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FLOOAT(フロート)  作者: Jake
第2章 2050年、世界大会TOP16

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第5話(2/8)

 フロートには、いわばステータス配分のシステムがある。


 運動、知覚、制御の三つの大項目と、その下位にある小項目にリソースを割り振ることで、アバターの性能を高めることができる。プレイヤーは予め設定した配分をロードアウトを用いて、試合に臨む。


 そして、試合中は配分そのものを変えることはできない。インターバル中に、次に使用するロードアウトを三つの内から選ぶのみである。


(だから、基本的にはマイナーチェンジになる)


 相手が射手型(シューター)だから、回避性能の高いスピード重視の配分にしよう、とか。相手も格闘型(ファイター)だから、運動性能を高くしてパワー勝負に持ち込もう、とか。


(ロードアウトを変えて、少しでも有利にしたい。でも配分が違うほど、練度は下がる)


 アバターの性能が変われば変わるほど、操作感は変わる。生身をスキャンしたアバターとはいえ、できなかったことができるようになったり、できたことができなくなったりするのは違和感が大きすぎる。


 でも、目の前の少女にとっては、大した問題じゃないらしい。


 小さな体躯、低い姿勢、長い三つ編み……動物的な印象を受けるカマル選手を中心に、2つのグローブが回転している。回転軌道も低く、足に引っ掛かりそうだ。相手の武器はこれで6つに。両手両足、そして回転する第三、第四の手。チャンピオンを想起させる多角的な攻撃をしてくるだろう。


『切替型(スイッチャー)の中でも、ここまで戦型を変えてくる相手は珍しいからなぁ。別のロードアウトをさっさと見れたのは重畳やね』


『前向きに考えればそうですね』


 贅沢をいえば、ずるずるタイミングを見失ってほしかった。カマル選手とコーチのどっちが作戦を考えてるのかは知らない。少なくとも、どっちかは晩鐘(ばんしょう)さんと同じギャンブラーに違いない。


『まだ1点取られただけやのに出してきよった。予選は手の内隠しとったあたり、俺らと狙いは同じかもな』


 晩鐘さん自身も同意見だった。


『なるべく温存して、ぎりぎりTOP16に進出する。危ない賭けが一番可能性がある──、世界の裏側にも変わった人がいるんですね』


『おいこら』


 カウントが始まったので無視する。なんとなく通信越しにも不満気なオーラを感じたが、無視する。呼吸を整える。ここは架空の月面で、アバターは現実の呼吸を模倣してるだけのまがい物なのだが、それでも深呼吸をすると落ち着く。


 私たちの脳は、ハックされやすくできている。


 カウント・ゼロ。


 一気に前に踏み込む。


 なにせ、距離が離れていて得することがなにもない。今は相手のほうが射程が長いし、近づいたから大幅有利ということもない。フィジカル差は大きくなったけど、散々それを覆してきた相手である。


(──勝機は重複距離(オーバーラップ)にある)

 

 カマル選手は申し訳程度に衛星を振り回し、牽制してきた。そんなものには取り合わない。フットワークで躱して、私たちの座標を重ねる。


 腰を落として、手刀でコアを狙う。自分のコアは無防備だが、ステップと頭の振りで避けきってみせる。


(取った!)


 ブレイクダンスのウィンドミルをご存じだろうか。逆さになって、両足を開いて回転するアレだ。……月で見るのは初めてだ。私の両手がどちらも弾かれる。発生したインパクトを、カマル選手は地面を支えに受け止める。


 地に這うように動いていたグローブが、跳ね上がり、私のコアを破壊した。


 その小さく、低く、それでいながら致命的な一撃を放つ姿は、なるほど、メディアの比喩表現もなかなかだと思う。


「蠍(スコーピオン)……」


 砂漠の小さくて、何よりも恐ろしい存在。


 野石研人(のいしけんと)……0セット、1点。カマル・アイマン……0セット、1点。

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