第5話(4/8)
ピンチのときのために禁酒しているといっても過言ではない。
どうも、明星晩鐘です。
1セット先制されたのち、ゲームは進んだ。現在のスコアは、野石研人……1セット、1点。それに対し、カマル・アイマン……2セット、1点。思った以上の差がついていない。想定では、野石君がリードしてる予定だった。
(なんやこれ。うわばみバンショーが聞いて呆れるわ。)
俺はうちの選手と違って分別があるから口にはしない。
舞台裏、寝っ転がってる野石君の横にいる。こいつはデバイスの中ですやすや寝てるだけに見える。全身が入るカプセル状のデバイスは、さすが世界大会だけあって最高級品だ。現実の感覚はシャットダウンされ、VR空間での刺激にしか反応はない。
それでも、都市伝説的に語られる貫通──、フルダイブ中でも現実の感覚があるという説を思えば迂闊なことは発言できない。人生をかけた大一番に臨んでいるのだ。万が一にでも、あくまでコーチにすぎない自分が邪魔をしてはならない。
(考えなあかん……)
選手の外付け脳みそとして機能しなくては。
サウンドアクセシビリティを使った戦術は刺さったり、刺さらなかったりだ。重複距離にも関わらず、だ。距離が離れているならまだ理解できる。それなら、野石君だって狙いを別にする。だが、狙い通りの展開になっている。お互いを視認できないほどの至近距離で戦いに持ち込めている。
音を捉えての戦いで、常に、一方的に、有利に立てるはずだ。
(しかも、まったく機能してないわけじゃないのが不気味やねんな)
重複距離に入ったとき、動き出しは研人君のほうが早い。間合いや姿勢を把握してるのは明らかにこっちだ。だから点が取れる。しかし、相手との差が少ないときもあり、そういうときは点が取られてしまう。──ちょうど今みたいに。
現在のスコアは、野石研人……1セット。それに対し、カマル・アイマン……3セット。次にセットを落とせば、こちらの負けだ。参ったね、いや降参なんてせんけども。
得点するときと、失点するときの差異はどこにある?
(複雑な理由じゃない気がする。相手は大胆な手が打てるタイプやし)
TOP16まで手の内を隠すのは、選手の基礎への信頼と、賭けに出ないと優勝できないという諦観から来てる。俺と同じ大穴狙いのギャンブラー思考。逆に言えば、盲点をつければどんな相手にも勝てる、と考えているはずだ。
重複距離と同じだ。
お互いに見えない状態なら、目以外に頼ったやつが勝つ。
相手も目に頼ってない?
だが、こちらが相手の視界を妨害しているときは勝ってる。
そうじゃないときは──、そうじゃないとき? なぜ相手の視界を遮らない? それは、その必要がないからだ。なぜ必要がないのか?
すでに視界がさえぎられているからだ。
『カマル・アイマンは透明人間や』
インターバルの10秒間で、すべて話さなくてはならない。マシンガントークはお手の物である。




