第1話(4/8)
お酒の缶を片手に、明星晩鐘さんは語り始めた(どうかと思う)。
「知っての通り、俺はフロートのプロとして活動してたことがある。10年以上やな。そこそこのプレイヤーやった。世界大会でも1勝できてハッピー。せやけど限界も感じたし、マックスまでやったなって気がしたねん」
すごいことだ。
世界大会出場、すなわち世界16強に入ったということである。私がたどり着いていない景色をこの人は知っているわけだ(おかげで尊敬できる……はずだ。多分、しばらくは)。
「というのも、世界大会出場を目標にしてたねん。優勝なんて土台無理やと思ってたし。さっさと引退して、しばらくダラダラしてから、なんかやろうと思ってたんやけど……」
燃え尽きて、引退するのは珍しいことじゃない。プロゲーマーのセカンドキャリアは、ゲーム関係が多そうなものだが、ひっそりと消えていく人も多い。理由はいろいろ言われているけど……。
プレイヤーとして勝負することが好きだからだと思う。プレイヤーとして戦い、勝つことが好きだから、それがなくなれば辞めてしまう。
晩鐘さんもそうだったのかもしれない。
「ニートの才能があってん」
すんごいドヤ顔で言われた。
私は正座を崩した。なんかもういい気がした。
「これはもう向いてると思うたね。なんでも何もしないと危機感やら罪悪感やらいろんな感情が出てくるらしいけど、俺にはまったくなかった。そもそも自分の貯蓄を食いつぶしてるだけやし、身内の恥云々も、そんなん言うなら絶縁してくださいって感じやったし。そんなわけで酒飲んで、競馬して、楽しく過ごしてきたんやけど、ついにじい様が動いたわけよ。あ、オーナーの暮雪じい様な。怒り心頭って感じで、この際仕事は用意したるから働け言うねん。で、コーチとかええ感じちゃう? と思って」
一息にべらべらしゃべると、ごくごくと酒をあおった。
「……あの」
「おん」
「コーチは難しい仕事ですよ」
「あ、もしかして怒った? いやディスってるわけちゃうで。どっちかっちゅうと、プレイヤーをどんな立場より重く見とるだけや。ほら、名将とか名伯楽とか言ったりするやろ? あんなん全部プレイヤーが偉いと思っとるから」
「……でもコーチだっていろいろやってるでしょう」
私もあんまり詳しくないけど。
「せやな。でも勝敗の責任は全部プレイヤーにある」
一呼吸おいて、
「そうでないと、勝った時の手柄を独り占めできんやろ?」と続けた。
……正直、言いたいことは分かる。私自身、コーチの存在に懐疑的な部分があって、これまでひとりでプレーしてきたから。
「ま、アイデアぐらいは考えたけどな。俺がキミを選んだって言うたやろ」
そういえばその話をしていたんだった。
「まず、腕前を確かめたい」
晩鐘さんが立ち上がった。
確かめる、という表現が正確なら、すでに私の実力を把握しているらしい。アイデアを考えたとも、私を選んだとも言っている。どのみち、彼がコーチになる以上、拒否権はない。せめて仲良くやっていけるように頑張ろう。
「ほな、とりま試合でええか」
「……ハンデは?」
フロートはリアルタイム進行のアクションゲームだ。はっきり言ってプロとアマの実力は雲泥の差で、それはプロと元プロでもあまり変わらない。
「ハンデなんていらんわい。平手ナシでええよ」
「……OKです」
私は勢いよく立ち上がる。正座をさっさとやめたおかげで、しびれはなかった。
ぶっ飛ばしてやる。




