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FLOOAT(フロート)  作者: Jake
第2章 2050年、世界大会TOP16

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第5話(5/8)

『カマル・アイマンは透明人間や』


 またわけの分からないことを。


 と、思ったが、時間がない。野暮なツッコミは控え、聞き役に徹する。なんて美しいコーチへの信頼なんだろう。あるいは、藁(わら)にも縋(すが)る思いと言うべきか。いや失礼か。藁て。


『ビジュアルアクセシビリティのひとつや。自分のアバターを透過設定してんねん』


 アクセシビリティはゲームの参加障壁を下げることを目的にしている。また、ゲーム体験を一義的なものにしないためでもある、と前に読んだ。格闘型(ストライカー)と射手型(シューター)というプレースタイルの違いは好例で、運動の得手不得手を理由にスタイルを決める人も多い。


 とはいえ。


『操作できます? 見えないアバターなんて』


『一人称のゲームやからな。身体感覚があれば問題ない。めちゃめちゃ気持ち悪いし、そもそも利点がそんなにない思うて不採用にしたねんけど』


『やったんかい』


 すげぇなコーチ。


『目に限ってはそうも言い切れへん』


 私の野暮なツッコミを無視し、晩鐘(ばんしょう)さんは続ける。


『人間は、自分の体でいくらか視線を遮ってる。カマルみたいに体を丸めて回転するような選手ならなおさらな。……下手すりゃほかにもいろいろ消してるかもしれん』


 確かに、自分の体を見下ろせば、胴体や手足が見える。いや、胴体や手足に視界が遮られている、と考えれば、利点は理解できた。まして、こちらの方が背が高いのだ。重複距離(オーバーラップ)に至らずとも、視線はカマル選手に向けて下がってしまう。


『俺らがやってるのは見えへん状況で、見えなくても強くなろう、や。ほんで相手は見える状況を増やして、目の強みをもっと出そうって感じやな』


 つまり、私が思ってるよりも有利を取れない。


『だから──』


 カウントゼロ。


 駆け出さず、待ち構える姿勢を取る。 


 コーチの言いたいことは分かってる。──目を潰す動きを徹底するしかない。私の体を透過していない以上、相手の目をこちらの体で覆ってしまえばいい。相手の視界を遮ったり、視界から消えたりする動きはさんざん練習してきた。

 

 今回はさらに、相手が自分の体を透明化している想定で、視界をコントロールする。障害物として使えるのは自分の体のみだ。あ、ちなみに私の体を透過している可能性は低い。表情や視線、筋肉の動きを見えなくするのは、さすがに不利が勝る。


(一手先に回らないとだめだ)


 特殊な戦い方の弱みが出た。相手が一般的な戦い方をすることを前提にしてるから、奇策を打たれると優位が薄れる。お互い様だ。カマル選手だって想定していた試合運びじゃないはず。


 私が、彼女以上にこの試合に適応するしかない。

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