第5話_ROOKIE(1/8)
初日の試合は次で最後だ。
ウィナーズ初戦で勝ったおかげで、この試合までしばらく時間があった。おかげ様で予習はばっちりである。通信で晩鐘さんとダベる余裕がある。
『10歳やで、10歳。40年生まれってこっちゃ』
『人生2週目って聞いても信じますよ……』
相手はカマル・アイマン選手。
EMEAの選手で、まだ10歳の女の子だ。暗闇の広がる月面で、彼女の銀髪がきらきらと輝いている。しかし、どうだろう。妖精というよりは亡霊のイメージが先行する。本大会の注目株(私とは大違いだ!)なのに相対すると存在感が薄い。
小さいからだろうか。肩どころか肘ぐらいまでの背丈しかない。あまり嬉しくない特徴である。
『的が小さくてやりづらいですね』
『毎度のことながら、発言だけ切り抜くと終わっとるよなぁ』
そればっかりは仕方ない。プレイにおいて、年齢制限等は特にない。強いて言えば一部の大会で「未成年者は親の許可を取ってね」と書いてあるだけだ。例によって万人競技とかいう説教臭い理念に基づく。ま、年齢なんて関係ないからどうでもいいけど。
『最初からガンガンいきますよ』
『当然やな』
カウントが始まる。
これまで使ってきたカウンター主体の戦い方は本命じゃない。それでも勝てるという舐めプじゃなく、それでも勝てるぐらいの実力と運がないと、優勝まで至らないという判断があってのことだ。
ここまで、賭けに勝ってきた。
(もう一枚手札を晒して、賭け金を吊り上げる)
──カウント・ゼロ。
互いに中央に向けて走り出す。
そして両の手のひらで地面に触れる。低い姿勢で、私たちの視線が交差する。コアは高さ1メートル以下にある。すでに距離は50センチほどしかなく、相手の表情がよく見える。動揺の色はない。
(どう動く?)
低空姿勢同士で戦うことはほとんどなかったはずだ。
(──そのまま来るか!)
カマルは減速しなかった。私たちの体が、ゴーストの、当たり判定のない体が重なった。1辺が1メートルの正方形の中に、体はすべて収まっているような状態で、相手の姿は部分的にしか見えない。
(つまり私が有利だ)
音が聞こえる。
相手のコアは私の左の肩甲骨より奥、少し下にある──。左足を前に踏み込み、左手で、バトンパスを受け取るようにコアを弾く。そのまま走る。速さに訴え、手の届かないところまで行く強さを、今日知ったばかりである。
そして、1秒が過ぎた。
野石研人……0セット、1点。カマル・アイマン……0セット、0点。
振り返ると、カマル選手がじっとこちらを見つめている。感情は読み取れず、ただぼんやりと夜空でも眺めているかのようだった。
(ここからが、本番だ)
カマル・アイマン。サウジの天才。切替型──。




