49-戦車の弱点そのいちっ!
さらなる砲撃は続く。まるで夏を惜しむ花火大会の終盤に轟くやけくそ気味な連発花火のようだ。
「勇者カナタの前には」
数えきれない砲身があり得ないほどの火を吹いた。砲煙が周囲に充満して魔王城が煙に霞んでいる。その煙の幕を突き破って光る砲弾が迫ってくる。
「どんな攻撃だろうと」
砲身そのものと空気との摩擦で白く光る火球のような砲弾は空気を切り裂く音さえも飛び越えて、俺が展開するグラヴィティエリアに突入した瞬間にその軌道を直角に曲げて地面へと突っ込んでいく。
「無駄なんだよ」
一瞬タイミングが遅れて雷が爆発したような発射音が震える地面を、揺れる樹々を、荒れる空気を轟かせる。どかんと舞い上がる土煙もすぐに異常重力に引かれて落ちた。俺の前に俺を遮るものなんてありやしない。
「意味のある戦い方を見せてやるぜ」
俺は無意味な一斉砲撃を続ける魔王城タンクに拳を突き出し、くいっと親指を立てて、それをゆっくりと地面へ向けてやった。
「なあ、The D。おまえも四天王としてこの城にいたんだろ?」
「まあ、な。ワタシが魔王軍の四天王でいた期間は短かったがな」
東京ドームほどの大きさの魔王城との距離は200メートルってところか。これくらいなら時間を操作するまでもなく俺の一撃は余裕で届く。
「じゃあ聞くが、タンクのコクピットっていうか、操縦してる場所はどこかわかるか?」
霧に埋もれた森に佇むドイツの古城のようなシルエットのタンク。四天王最高戦力なだけあって、その砲撃能力は大したものだ。城の尖塔や門塔、城壁や回廊に至るまであらゆる場所に砲台を装備して、轟音が途切れることなく砲撃を続けている。
「タンクに操縦席などない。あいつは何にでも姿を変えられる巨大な岩石生命体。あの形で一個の生き物だ」
「マジで? そんなすげえ変な生き物がいる異世界もあるのか。行ってみたいな」
「おまえも相当に変わった生き物だがな。一戦ごとにいちいち強くなりやがって。そんな生命体見たこともないぞ」
「そりゃあまあ」
ぐっと腰を低く落として圧縮蒸気砲をぴったり脇を締めて構える。
「勇者カナタだからな」
魔王城タンクの二本の巨大尖塔が次弾装填が終わったか、また少し軌道修正するかのように角度が傾き、塔の先端に開いた黒点がぴたりと俺を狙う。
『圧縮蒸気砲充填120%』
右腕の圧縮蒸気砲と左腕のスチームバンカーが同期して熱く震える。よし。こっちもとびっきりの弾丸を装填完了だ。
どんなに異形で巨大な戦車だろうが、その基本的な構造は変わらないはず。だったら、その構造的弱点を撃つだけだ。
「戦車の弱点そのいちっ!」
『時間操作能力発動。ハイパースローモード移行』
巨大尖塔が再び火を噴く時、タンクに流れる時間と俺が支配する時間とはその速度と密度があまりにもかけ離れていた。
尖塔砲台に装填された巨大な砲弾の火薬が炸裂する。そのタイミングで俺はすでに尖塔の砲口を覗き込んでいた。ほほう、砲台の中はこうなっているのか。螺旋状のライフリングがない滑腔タイプの砲身か。砲身の奥はるか遠くに光るリングが見える。砲身と砲弾のわずかな隙間から見える火薬の爆発の光だ。
「それは、砲身そのものっ!」
当たり前の話だが、砲身が真っ直ぐでなければ砲弾も真っ直ぐ飛ばない。射撃軸にほんの少しでもズレがあれば砲弾の飛距離も貫通力も大幅にダウンする。
火薬の爆発で砲弾は砲身の中を滑るように推進する。砲身の中にあった空気がどんと押し出され、ハイパースローな生温かい風が俺の全身に当たる。空気の洪水は少しずつ強く、そして熱くなり、トンネルを突破する暴走トラックのような砲弾が姿を現わす。
さあ、四天王最高戦力タンク戦、そろそろ締めとこうか。
「グレイトフル・スチームパンク・カナタ・ダイレクト・パンチッ!」
砲口が真っ白い炎を噴き出した。しかしそれも一瞬で弾け飛び、真っ赤に燃える砲弾がついに登場する。その鼻先に勇者の一撃!
砲身を滑る摩擦熱でただでさえ激しく熱せられている砲弾に、その真芯を撃ち貫く猛烈な運動エネルギー。同時に時間操作、重力編集の力もねじ込んでやる。これで砲弾のベクトルは正反対に働き、圧縮蒸気砲のパワーを上乗せして砲身も中を逆走させてやる。
パンチの圧で熱膨張した砲弾は砲身をバナナの皮をむくように引き裂きながらハイパースローで逆進し、溶け出した金属の塊は戦車の攻撃の中枢部へと、本来なら外に噴き出すはずの火薬の爆炎とともに逆流していった。
これでまずは四天王最高戦力の攻撃力を粉砕してやる。しかしまだだ。まだまだ異世界最高戦力の攻撃は続く。
「戦車の弱点そのにっ!」




