第1話(6/8)
ええと、まずフロートの点の取り方は二つだ。
①相手の頭部にある核を破壊すること。
②相手を場外にすること。なお、基準はステージ周辺の水に触れるかどうか。
いずれにせよ、相手の当たり判定があるコア、グローブ、シューズに、同じく当たり判定のあるものをぶつけることで成り立つ。
で、ある以上は。
「目隠しなんて、試合にならないでしょう」
という当然の結論に至る。
そもそも目隠しをして成り立つ競技のほうがよほど少ないと思う。
フェンシングはもはや気配切りのようになるだろう。ボクシングはぶんぶん振り回すか、密着状態での攻防のみになるに違いない。あらゆる球技は空振りが普通になる。
「ゴールボールとか知らんの? ボールの中に鈴が入ってて、その音でプレイすんねんで」
「フロートでは成り立たないでしょう」
この宇宙空間にはなぜか音がある(ゲームなので)。
だが音は控えめで、ゲームのシステム音ばかりが響く。試合開始のカウントダウンとか、核を破壊したときの音とかに過ぎない。
「成り立たへん、か。プロとしての結論でええんやな」
「……はい」
圧をかけられてもなぁ。
最初期のVRが視覚をジャックするものだったのは偶然じゃない。それだけ私たちにとって視覚情報が重要だからだ。目に見える世界を、実在する世界だと認識するのが自然だからだ。
裏を返せば、見えないだけで存在しないようにすら感じる。
「ほな、俺がするわ」
運動会で使うような赤いハチマキが空中にポップする。光の粒子がまだ残る中、晩鐘さんはハチマキを掴み、自分の視界を遮るように頭に巻いた。
「ちょ、私が勝ったからハンデをつけるって話でしたよね?」
負けた側がハンデを背負うなんて、むちゃくちゃだ。
「ええやん。聴覚情報の素晴らしさってのを教えたるわ」
「……まぁ、いいならいいですけど」
無視界状態のはずだが(トリックを使ってない限りは)、晩鐘さんはしっかりこっちに顔を向けている。そして口を開く。
「カウント」
晩鐘さんの一言で、私たちは開始位置に戻される。距離は10メートル。仮に晩鐘さんが動かなくても、2秒もあれば安全に距離を詰めることができる。
(足音を聞く、とか?)
ゲーム内リソースを割き、聴覚を強化してるのは間違いない。
だとしても、せいぜい音が大きく聞こえるとか、早く聞こえる程度のことだ。フロートのスピードについてこれるとは思えない。
(シンプルに行こう)
カウント0の音の始まりと同時に、駆け出す。
晩鐘さんは動かず。
(待ち構えてる?)
どうでもいい。
私は右のハイキックを放つ。
これが通常の格闘技なら、無視界でもハイリスクだ。片足を取られたり、相手が暴れてぶつかったらコケるかもしれない。
しかしご存じの通り、フロートだとゴーストの体はぶつからない。それに私のコアがピンポイントで攻撃されなければ負けないのだ。
だったら雑に、遠い間合いで蹴りを入れればよし。
(──は?)
姿勢を低くして、晩鐘さんは私の攻撃を掻い潜った。
(タイミングぴったりじゃん!)
そのまま彼の右腕は私の胴体をすり抜け、内臓や骨を全部無視して、首を通り、頭部のコアを打ち砕いた。
慌てて反撃しようとしてももう遅い。相手はそのまま転がるように私の背後に回り込み、そうこうしている間にタイムアップだ。反撃が可能な時間を過ぎてしまった。
「いや~、集中切れてきたわ。いっぺんログアウトして飲んできていい?」
(そんな)
「こ、こんな酔拳(笑)野郎に……」
「聞こえとんで。──また炎上すんのやめてな?」
うるせー!




