56-だからおまえは図書館世界へ飛んで行けっての
ブラック・カナタ、すでに戦闘準備完了といったところか。重力編集黒マントをばさりと翻し、光り輝くライティアンへ横綱土俵入りのように堂々と歩み寄る。
「よくここまでノーミスで進めたな。だが、こいつは別格だ。普通にやっても勝つことはできない」
ブラック・カナタが背中で語る。ライティアンは肩をすくめて軽く笑ったように見えた。
「どうだろうな。君が私に勝てないかどうか試してみるか?」
「それは俺の役目だ。カナタ、おまえは異世界図書館へ行け。こいつの攻略法を調べてこい」
ヴァーチャライザー・オン。俺のヴァーチャライザーが勝手にモードを変えていく。
「The D。おまえはイングリットさんを安全な場所へ連れてってくれ」
「ワ、ワタシが? というより、おまえは何者だ?」
いきなり現れたくせにテキパキと指示を出すブラック・カナタに当然の疑問を口にするThe D。俺に助け船の出港を要請する視線を投げかけ、イングリットさんを得体の知れない謎っぷりに畏れる顔を見せ、ライティアンにヘビに睨まれる寸前のカエルのような逃げ腰の姿勢で、ついに核心を突く一言を言ってしまう。
「いや、おまえら全員、いったい何者なんだ?」
正義の異世界ヒーローと同じ外見をして見てきたようにすべてを理解している黒衣の偽ヒーロー、ブラック・カナタ。絶対四天王として異世界最強のヒーローを二人も前にして余裕綽々な態度の光の国の住人、ライティアン。ただの低レベル召喚観測士のはずが魔王軍四天王の連戦に少しもびびらずむしろ楽しんでいる感さえある謎の美少女、イングリットさん。そして、異世界ヒーローの俺。
確かに、俺たちは何者なんだろうな。
肉体とも魂とも違う他次元のアストラル体でムンクの絵画「叫び」にそっくりなゴーストタイプのおまえがこの面子の中では一番まともに思えてくるから不思議だ。
「己は何者なのか。その解を求めて人は生きるものではないか、ディムィトゥル」
The Dことデミツルに答えを与えたのはライティアンだった。
「たとえ生まれた世界や姿形が違えども、行動をともにする仲間ならば無条件で信頼すべきだ。そこに善だの悪だの不安定な概念は不要」
ライティアンがその輝かしい左腕を上げた。沈黙のまま俺たちを眺めているイングリットさんへ。
行動をともにする仲間だからこそ、無条件で信頼して、そしてそのために戦うんだ。それがヒーローって奴だ。
俺とブラック・カナタはタイムラグなしで同時に動いた。ブラック・カナタはライティアンとイングリットさんの間に立ちはだかり、俺はさらにライティアンとブラック・カナタの間に割り込んで、ライティアンの光る左腕を掴み上げた。
光をむんずと掴むだなんて奇妙な感覚だが、そこには確固たる攻撃の意思が感じられる手触りがあった。
そうだ、と言うように小さく頷くライティアン。
確かに俺たちは生まれた世界も姿形も違う。そしてお互いが戦う理由も異なる。俺はイングリットさんのために。ライティアンは魔王のために。それはそれでいい。お前の言う通り、善も悪もなく、ただ戦うのみだ。さて、絶対四天王とやらの実力を見せてもらおうか。
「だからおまえは図書館世界へ飛んで行けっての」
あきれたようなブラックな声が背後から。いいじゃないか、と振り返ると、その瞬間にヴァーチャライザーが勝手に16トンコンボイトラックを再生させた。またブラック・カナタにヴァーチャライザーを不正操作されてしまった。
「おいちょっとまてよ!」
と、最後まで叫べなかった。光の国の住人である無敵のライティアン攻略法を異世界図書館で調べてこいと言ったな。ということは、ブラック・カナタはその攻略法とやらを知っているんだろう。知っているなら教えてくれて、どうせならヒーローと偽ヒーローらしく二人で共闘して倒せばいいじゃないか。
迫り来るトラックのヘッドライトを眩しく見つめながら俺は思った。
変なフラグ立てたんじゃないだろうな。ヒーローとヒロインを庇って一人で戦うだなんて、まるでそれは死亡フラグじゃないか。
16トントラックに弾き飛ばされ、光の国の住人が放つ眩しさから暗転し、視界が真っ黒に染まった。何も見えなくなり、何も聞こえなくなり、何も感じなくなる。
やがて、ジジジっとガス燈が仄暗い炎を灯す音がかすかに聞こえてきた。
異世界転移完了。異世界図書館へ。




