第5話(5/8)
『カマル・アイマンは透明人間や』
またわけの分からないことを。
と、思ったが、時間がない。野暮なツッコミは控え、聞き役に徹する。なんて美しいコーチへの信頼なんだろう。あるいは、藁にも縋る思いと言うべきか。いや失礼か。藁て。
『ビジュアルアクセシビリティのひとつや。自分のアバターを透過設定してんねん』
アクセシビリティはゲームの参加障壁を下げることを目的にしている。また、ゲーム体験を一義的なものにしないためでもある、と前に読んだ。格闘型と射手型というプレースタイルの違いは好例で、運動の得手不得手を理由にスタイルを決める人も多い。
とはいえ。
『操作できます? 見えないアバターなんて』
『一人称のゲームやからな。身体感覚があれば問題ない。めちゃめちゃ気持ち悪いし、そもそも利点がそんなにない思うて不採用にしたねんけど』
『やったんかい』
すげぇなコーチ。
『目に限ってはそうも言い切れへん』
私の野暮なツッコミを無視し、晩鐘さんは続ける。
『人間は、自分の体でいくらか視線を遮ってる。カマルみたいに体を丸めて回転するような選手ならなおさらな。……下手すりゃほかにもいろいろ消してるかもしれん』
確かに、自分の体を見下ろせば、胴体や手足が見える。いや、胴体や手足に視界が遮られている、と考えれば、利点は理解できた。まして、こちらの方が背が高いのだ。重複距離に至らずとも、視線はカマル選手に向けて下がってしまう。
『俺らがやってるのは見えへん状況で、見えなくても強くなろう、や。ほんで相手は見える状況を増やして、目の強みをもっと出そうって感じやな』
つまり、私が思ってるよりも有利を取れない。
『だから──』
カウントゼロ。
駆け出さず、待ち構える姿勢を取る。
コーチの言いたいことは分かってる。──目を潰す動きを徹底するしかない。私の体を透過していない以上、相手の目をこちらの体で覆ってしまえばいい。相手の視界を遮ったり、視界から消えたりする動きはさんざん練習してきた。
今回はさらに、相手が自分の体を透明化している想定で、視界をコントロールする。障害物として使えるのは自分の体のみだ。あ、ちなみに私の体を透過している可能性は低い。表情や視線、筋肉の動きを見えなくするのは、さすがに不利が勝る。
(一手先に回らないとだめだ)
特殊な戦い方の弱みが出た。相手が一般的な戦い方をすることを前提にしてるから、奇策を打たれると優位が薄れる。お互い様だ。カマル選手だって想定していた試合運びじゃないはず。
私が、彼女以上にこの試合に適応するしかない。




