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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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かわいそうに、レグルスは、すっかり疲れ果てたみたいに、歩きながら眠りそうになっていた。

ずっと暗いから、時間の感覚がおかしくなりそうなんだけど。

ルクスの腹時計によると、だいぶ夜も遅い時間らしかった。


僕らは、テラスでテントを張って、一晩、休むことにした。


ステルステントの広さは微調整も可能だから。

ちゃんと四人分、横になって寝られる広さにしてあったんだけど。

レグルスは、何故か、ルクスにぴったりくっついて寝ていた。


「すっかり懐かれてしまったなあ。」


アルテミシアはそれを見て笑っていた。

ルクスはわざと困った顔を作りながら、それでも、どこか嬉しそうだった。


精霊や壁と戦っている間以外、レグルスは、ずっとルクスにべったりだ。

ブブと僕より、もっと一緒。

座るときも、レグルスは、ルクスにもたれるようにぴったりくっついて座る。

食べるときも、ルクスの手から、分けてもらって食べていた。


僕も小さいときから、ルクスのことは大好きだし。

ルクスのことを好きになる気持ちはよく分かる。

レグルスに懐かれて、ルクスもすごく嬉しそうだし。

本当、よかったなあ、って思う。


テラスを渡ると、そこは、王様と近衛兵たちのいたところだ。

明日には、いよいよ、恐ろしい怪物に会うことになる。

ここはもう、その怪物の、目と鼻の先、って場所だった。


なのに、何故か、ステルステントの中は、安心で、こんな場所なのに、よく眠れた。

淡い光がずっとぼんやり灯っていて、それは眠るのに少しも邪魔じゃなくて。

むしろ、すごくほっとするんだ。

もしかしたら、この光には、癒しの効果もあるのかもしれない。

匠なら、そんな機能も付け加えてそうだ。


それにしても、匠が、このラブリーフライングソーサーちゃんを作っておいてくれて、本当によかった。

正直、なんにもないときなら、何に使うんだろうって、機能かもしれないけど。

それを、ちゃんとつけといてくれて、本当に助かった。


そんなことを考えながら眠ったら、匠の夢を見た。

何故か、ヘルバも、ピサンリも、匠も、みんなそこにいて、ついでに、大精霊も、一緒だった。

僕らは焚火を囲んでいて、匠は、火にかけた大きな鍋をかき混ぜていた。

鍋からは、湯気が立ち上っていて、すごく美味しそうな匂いがしている。

もうすぐ僕ら、晩ごはんなんだ。


それはすごく奇妙な夢だった。


ヘルバと匠は、会ったことないはずだし。

ピサンリと匠も、手紙のやり取りはしていたけど、会ったことはない。

いや、それを言うなら、大精霊は、ヘルバと僕以外とは会ったことはないはずだ。

なのに、みんな、もうずっと一緒にいた仲間みたいに、にこにこと笑い合っていた。


いや、夢ってのは、そういう奇妙なことも、起きるものなのかな。


夢の中で、僕はとっても幸せだった。

みんな一緒なのは、なんて幸せなんだろう、って思っていた。


そういえば、ルクスとアルテミシアは、あの夢の中にはいなかった。

やっぱり、夢ってのは、奇妙なもんだ。


夜中に、ふっと、目を覚ましたら、ぼんやりした光の中、僕は、ルクスとアルテミシアに挟まれて寝ていた。

小さいときから、野宿をするときには、いつもこうだった。

ルクスの背中とアルテミシアの背中に挟まれて、僕はいっつも、守られている、って安心していた。


夢の中であんなに安心だったのも、もしかしたら、現実にこうしてすっごく安心だったからかもしれない。

なのに、夢には、ルクスもアルテミシアも出てこないなんて、ちょっとおかしいけど。

夢なんて、そういうものかもね。


レグルスは、ルクスの胸の中にすっぽり収まって眠っていた。

すっかり安心した顔をしてよく眠っている。

まだ幼いのに、ひとりぼっち置いていかれて、きっとものすごく心細かったことだろう。

怖くて淋しくて不安な夜を、ひとりぼっち、いったいどのくらい越えてきたんだろう。


だけど、今はもうすっかり安心して、気持ちよさそうな寝息を立てている。

ぐっすりおやすみ。

僕はそっと、レグルスに祝福を送った。


ブブは僕の足元にまるくなって眠っていた。

僕はちょっと、ルクスとレグルスが羨ましくなって、そっとブブをだっこして眠ろうとした。


腕のなか、ブブのあたたかさと、柔らかさが、とても心地いい。

ぷうぷう、という寝息が聞こえるのも、なんだか、ほわりと幸せだった。


だけど、ブブは、少しすると、僕の腕からするりと脱け出して、また足元に戻ってしまった。

う。

もう一度、トライ。


そーっと、引っ張り上げて、もう一回だっこしようとしたんだけど。

ブブは少しすると、また、するすると、足元に戻ってしまう。

目は開けてないけど、ほんのちょっとだけ、窮屈そうに、顔をしかめていた。


う。


…ごめんね?


僕はもう邪魔するのはやめようって思った。

だけど、やっぱりちょっと、淋しくなって、ルクスの背中にくっついてみた。

昔々、まだほんの小さいころに、ときどき、そうしていたように。


そうしたら、ルクスは、がばっといきなり仰向けになった。

片方の腕でレグルスを、もう片方の腕で、僕を、ぎゅっと抱き寄せる。

そのまま、ぐうぐうと寝ている。


ルクスの腕は、すごくあったかかった。

ぎゅってされて、少し暑いくらいだった。

だけど、それもまた、安心で。

僕は、じっとしていた。


そういえば、小さいころにも、似たようなことがあったなあ、って、思い出した。


真夜中に、ふいに淋しさとか不安とかで胸のなかがいっぱいになると。

僕は枕だけ持って、ルクスの家に行くんだ。

家族もなにも、みんな寝静まっているんだけど。

そぉっと、ルクスのベットに潜り込んだら。

ルクスは僕のこと、ぎゅうって抱き寄せて。

朝まで、そのまま眠っていた。


朝になって、僕を見つけて、ルクスのお母さんが、笑ってたっけ。

でも、淋しかったらいつでもおいでって言ってくれた。


お前、いつ潜り込んだんだ?

俺は、全然、気付かなかった、なんて、ルクスはびっくりしてて。

それも、みんなに大笑いされてたっけ。


あのときも、ちょっと暑くて窮屈だったけど。

それ以上に、ほっとして、幸せだった。


ルクスは、明るくて、あったかくて、いつもみんなの光みたいな人だった。

僕は、一度その光を見失いかけたけど。

こうして、また見つけられて、本当によかった。


やっぱり、気持ちが高ぶっていたのかな。

その夜は、奇妙な夢ばかり見て、何回も目を覚ました。

ルクスとアルテミシアと三人、森にいる夢も見た。

わいわいと楽しそうに、宝探しをしていた。


だけど、目を覚ますたびに、仲間たちの寝息に安心して、また目をつぶった。

仲間たちの寝息を数えていたら、いつの間にかまた眠りに落ちていた。

一度眠ったら微動だにしないアルテミシアの、静かな静かな寝息は、一番眠くなる音楽だった。


仲間と一緒なら、きっと大丈夫。

心の中で、なんどもそう呟いた。









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