表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一つの楽園  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

391/394

391

老人は足元にまで届くくらい長いひげを生やしていた。

ふさふさの眉毛に隠されて、目はよく見えない。

腰まで覆う上衣にぴったりした下衣。

腰に細いベルトをつけ、三角帽を被っている。

服装は、平原の民によく似ていた。


老人は、ひげをしごきながら、僕らのほうを観察しているようだった。

それから、甲高い声で何か言った。


ぴ。

ぽぽぽぴ。


ブブが老人のほうへと飛んでいく。

この老人が、僕らにとって危険じゃないかどうかは分からないけど。

ここは、ブブにお任せするしかなかった。


ブブは、老人そっくりな声の高さで、ぷぷぴ、ぷぴぴぴ、と何か話しかけた。

すると、老人は、ぷぴぷぷぴ、と答えた。


何を言っているのかは、さっぱり分からない。

こっちに背中をむけているブブの表情は分からないし。

老人の表情もよく見えない。

けれど、ふたりはしばらく何か、会話を続けた。


僕らは、三人、固唾を呑んで、その様子を見守っていた。

ルクスは気を失ったレグルスを抱えたまま、何かあったらすぐ動けるように身構えていた。

アルテミシアも、矢を番えこそしなかったものの、いつでも構えられるように、弓を手に持っていた。


しばらくして、ブブはこっちをくるっと振り返った。


「せいれい、ここ、まもる。

 ここ、しょうき、いれない。」


「あいつ、精霊なのか?」

「彼は、精霊なのか?」

「彼は、精霊なの?」


僕らは同時に同じことを尋ねていた。


「俺にも見えるぞ?」

「あたしにも、見えるのに?」


続いてルクスとアルテミシアはまたほぼ同じことを同時に言った。


ブブはちょっと首を傾げてから、また精霊に何か言った。

精霊は短くそれに答えた。


「どうして、みえる。

 せいれい、わからない。」


それは確かに、精霊に聞いても、精霊も分からないかもね。

だけど、その精霊は、ルクスにもアルテミシアにも、もちろん、僕にも、はっきりと見えていた。


ブブは、続けて言った。


「ここ、もり、なった。

 せいれい、ここ、きた。

 せいれい、なかま、たくさん。

 せいれい、しょうき、イヤ。

 もり、しょうき、イヤ。

 せいれい、しょうき、みはる。

 もり、しょうき、おいだす。」


「ここが森になって、精霊はたくさんの仲間とここに来た。

 精霊たちは、瘴気が嫌いだ。

 ここの森も、瘴気を嫌がってる。

 だから、ここに瘴気が入ってこないように、協力してる。

 精霊は瘴気を見張って、森は、入ってきた瘴気を追い出しているんだ。」


ブブの言葉を僕なりに解釈してみる。

ブブは頷くと、続けて言った。


「ブブたち、しょうき、におう。

 せいれい、ブブたち、しょうき、おもう。」


「そっか。僕ら、ずっと瘴気の中を歩いてきたから。

 瘴気の臭いがするんだ。

 だから、森に追い払われそうになった。」


そういうことか。


「ブブ、説明して。

 僕らは瘴気じゃない。

 むしろ、それを祓うために、ここへ来たんだ。」


「ブブ、いった。

 せいれい、わかった、いった。」


ブブはもう説明をしてくれていたらしかった。


そこまでブブが言ったところで、精霊は、ブブに何か言うと、くるりと背をむけた。

それから、手を後ろで組んで、歩き出す。


「ついてこい。」


ブブはそう言って、精霊について行く。

僕らもあわててそれを追いかけた。


精霊が僕らを連れて行ったのは、一本の立派なアニマの木のところだった。

その木には、精霊のサイズにちょうどよさそうな、小さな扉がついていた。


「ここ。

 せいれい、おうち。」


「…これって、疑似アマン?」


僕は、ルクスとアルテミシアの顔を見回した。

そうだな、とアルテミシアは頷いて返した。


精霊はその扉を開くと、すたすたと中に入っていく。

ブブは振り返って、もう一度、言った。


「ついてこい。」


「いや、あの、ブブ、ちょっと、待って。」


僕はあわててブブを引き留めた。


「ここ、入っても、大丈夫、かな?」


ブブは軽く首を傾げてから、答えた。


「ここ、しょうき、ない。」


いやそりゃ、瘴気はないでしょうけど。


「疑似アマンは、その、いろいろと…」


困ったことになりがちだよね?


そのまま、扉の前で、しばらく、入るか入らないかで押し問答していたら、もう一度扉がひらいて、そこから、小さな顔が、ぴょいぴょいと五つ、こっちを覗いた。


「ぷぴ!

 っぴぴぴ!」


「どうした、はやく、こい。」


ブブは通訳してくれたけど。

今のは、通訳されなくても、なんとなく、分かったな。


こっちを見ている精霊たちは、老人も、若者も、子どもも、いた。

この精霊も、仲間たちと郷ごと、こっちに来たのかもしれないなって思った。


ブブは、精霊にむかって、ぷぴぴぴ、っと何か言った。

すると、精霊たちは、互いの顔を見合わせて、しばらく、何か話していたけれど、ぴょい、とひとり、扉からこっちへ飛び出してきた。


「ぷっぴ。ぷぴぴぴ。」


「そうか。

 じゃあ、ここで、いい。」


ブブの通訳を聞いてちょっとほっとする。


精霊は扉のほうをむくと、なにやら、口笛で合図した。

すると、鍋やら食器やら、いろんなものを抱えた精霊たちが、ぞろぞろと、扉の中から、飛び出してきた。


「え?

 なに、あれ?」


「ぱーてぃ!」


「パーティ?」


彼らはどうやら、僕らのためにパーティを開いてくれるつもりらしかった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ