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62-また会おう、ライティアン。

 世界は一つじゃない。いくつもの異世界が存在する。俺はその異世界を自在に股にかける言わば異世界ヒーローだ。それらをミックスしたって、誰に文句を言われようか。


『重力編集スキルレベルアップ。重力場偏移、異常グラヴィティエリア収縮』


 天を仰ぎ、頭上に広がる圧倒的な光景に戦いの手が止まるライティアン。そりゃそうだろう。このぶっ壊れた光景はその世界に住む者にとっては日常的であっても、異世界人にしてみれば異常そのものだ。いや、異常どころの話じゃないな。天変地異レベルだ。


「あんたは強いよ、ライティアン。光速で動けるだけじゃなく、謎の光線まで撃ってくる。だから俺は、全力であんたを倒す」


 ライティアンはようやく視線を空から降ろして俺を見た。


「これは、何だ? 君がやったのか?」


「ああ。俺の召喚技だ」


 空を覆い尽くす禍々しく重い光を放つ渦模様。俺はグラヴィティワールドから巨大な月を召喚した。全天球を覆うほどにばかでかいマジャーリジャー月を。


 大地を覆う大空は消え失せた。空の向こうの端からこっちの端まで、その地形が見て取れるほど近くに巨大過ぎる月が浮かんでいる。いや、浮かんでいるというよりむしろ落っこちてきていると言った方がいいか。


 頭上には無限の空が広がっている。そんな儚い常識が打ち砕かれ、どっちが空でどっちが地面か、地べたを這いずり回る生き物としての上下の感覚が狂わされる異様な景色だ。


「なあ、ライティアン。光すら逃げられない何でも吸い込んでしまう重力の穴があるのを知ってるか?」


 俺は天空を覆い尽くすマジャーリジャーの月へ腕を築き上げてライティアンへ最後通告を告げた。


「……ブラックホールか?」


「そうだ。でもな、あれは実は穴じゃないんだ」


『荷重力偏移能力発動。超重力場生成判定成功』


 イングリットさんの声でヴァーチャライザーが囁く。俺のリアルワールドも、そして俺自身も、イングリットさんの妄想の産物だ。ヴァーチャライザーが彼女の声で喋るのも当然のことだ。


 イングリットさんの囁き声に反応するように、俺とマジャーリジャーの月の間に真っ黒い空間が渦巻く。


「超重力天体のパワーが光も時間も捉えて離さないから、外部からの観測者には何も見えない真っ黒い円がそこにあるだけなんだ」


 自分に降りかかる絶望的な未来を予感したか、ライティアンが初めて防御姿勢を取った。だがそれももう遅い。遅過ぎる。


「ブラックホール内部からは外はどんな風に見えるんだろうな。光も時間も超越した第六次元の光景を覗いてみな」


 ブラックホール発現。超重力場の見えざる手がライティアンを鷲掴みにした。


 光の輪郭を持った異世界最速の存在は一瞬だけ抵抗する素振りを見せたが、暴れ狂う時間の流れの中ですべてを悟ったか、やがて身体の動きを止めて穏やかな表情を見せた。


 もうすでに俺とライティアンとに流れている時間は違う。超重力場は光はおろか時間すらも捉えて捻じ曲げる。決して離されることのない時間は急な坂道を転がり落ちるボールのようにぐんぐん加速する。俺から見れば瞬き一つ分の時間でも、ライティアンは膨大な時が流れ去ってしまった虚無感を味わっていることだろう。


 言ってしまえば、ライティアンは時空の異世界に囚われた異世界人だ。ブラックホールの中心と言うべきか、それとも底と表現すべきか。光と時間の向こう側に墜ちるまでどれだけの時空の旅になるのやら。


 ブラックホールに墜ち行くライティアンの直立不動の姿はまだ見えるが、あいつはもう何年も、何十年も未来に行ってしまった。もう俺のことなんて忘れてしまっただろうか。相対的に、俺はあいつにとって何十年も過去の事象になるのだからな。


「また会おう、ライティアン。次は正統なファイトでやり合おう」


 この声が届くか、ライティアン。いつかは、はるか未来で聞こえてくるかもな。


 ライティアンの姿が見えなくなり、俺はブラックホールを閉じた。ライティアンは時空の異世界へ行ってしまった。ヴァーチャライザーでいつかまた会える日が来るだろう。


 くるり、振り返るとブラック・カナタがそこにいた。一千回以上異世界転生転移を繰り返すこいつもまた、時空の異世界人と呼べるだろう。


「俺が勇者カナタだが、何か用か?」


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