58-セーブデータって、なんかゲームの話みたくなってるね。
「……うん。君の他にも何人ものタナカ・カナタと出逢っているよ」
「それな。いやむしろそうでなくっちゃ」
「えっ?」
「問題は、現時点で誰が一番先に進んでて、俺は他にキラースキルやレアアイテムの取りこぼしがないか、そこだな」
「スキルやアイテムって、まだ強くなるつもりかい?」
「ああ。俺はまだまだ強くなれるぜ」
呆れたようにかくんと肩を落として杖の先の不思議ランタンを揺らすパッソナ。俺のヒーローなシルエットとパッソナの不思議可愛い影が薄暗い書架通路に不安定な揺れを見せる。
「結末を知ってるっぽいブラックが一番先を行ってるんだろうが、あれこれ人の戦いにまで口を出すってことは、アレだ。きっと立て忘れたフラグとかがあるんだ」
俺のヒーローシルエットがちょうどブラック・カナタの勇姿に見えた。あいつは何を知っていて、どこまで戦いを進めていて、そして何を伝えたいんだろうか。
「ちょっと何言ってるかわかんないよ」
困惑気味に立ち止まったパッソナを俺は追い抜いて、歩みを進めたまま解説を続けてやる。いつのまにやら立場が逆転してるが、それはまあいい。今は喋り続けることが大事だ。思考に勢いをつけて一気にブラックの謎を解くべきだ。
「光の国のウルトラマ、あーいや、ライティアンは攻略法があるってことで俺の勝利は確定してる。てことは、だ。ラスボスの魔王戦とイングリットさんの謎を解くのとどっちを優先させるかってとこがポイントだな」
ブラック・カナタは異世界図書館でライティアンの攻略法を探してこいと言った。それは嘘だろう。本気で俺が苦戦するなら、あいつは未熟なヒーローの俺なんか見捨てて他の世界のカナタのところへ転移するはず。この異世界図書館に、今の俺が知らなければならない情報が眠ってるんだ。
「驚かないんだね、君は」
すたすた歩きながら推理を続ける俺の背中にパッソナが小さく言った。今度は俺が立ち止まって振り返る番だ。
「ん? なんで?」
「だって、自分以外にも自分と同じ存在がいて、しかも下手したら君は何番目かでオリジナルですらないかもしれない。君の存在意義が怪しくなってくるじゃないか」
「そうか?」
他人のアイデンティティの優先順位なんてどうでもいいこと気にするんだな、この子は。
「昨日の自分の方が価値があるとか、あしたの自分の方が一歩先を行ってるとか、そんなの現在の俺自身には何の因果もないじゃないか。昨日も今日も明日も全部違う俺だ」
暗闇のフードの奥でどんな顔してるか見えないけど、わかりやすくわからないと答えてくれるように軽く首を傾げるパッソナ。
「ブラックだろうが、俺だろうが、異世界召喚モンスターに負けそうなタナカだろうが、言うなれば全部が全部俺のセーブデータみたいなもんさ」
「セーブデータって、なんかゲームの話みたくなってるね」
「実際そんなもんだろ? ヴァーチャライザーを開発できずに未だにゲーム開発会社で毎日残業してる俺だって存在してるかもしれない。お互いの選んできた選択肢とセーブポイントが異なるだけで、結局は全部今の俺と違う俺自身だ。今この瞬間は俺がフォーカスされてるだけだ」
パッソナは自分の胴体を隠せるくらい大判な絵本を胸に抱えたまま、大袈裟に細身の肩をすくめて見せた。
「さすが異世界ヒーローやってるだけあって自分への考え方もドライだね」
「所詮はゲーマーだからな。プレイしてる自機は残機数を知り得ない。この一機でどこまで行けるか、だ」
「それで、君はどこまで行くんだい? ひと休みしたいとか思わない? ボクの部屋はもう通り過ぎちゃったけどさ」
小さな鈴を鳴らしたような笑い声を上げてそそり立つ本棚に肩を預けるパッソナ。すると壁のような書架の一部が奥に沈んで押し開かれ、本棚の通路よりも明るい不思議光がこぼれてきた。
「ここもボクの寝床さ。おいで」
するりと光の中に溶け込むパッソナ。書架に埋もれた隠し部屋の中からカノジョ、あるいはカレの声が響く。
「戦い疲れた勇者くん、ひと休みしよ」




