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俺が勇者カナタだが、何か用か?  作者: 鳥辺野 九


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48/69

48-魔王の目的ってなんなんだ?

 そして、一秒ほど遅れて魔王城戦車の砲撃音が俺の耳に届いた。一極集中させた雷みたいに発砲音そのものにエネルギーがこもっていて、鼓膜だけじゃなく全身が空気ごとびりびりと震えるほどだ。森の樹々も砲撃音の衝撃にぐわんと波打って枝葉をはらはらと落とした。


「すげえ射撃だな。俺じゃなかったらやばかったぞ」


 東京ドーム一杯分はある巨大な体躯が反動で後方に跳ね上がるほどの砲撃だ。攻撃力に能力値を全振りしたような射撃をここは素直に褒めてやろう。


 もし俺が受け止めていなければ。もしトラックほどもある大きな砲弾をひらりとかわしていたら。もし狙いが外れて俺を直撃しなかったら。


 そうっと後ろを振り返る。


 その射線上には雪と氷から解放されたばかりの城下町がある。イングリットさんがいる、その他大勢の人がいる大きな街だ。この砲弾が街を貫いたらどれだけの被害が出ることか。それはもう一発で壊滅だ。いや、待てよ。そういえば。


 溶け砕けた砲弾の残骸が地面に落ちる。どすんとめり込むほどの重さだ。魔王城の尖塔は二つあった。これを撃てる砲台がもう一門あるってわけだ。


「カナタ! もう一発来るぞ!」


「ああ、わかってる」


 The Dの声に向き直る。もう一本の砲身がほんの少しずつ角度を微調整していた。空中に仁王立ちしている俺よりやや下方へ、街に照準を合わせ、直撃させるつもりか。


「なあ、The D。こんな時に一つ聞いていいか?」


 魔王城の街を壊滅させるほどの砲撃に、俺の頭にふと疑問が浮かび上がった。さんざん魔王軍と戦ってきて今更だが、魔王は何のためにこんなことやってるんだろう。


「魔王の目的ってなんなんだ?」


「魔王の、目的? 何を急にそんなことを。それって戦闘中に気にすることか?」


 もっともなことを言うThe D。だが、違う。違うんだよ。四天王最高戦力との絶体絶命の戦闘中だからこそ気になるんだ。


『時間加算処理完了。時法操作算術スキルレベルアップ』


 相手が四天王最高戦力だろうが俺は勝つ。俺は異世界ヒーローにして勇者カナタであるからそれは歴史の決定事項みたいなものだ。さらなるレベルアップした俺に敵う者なんているはずがない。


『重力場偏移、異常グラヴィティエリア拡大。重力編集スキルレベルアップ。』


 しかしレベルアップ前の俺ならばどうだ。目の前の最高戦力の砲撃からイングリットさんを、街を救えるか? 答えはノーだ。時間操作、重力編集のスキルなくして巨大砲弾から街を救う方法なんて思い付かない。


 魔王は何故最初から最高戦力タンクを仕向けなかったのか。はるか遠く射程距離ギリギリから巨大砲身を轟かせれば、街の人間は誰一人攻撃に気が付く前に吹き飛んでいるだろう。後には瓦礫の山と、傷ひとつない俺が立ち尽くしているだけだ。それだけで魔王軍の勝利は確定する。


 俺がさらにレベルアップして強くなるのを待っているかのように、魔王は異世界召喚モンスターを一体ずつ派遣していたとでも言うのか。いや、そうとしか考えられない。


 巨大砲身を光らせて魔王城タンクが次弾を発射した。


「ここら一帯の飛行物体の運動エネルギーを編集した。何度撃ち込もうと無駄だ」


 轟音を置き去りにして突き進む砲弾が俺の足元を通過しようとした瞬間、それは急激に進行方向を変えた。まるでそこから先の世界が折れ曲がったかのように、きっちり90度ベクトルが編集されて地面に向けて撃ち落とされる。砲弾にかかる重力の強さを編集して、さらにそれが影響する時間を膨大なものにしてやった。たとえ燃え盛る隕石だろうと羽根のように軽い小鳥だろうと、飛行物体はここから先の領域は一直線に地面を目指す。即墜落だ。


 大地に叩きつけられた砲弾は地面を盛大に割り砕き、樹々をへし折りばらばらと吹き飛ばし、土砂を派手に爆発させて宙に舞い上げた。宙を舞う土砂もすぐに運動エネルギーが編集し直されて地面に落ちる。


 放たれた砲撃音がようやく俺の耳に届く頃には、宙に浮いているのは俺ただ一人。大勢の人がいる街を背負うように仁王立ちだ。


「魔王に目的なんかないだろうな」


 The Dがさっきの俺の問いに答えた。そういえばこいつもいたな。The Dには運動エネルギー編集は効果ないか。宙に浮くは二つのヒーローの輪郭のみ。


「あえて目的を挙げるとしたら、それは破壊だな」


「破壊?」


「魔王がこの国を破壊しにわざわざやってきたわけではない。魔王の破壊活動の近くにたまたまこの国があったに過ぎない」


 真っ黒い城が不意に無限軌道を止めた。轟々と続いていた微振動が止んで、周囲は本来の森の静けさを取り戻したようだ。葉っぱの一枚も揺れる音がしない。本当に静かだ。


 The Dが魔王城を見やって言う。


「一人の勇者が魔王軍の召喚モンスターを退けているとは聞いていたがな」


「まあな」


「今やその勇者を破壊するのが魔王軍の目的になったのではないか」


 突如魔王城であるタンクの城門から砲台が現れた。門塔の天辺ががくんと折れ曲り砲塔となり、城壁に砲台の窓が次々と開けられ、するすると砲身が伸びる。回廊にはずらりと砲台が並んだ。


 魔王軍四天王最高戦力のタンクはまだまだやる気だな。そうこなくっちゃ。異世界最高戦力であるこの俺が実力の差ってのを見せつけてやろう。


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