53-おもしれえ。
光の国から、僕らのために。
ふと、そんな勇ましくもポップなフレーズが頭をよぎった。
このヒトのカタチをした光がThe Dの言っていた絶対四天王の光の国の住人だ。そう認識した瞬間には、奴はすでに俺の目の前に仁王立ちしていた。
そして、来たぞ我らの光の国の住人はノーモーションで光る拳を突き出した。まさしく光の速さで。
速いっ、と脳裏に言葉が浮かぶまでの時間。そんな最短の時間でも俺の両腕は反応してくれた。ヴァーチャライザーのハイパースローモードを駆使しても光の国の住人のパンチは速く動いたが、両腕をクロスさせる俺のガードの方がそれをわずかに上回ったようだ。
強力なLEDライトを間近で照らされたような、熱を感じない真っ白い光がクロスした俺の腕に突き刺さる。ガードした腕の隙間から漏れる光に異常な圧がある。こんなに眩しくて、そして重い光があるなんて。
光のパンチに腕のガードが強力な磁石に反発するように弾かれ、俺の身体は凄まじい初速ではるか後方へと吹き飛ばされた。
重い? 光に殴られた?
ものすごい勢いで遠ざかっていくヒトのカタチをした光のシルエット。あのまばゆいボディは光の粒子で構成されているのか。物理ダメージこそ無効化されているが、確かにあの光に殴られた感触があった。ガードした腕に残るずっしりとした重みと反発する圧力。光が質量を持っているとでも言うのか。
「おもしれえ」
光の速さで物理攻撃を仕掛けてくるなら、こっちは時間を超越した速さできっちり殴られた分だけ殴り返してやる。光と時間、どちらが強いかぶつけ合おうじゃないか。
絶賛吹っ飛ばされ中の俺は空中でくるりと姿勢を変えた。吹っ飛ぶ勢いがあり過ぎてそれだけで軌道が変わる。空中から滑空するように地面へ向けて墜落を始める俺の身体。重力編集コートをばさり翻し、迫り来る大地へ両脚のけづめブーツを突き立てる。くわっと開かれた蹴爪が大地をしっかりと噛み、もちろんその程度では奴の攻撃のパワーをかき消すことは出来ず、ばきばきと樹々をなぎ倒して、森を引き裂くように地面に二本の深い溝を掘り上げた。
隕石が水平落下したように地面に二本の傷跡を刻み、ようやく俺の身体は静止した。クロスガードした両腕を解き、蹴爪ブーツで大地に刻んだ爪痕から立ち上がる。割れ避けた森からくいっと空を見上げれば、はるか遠くに光り輝く人影が見える。少し斜に構えたような余裕の立ち姿だ。
光の速さで連続攻撃を仕掛けてくる気配はない。宙空にノーガードで立ち、俺のリアクションを待っている。そんなところか。
ターン制バトルをちゃんと心得ているぞって余裕が見て伺える。さあ、君のターンだ。存分に実力を発揮して見せろ。奴のヒロイックな立ち姿がそう語っている。
ならば、遠慮なしに全力で殴るのみ。俺のターン!
左手首に巻きついた時間操作スマホの画面をタップ。俺にかかる時間だけを巻き戻す。それも倍速で。この際だ。実験させてもらう。光の速度で吹っ飛ばされた俺を、倍速で時間を巻き戻したら光の速度を超えられるのか。光と時間、どっちがすごいか勝負だ。
時間操作スマホの光る画面をスワイプすると世界が一気に圧縮された。視界の真ん中、光の国の住人が立ちはだかる空間が縮小され、空間が引き伸ばされたようにその周囲が拡大される。しかしそれも一瞬だけ。すぐにそれは裏返り、視界の端がぐんぐん収縮して光の国の人が思い切り大きくなる。
「グレイトフル・スチームパンク・カナタ・パンチッ!」
光速の倍速で巻き戻る時間にさらにスチームのエネルギーを乗せて、ありったけの一撃を一切の遠慮も忖度もなしに撃ち出してやる。
光の人が間近に迫り来る。その驚いたような顔がはっきりと見えた。スチームバンカーが熱く唸り、圧縮蒸気砲が高らかに吠えた。俺の渾身のパンチが光を捉える。
それは水を殴ったような感触だった。確かにぶち当たった手応えはあるんだが、硬さのような物理的な抵抗はない。ぱっと光の渦が飛び散るように弾けて、後方へものすごい勢いで吹き飛んでいった。
このパンチで奴の正体がわかったような気がする。光の国の住人は考えられないくらい高密度に集まった光の塊だ。触れられるぐらいに光の粒子が集合して、それが意思を持って蠢いてヒトのカタチを成しているんだ。
絶対四天王である光の国の住人相手にどう戦ったらいいか。迷う必要なんてなかった。相手が光であろうと触れられるということは殴れる。そして殴れるということは、勝てる!
俺の必殺の一撃を食らった光の国の住人は一筋の光の矢となって、横倒しになり墜落しつつある崩壊魔王城にさらなる大穴を開けて突っ込んでいった。




