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FLOOAT(フロート)  作者: Jake
第1章 去年、予選で負けてから

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第1話(2/8)


 2049年9月15日(メールをもらった二日後)、大阪に来ている。


 大阪駅内にある渋い喫茶店は、今どき珍しく紫煙が漂っていた。ジャズ(多分そう。音楽には詳しくない)の店内BGMがかかっている。音量はかなり大きめで、店内がにぎわっていることもあり、話すには声を張るか、耳を澄ます必要がある。


「すまんね、わざわざ。古臭い考えかもしれんけど、直接会って話したかってん」


「いえいえ、お時間を割いていただいてるのはこちらですから」


 こっちは生活が懸かっているのだ。


 それに東京から大阪までリニアですぐだったし。気になっていた洋ドラの1話を観て、続きは見なくていいな、とウォッチリストから消していたらもう着いていた。


「たばこええか?」


「どうぞ」


 OSAKA OCTのオーナー・明星暮雪(あかほしぼせつ)はまさに好々爺といった風である。目じりには笑いじわがあり、白髪(はくはつ)は丁寧に撫でつけられている。レトロなブラウンのジャケットはよく見れば千鳥格子になっていて、パンツのセンターラインもぴしっとしている。


 暮雪さんは慣れた動きでたばこを取り出し、マッチで火をつけた(紙たばこもマッチもなかなか珍しい。大阪では多いのだろうか)。そっぽを向いて煙を吐き出す。


 そして向き直ると「孫の件では苦労をかけたね」と言った。


「まっ……さかぁ。あれは私が悪いので」


 さすがに、と思った。不可避の話題ですよね。


 お孫さんである明星夜雨(あかほしやう)選手に対する発言で炎上してから、もう数か月経っている。ただ、これが結構な物議を醸したのだ。当事者である私に対するバッシングもあり、開示請求でもしてやろうかと思ったほどである。


 とはいえ、私はともかく、明星一家が被害者なのは間違いない。


「その節は本当にご不快な思いをさせてしまい──」


「ほんまにそう思うてる?」


「もちろん!」


 私が悪うございました。


「曲解したメディアが悪いとは思ってない?」


「も、もちろん」


 私が悪うございました。……おおむね。


「ほんまに?」


「すみません本音を言うとまったく思ってません対戦相手の腕を褒めて練習環境が素晴らしいとチームを褒めて炎上するの意味不明だと今でも思ってます」

 

 言葉尻を捕らえる世の中が間違ってると思います。割とマジで。バーカ。


「野石選手はアレやな、ボケやな」


「そうでしょうか。どちらかと言えばツッコミ寄りだと思っているのですが」


「東京なんぞに置いとくんは惜しい人材や」


 面白さが加点対象になるらしい。競技シーンは実力主義でありつつ、人気商売でもあるので言われてみればあたり前か。こういう視点がなかったから契約更新は、いや、やめよう。ネガティブ禁止。


「ま、冗談はさておき」


 こほんと咳ばらいをして、暮雪さんが口を開く。


「細かい条件は、精査してもらうとして、うちのチームに加入して欲しいと思うとる。……これは夜雨の件とは関係ない」


 表情一つ変えずに言い切るあたり、元競技者としての貫禄を感じる。お孫さんの件と関係ないことはないだろうが、あまり気にならない。収入面の問題が残れば、働かざるを得なくなる。当然、その分練習時間が減ってしまう。


「ただ、ひとつ条件出してええかな?」


「なんなりと!」


 お金の心配なしでプレーできるなら、この際もうなんでもいいと思っている。いまさら職歴も資格もないゲーマーがまともに働くのはムズい。ましてこの私ともなればね(自分で言ってて悲しくなるが、事実だ)。


「君のコーチをこちらから指定したい」


 ちょっと意外な条件だった。優秀なコーチをつけてやっと期待できる、という評価に違いない。私の成績はお世辞にもいいとは言えないとは言えないから。


「かしこまりました。どなたでしょうか?」


「明星晩鐘(あかほしばんしょう)」


 と、おっしゃいますと。


「うわばみバンショー?」


「せやせや、そんな呼び名もあったな」


 オーナーのお孫さんの一人で、年齢は私より10歳以上離れていた(四十路(よそじ)ぐらいだ)。ちなみに、酩酊状態で公式戦に臨んで炎上したことで有名である(やばい人だ!)。


「安心しぃ! 今は酒より競馬にハマっとるらしいで! まったく無職のくせにええ身分よなぁ! はっはっは」


 はっはっは?


 豪快に笑うオーナーには悪いが、どう安心すればいいかはわからない。しかしお孫さんに対する発言は慎重にすべきだ(すでにやらかしたこともあるし)。あ、あとオーナーはオーナーで、現役時代から怒らせると怖い人として有名だったのだ。


 よって、ツッコまないのが吉。


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