54-きーたぞわーれらーの、ウルトラm
ここに来てようやく魔王城が墜落し始めた。おそらく魔王が棲む城として最大の畏怖であっただろうその破壊の象徴も地に堕ちる時が来たんだ。
かつて城だったそれは完全に横倒しになっていた。俺の七連続インパクトが基礎部分から天辺まで貫通して、文字通り完膚なきまでに破壊し尽くした。四天王最高戦力と謳われた二本の巨大砲身も無残に折れ砕けて、もはやその暴力的な面影は微塵も見られなかった。
俺に投げっぱなしにされた東京ドーム一杯分の巨大な建築物は大地の支えを失ったせいか構造バランスを崩してしまい、膨大な自重に押し潰され、そして容赦のない重力に引かれて、雑巾が捻れて搾られるみたいに形を崩して墜落していた。
そんなかつて魔王城タンクであった瓦礫の塊へと光速で吹き飛んだ絶対四天王光の国の住人。ミサイルみたいに光が突入した瞬間に魔王城全体が震えて見えて、光速の摩擦からかあちらこちらから炎が吹き上がった。
四天王戦の四番手、しかも絶対四天王なんて呼ばれるくらいの奴だ。この程度で終わるはずがない。圧縮蒸気砲で光に触った不思議な感触は腕に残ってはいるが、それで奴にダメージが通ったかどうかすらわからない。そもそも光にダメージを与えることができるのか?
四天王戦ラストバトルはまだ続くだろう。かなりの強敵だ。相当激しいバトルになる。この隙に、イングリットさんを安全な場所へ避難させておこう。The Dの奴にはついでにイングリットさんのボディガードをしてもらうか。
強烈な光の筋を漏らしてぼろぼろと炎と瓦礫を吹きこぼしながら墜落する魔王城を横目に、俺はイングリットさんのいる森の外れに降り立った。
「カナタ! もう終わっちゃったの?」
何気に呑気なことを言ってくれるイングリットさん。何かに期待したような笑顔でもう完全に観戦モードだ。
「おい、カナタよ。きらっと一筋の光が見えた気がしたが、あれってまさか……」
The Dが俺とイングリットさんとの間に割って入る。一戦終えたヒーローと観戦モードのヒロインとの再会の邪魔してくれるなよ。
「ああ、見えてたか? ヒトのカタチをした光マンだった」
二人とともに崩壊魔王城へ振り返る。魔王城はまだ筋状の光を放っていた。まだ光ってるってことは光の国の住人もご健在ってことだろうな。
「あれって、たぶん四天王最後の一人の?」
「そうだ。光の国の住人と名乗る異世界人だ」
一際大きな崩壊音が大地を、森を、城壁を、城下町を、俺たちを揺るがした。ついに魔王城は陥落した。
あの大崩落の爆心地に四天王最後の一人と魔王がいるはずだ。そいつらを倒せばめでたくミッションコンプリート。しかし、その最後の一人ってのが超厄介な相手っぽい。
「光の国から僕らのために、きーたぞ、わーれらーのって奴?」
「そこまでは知らん。何だそれ?」
The Dが首を傾げて答える。いや、知らなくて当然だ。むしろ知ってたら困る。光の国からやって来たとってもウルトラな一族の一人が敵だなんて。さすがにウルトラヒーロー相手に戦うのは異世界特撮ヒーローとして気が引ける。
「あたしそれ知ってる」
意外な答えがイングリットさんから返ってきた。えっ? と驚いて振り返る俺とThe D。
「きーたぞわーれらーの、ウルトラm」
「いやいや、それ以上言うな」
諸々の事情でそれ以上続けちゃいけないよ、イングリットさん。
「イングリットさん、この歌が何の歌か知ってるのか?」
イングリットさんは当然のことだと言わんばかりに真っ直ぐ頷いた。
「うん。知っている。ウルトラm」
「いやだから言うなって」
きょとんとした顔で俺を見つめるイングリットさん。The Dも何が問題か理解できていないようだ。
「なんでイングリットさんが俺の世界の歌を、異世界の歌を知ってて歌えるんだ?」




