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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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僕らはあわててレグルスに駆け寄った。

ルクスが抱き起こすと、レグルスは目を閉じて気を失っていた。

ずっと、息継ぎもせずに話し続けたから、苦しくなったんじゃないかって思った。


「さっきのは、いったい、なんだったんだろう…」


まるで、なにかに憑りつかれたみたいだった。

息をするのも忘れるくらい。

今、話さなくちゃ。その先も話さなくちゃ。

今、言わないと、するすると逃げていってしまう。

それをこの手に捕まえるために、完全に言葉にしてしまわなきゃいけない。

そう焦っているみたいに。


「もしかして、あれが、怪物…?

 なわけ、ないよね?」


確かに、びっくりはしたけど。

屈強な兵士が、真夜中に悲鳴を上げて逃げ出す、ほどじゃない、気もする。

まあ、怖かった、けどさ。


それにしても、この部屋はすごかった。

王様の居室というよりは、まるで研究院の資料室みたいだ。

とにかく、世界中にあるありとあらゆる魔法関係の書物を集めてあるんじゃないかって感じ。

きんきらきん、の目をした生き物たちは、書物のむこうに押し込まれて、ひっそりと身を潜めていた。


「お前、レグルスを見ていてくれ。

 俺は、隣の部屋を見てくる。」


宝物庫は、王様の部屋の続き部屋で、外の廊下からは出入りできない。

あと、確かめるのは、その部屋だけだった。


「分かった。」


僕はルクスからレグルスを受け取った。

痩せっぽっちなレグルスは、僕の力でも、軽々と抱き上げられた。


ルクスとアルテミシアは隣の宝物庫を調べに行った。

慎重に、身構えながらゆっくりと、扉を開く。

けれど、そこからも、何も飛び出してはこなかった。


「…怪物ってのは、どこにいるんだろうな?」


ルクスは首を傾げた。

部屋はちゃんと全部確かめたはずだし。

だけど、どこにも、それらしきものはいなかった。


お城には、壁とか、精霊とか、少しは手こずる相手もいたけど。

それにしたって、屈強な兵士が、悲鳴を上げて逃げる、ほどじゃないような…

いったいみんなは、何を、恐れたんだ?


宝物庫に入ったアルテミシアの小さな悲鳴が聞こえた。

ちょっとびくっとしたけど、そんなに危急を告げる、って感じじゃなかった。

アルテミシアはそこから顔を出すと、僕のほうに手招きした。


「ちょっと、来てくれ。

 これはすごい、お宝だ。」


へえ。

もしかして、金銀財宝が、ざっくざく?


アルテミシアは研究のためには資金も必要だ、って言ってたのを思い出した。

あんまり財宝、とか興味なかったんだけど。

なんとなく、見てみたいな、とも思った。


王様の部屋には、ルクスの言ってた巨大な屋根付きのベットがあった。

少しの間なら、ここに寝かせておいても大丈夫かな。

僕は、レグルスをベットに運ぶと、そこに寝かせて、アルテミシアのところへ行った。


だけど、お宝、は、ちょっと僕の思ってたのとは違った。

宝物庫には、ぎっしりと、書物が詰め込まれていた。

元々置いてあった宝物?らしき、きらきらの物たちは、みんな壁際に追いやられていて。

急ごしらえの書棚が、びっしりと並んでいる。

書棚は天井まで届く高さで、からだを横にしないと通れないくらい、みっちみちに、部屋の中に並んでいた。


「すげー。」


しか、出てこないよね。もう、これは。

居室にも、書物はたくさんあったんだけど。

あれは、序の口、だったんだ。


「これは!すごい、お宝だぞ?」


アルテミシアは、もう、目をきらきらさせちゃって、片っ端から、書棚に並ぶ背表紙を読んでいた。


「研究院よりたくさんあるんじゃないか?

 それに、貴重なものも、数えきれないくらいあるぞ?」


「いったい、誰の趣味なんだろうねえ?

 って、王様か。」


ここ、王様の部屋なんだし。


それにしても。

やる気のない王様、だっけ?


「その王様、研究院の人と仲良くなれたら、よかったのにねえ。」


なんか、残念だ。


「だけど、王様は魔法がこんなに大好きなのに、どうして、研究院を襲ったりしたんだろ。」


そうだよ。

研究院は、襲撃されて、みんな、そこから追い出されたんだ。


そのとき。


突然、何かに貫かれたような気がした。

強い力で突き飛ばされるのと、それはほとんど同時だった。


後から思えば、あれは、殺気?

鋭い、矢のように、それは、僕を貫いた?


「危ない!」


アルテミシアの声が聞こえた。

僕は何気なく振り返った。


「…?」


そのとき、僕はまだ何が起こっているのか、分かっていなかった。

ただ、さっき僕のいたすぐ近くの壁に、なにか固い物がぶつかって、床に落ちた。

それは、先が鋭く尖った小指の先くらいの矢だった。


目に見えたものと。耳に聞こえた音と。

そういうのが、ひとつひとつ繋がって、ゆっくりと、形を作っていく。


僕は次に扉のほうを見た。

そこに、影があった。


ゆぅらり、と、影は揺れた。

部屋の中は決して明るくないけれど、その影は、闇よりもっと濃い色をしていた。

影は伸びたり縮んだりしながら、ゆっくりと、こっちへと近付いてきた。


影の中から、何か飛んできた。

かちん、かちん、と固い物が壁にあたって弾かれる。

跳ね返ってきたひとつが、僕の頬にあたった。

ぴりっとした痛みが、走った。


「伏せろ。」


ルクスはそう叫びながら、僕の頭を床に押し付けた。

押し倒された僕は、なんとかぎりぎり腕をはさんで、床に激突するのだけは免れた。


けれど、すぐに、床にぶつかるよりもっと酷い目に合うところだったと気付いた。

まぬけな僕があのままぼんやり突っ立っていたら、あの矢は全部、僕に刺さっていた。


ルクスは一歩前に飛び出すと、剣を振り回して、矢の攻撃を防いでくれた。

アルテミシアは、飛行円盤に飛び乗り、器用に攻撃を躱しながら、連続で弓を射た。


けれど、攻撃は止む様子はなかった。

ルクスは焦れたように、踏み込もうとしたけれど、矢はまるで水平に降る雨のように、ルクスの全身を目掛けて、一斉に降り注いだ。


そうだ。レグルスは?


宝物庫の扉は、王様の私室に続いている。

つまり、今僕らを攻撃している相手は、王様の私室にいるんだ。

そこには、レグルスがひとり、眠っていたはずだった。


油断した。

まさか、こんなふうに襲われるなんて思わなかった。

もう、全部、確かめてきたから、安全だと思っていた。


もしかしたら、怪物とは、どこかで行き違っていたのかもしれない。

そうして、僕らの後ろから、襲い掛かる隙を狙っていたのかも。


とにかく、レグルスの無事を確かめなくちゃ。

僕は思わず立ち上がって、駆けだそうとした。


その僕の頭を、ルクスは、ぐい、と抑えつけた。


「立つな。

 危ない。」


「レグルスを助けなきゃ!」


僕はルクスにむかって叫んだ。

レグルスはもう、僕らの大事な仲間なんだ。

ほうっておくことなんかできない。

何をしても、どうしても、レグルスを助けるんだ!


「あい。」


ブブが短くでもきっぱりと、返事をした。








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