろにいた。
「ルクス!
レグルスは…」
「ああ、そうだな。」
ルクスは、分かってる、というように頷いた。
そのときだった。
レグルスは、アルボルと僕の間に割り込むようにして、いきなりアルボルの服を掴むと、その胸にぎゅっと抱きついた。
「おにいさま!」
は、い?
僕ら全員、きょとんとして顔を見合わせた。
アルボルも、びっくりした、みたいに目を丸くしている。
ただひとり、レグルスは、アルボルの顔を見上げて、切々と訴えた。
「おにいさまでしょう?
あなたは、僕の、おにいさま、だよね?
ずっと、ずっと、会いたかったんだ!」
「あ。うん。そっか。よしよし。」
アルボルは困ったみたいにレグルスの頭を撫でてやった。
レグルスはますます嬉しそうに、アルボルの胸に飛び込んだ。
「よかった。もうずっと離れないよ。おにいさま。」
こんなに嬉しそうな子どもを、突き放したり、引き離したり、できる人はその場にはいない。
だけど、どういうこと?
幸せそうなレグルス以外、その場の全員、当惑したように、互いの顔をただただ見合わせていた。




