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俺が勇者カナタだが、何か用か?  作者: 鳥辺野 九


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52/69

52-ハイパースローモード解除。

 限りなく停止に近いハイパースローな時間の狭間にて、内部から崩落音を轟かせて浮き上がった魔王城タンクの底に、俺は渾身の七発の衝撃を撃ち込んだ。


 カナタ・インパクトの衝撃音が未だに鳴り止まない森にはもはやただのギャラリーと化したThe Dの姿と、いつからそこにいたのか、イエローのパンクヘアーを風に振り乱したイングリットさんがいる。


 何故、ここに彼女が立っているんだ?


『ハイパースローモード解除』


 ヴァーチャライザーが俺の耳元で囁く。やっぱり、イングリットさんの声だと改めて気付かされる。


 そして時間制御は解除されて、まず一撃目の破壊が速やかに始まった。


 魔王城の土台基礎の部分はあまりに広大過ぎてただの岩盤のように見える。そこへぱしっとヒビが走り、隕石が衝突したかのようなクレーターが一瞬でえぐれた。大音響で衝撃波が周囲に飛び散って、ばりばりと振動する城の躯体と緑の森、地面、そして空。


 二撃目。


 間髪置かずにクレーターの中にさらなるクレーターが現れた。分厚い岩盤はさらに大きく深くひび割れて、砕け割れたかけらは浮かび上がり、あるいは沈み埋もれ、連続する破壊音が二段構えのクレーターに反響する。


 この時点で、俺は四天王三戦目の圧倒的勝利を確信した。


 三撃目。


 俺のインパクトはまだまだ止まらない。魔王城の底は割れ、砕け、二段になったクレーターにさらに大きな穴が穿たれた。今度のインパクトはついに魔王城の底を貫通して、大きな破片や瓦礫を道連れにして内部にめり込んでいく。まるで真っ黒い穴に落ちて飲み込まれるように。


 想像していた結末と目の前の現実があまりにもかけ離れていたのか、The Dがまさしくムンクっぽく両手を顔に添えて叫び声を上げていた。


 四撃目。


 靴下を内側にくるりとロールするように、破壊のインパクトは魔王城の外壁をも巻き込み始めた。ただこの靴下はとてつもなく巨大で、そして頑丈だ。決して柔らかくない外壁にばきばきと深い亀裂が刻み込まれ、城の外角全体が独立したパーツとして揺れ動き、内側へと窄んで見えた。


 イエローのパンクヘアーを破壊の突風にオールバックにして両腕を高く掲げるイングリットさん。その顔は期待に満ち満ちた笑顔だ。


 五撃目。


 爆発的な破壊の流れが一気に逆流した。外側に広がっていた破壊が反転して内側に攻め進む。復活した重力が魔王城全体を一回り小さくぎゅっと圧縮したように見えた。内部崩壊が進んで巨大な躯体を支える強固さがぶっ壊れたんだろう。縦横無尽に走り回ったひび割れさえも瓦礫同士がお互いに押し潰し合う崩落の嵐に巻き込まれて、がちがちにせめぎ合いぴったりと埋まっていく。


 俺はファイティングポーズを解いて、イングリットさんが待つ大地へと優雅に舞い降りようとゆっくりと拳を下ろして重力編集コートを翻した。


 六撃目。


 一際大きな破壊音が鳴り響いた。人間で言うならば背骨に当たる区画が分解された音だろう。異世界最高出力のエンジンが生み出す熱いエネルギーを圧縮蒸気砲がこの世界で最も破壊的なパワーに変えて俺のパンチに乗せる。その一撃はとてつもなく突進力があり、そして重い。それに加えて城そのものの自重がのしかかり、内部が崩壊した魔王城はついにくの字に、いや、もはや「く」を超えて「W」の字に折れて、そこに威厳すら感じられた輪郭は完全に崩れ去った。


 魔王城の内部で大爆発が起きたのか、あるいはこれから起こるのか、城の躯体に刻まれたひび割れから光が漏れ始めた。


 七撃目。


 身体の底から頭のてっぺんにかけて破壊的なパワーが貫通して、それ自身の凄まじい自重に形そのものが歪み、無残に崩れ、重力に引かれて今にも地面に叩きつけられそうなその塊。その変わり果てた姿を見て、それがかつて圧倒的な戦力を誇る魔王の居城だったと気付く者はいないだろう。魔王城の天頂、二本の巨大砲台だった尖塔の間が盛り上がり、ついに俺が放ったパンチが城を貫いた。


 固く握り締めていた拳を解き、どうせ誰にも聞こえやしないだろう轟音の最中に、俺は崩れ去る魔王城タンクに決め台詞を囁いてやる。


「俺が勇者カナタだが」


 と、城から漏れていた光のラインが方向を変えた。城のてっぺんに空いた大穴に向かって走り、光の塊となって飛び出した。


「何か用か?」


 決め台詞を言い終えた瞬間には、文字通りの意味で光の速さで飛び出てきた光源が俺の目の前に立っていた。


 それは、俺の背丈の二倍はあるヒトのカタチをしていた。


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