61-帰ってくるなりこの扱いかよ。
光が音を奏でる。それは鋭く暴力的な効果音なはずなのに、どこか清々しく透き通ったSEのように耳にこだました。眩しい光が爽やかな音楽を歌っているようだ。
ライブラリーワールドからファンタジーワールドへ無事転移した俺を迎えてくれたのは、お互いをぶっ壊そうとぶつかり合う力と力、切り刻もうと削り合う技と技だった。力の光が轟音を立てて、光の技がきらりと澄んだ音を聞かせてくれる。
ブラック・カナタの腕が圧縮された蒸気を弾き飛ばして力の限りに敵を打つ。ライティアンは両腕をクロスさせて熱い光をほとばしらせて敵を撃つ。『ブラック・カナタの冒険 第256巻』の表紙そのものの戦いの真っ只中に、俺は還ってきた。
『荷重力偏移能力発動。物理ダメージ無効』
戦闘中の両者の間に割って入り、右手でブラック・カナタの強力なパンチを制する。
『耐熱属性発動。すべての光学熱ダメージ無効』
そして左手でライティアンの真っ直ぐなレーザービームを無効化する。
「この俺を差し置いて」
右腕の圧縮蒸気砲はフルチャージ。ブラック・カナタのパンチの威力をそのまま打ち返してやる。
「勝手に決着をつけるんじゃねえよ」
左腕のスチームバンカーにはライティアンのビームの光学熱エネルギーが蓄積されている。そっくりそのままお返ししてやる。
「異世界最強の名前は」
黒マントが凄い勢いで翻り、宙空でガードの姿勢のまま後方へ弾き飛ばされるブラック・カナタ。真っ白いレーザービームに灼かれる寸前に身体を捻ってぎりぎり躱すライティアン。
「この俺以外には似合わない称号だ」
待たせたな、魔王軍絶対四天王、光の国の住人、ライティアン。そして前座ご苦労。選手交代だ、ブラック・カナタ。この脆くも儚いイングリット・ワールド最強の主役が誰か、全力で証明してみせる。
「帰ってくるなりこの扱いかよ」
弾き飛ばされたブラック・カナタが愚痴る。
「図書館で俺のことやお前自身のことも調べてきたんじゃないのか?」
「だからこそこの256巻でのおまえの出番は終わりだ。ブラックはブラックらしくそこでまだ本に書かれていない俺の戦いを見てな」
スチームバンカーをライティアンに向けて狙いを定める。
「こいつは俺がやる」
『メタ認知再構築能力レベルアップ。言霊再現能力発動』
律儀にも会話が終わるまで待っててくれたのか、空中で仁王立ちしていた光の国の住人は軽く拳を突き出してファイティングポーズを取った。まさしく正統派ファイターだ。魔王軍四天王にしとくのはもったいない。
「私は君たちどちらが相手でも構わない。久方振りに強い者と出逢えたのだ。さあ、行くぞ」
ライティアンが光速で動く。
光速は秒速30万キロメートル。一秒間ではるか遠く30万キロの彼方まで吹っ飛べる。どこの異世界の誰にも追い付けない最高速度だろう。だがしかし、間合い1メートルの超至近距離で殴り合うならば話は別だ。
速い方が勝つとは限らない。強い方が勝つんだ。
ライティアンの異世界最速の拳と俺の異世界最強のパンチが真正面から衝突する。ここから、さらに加速!
『ハイパースロースーパーハイスピードモード移行』
打ち出した腕の勢いに乗せて圧縮蒸気砲を放つ。超圧縮された蒸気によって射出された鋼鉄の拳がライティアンの身体にぶち当たる、その瞬間、光が再び音を奏でた。
時の流れを操作して俺以外がゆっくりとしか動けないはずのハイパースローモード、そして俺自身が最高速で時間再生を行うスーパーハイスピードモードの空間を、ライティアンは残像を残してスライドし、光の音を撒き散らしながらかなりの速度で圧縮蒸気砲の一撃をかわした。
さすがは光速のファイター。ハイパースローの時間の中でも速い。次に奴の姿を目にした時には、すでに両腕をクロスさせて今にもレーザービームを撃つ寸前だった。
この超接近戦でいきなり必殺光線技かよ。かなりの覚悟で戦っているじゃないか。ならば、俺ももっと速く、そして強くなる。
『ツヨイココロスキルレベルアップ。メタ認知再構築成功』
光の国の必殺レーザービームが撃たれた。
その時には、俺はすでに異世界召喚を終えていた。光対策の異世界召喚だ。こいつの力からは、いくら光そのもののライティアンでも決して逃れることはできない、はず。
必殺のレーザービームがクロスされた両腕の狭間から滲み出た。光子力の熱量で空気分子を分解し、弾き飛ばされた荷電粒子の渦が光る音を奏でながら俺に迫る。
しかし俺を灼き尽くそうとした光は、その軌道をあっさりと捻じ曲げてしまった。必殺の光線はまるで吸い上げられるように上空を目指して捻り上げられた。
「なんだと?」
ライティアンが光線の行方を、俺たちの上空を見上げる。そこには小さな黒点があった。




