第4話_INTERLUDE(1/2)
試合が終わった時、ケントは雄たけびを上げていた。試合中の印象は冷静で、動揺なんてしないヤツ、というものだったから驚いた。
だから、互いの健闘を称える握手をする際に訊ねてやった。
「そんなに、勝って嬉しいかよ」
「え? はい。だって──あなた、強いじゃないですか」
意味不明な質問をされた、という顔をしやがった。その目はしっかり俺の顔を捉えていて、反射している俺の表情はけっこうな間抜け面だった。こうも恥を晒したのは初めてだったが、もうどうでもよかった。
「強いやつに勝ちゃ、うれしいってか。そりゃそうか、そうだな……」
間抜け面になるのも仕方ない。あたり前のことを突きつけられたのだ。俺はバカだから、たまにあたり前のことを忘れる。リンゴは木から落ちる。人はいずれ死ぬ。勝てば嬉しい──相手が強けりゃ、なおさら。
スポットライトが勝者に光を浴びせるのを尻目に、壇上から離れていく。あの光は強烈で、目玉も皮膚も熱くなるのを知っている。その光や熱は、周囲から奪い取ってるんじゃないか。そう思えるぐらい暗く、冷えた通路に行く。
コーチが待っていた。
「負けたよ」
俺は期待を裏切った。てめぇの身銭を切って渡航費を出してくれたコーチにも、賞金を持って帰ると信じていた家族にも申し訳ない。
でも。
「わりぃんだけどさ、賞金が遠のいたとかよりさ」
ああ、最悪だ。
「俺は悔しい」
どんなことよりも、それが重要になっている。悔しいんだ、俺は。
「悔しいんだよな……こんな、たかがゲームでよ……」
負けたことも悔しいが、それ以上に。
目が合っていたのに。俺を見ていたのに。どこそこの、誰それ、なんて紙切れじゃなくて、俺を見ていたのに。正面から見つめ返して、ぶつかることができなかった。せめて、本当に強くありたかった。
こんな風じゃあ、やつの喜びに水を差しかねない。
こんな風なまま、やつの前に立ってしまったのが悔しくてしょうがない。
「……あなたは十分に強いよ」
見透かしたように、コーチは言った。
「世の中のくだらなさなんか、相手にならない。そんなのは私がなんとかする。だから、もっと強い相手に挑みなさい。何度でも。何度でも」
「……ああ」
「まだ終わってない。さっさと切り替えて次に備えるの」
コーチが次の対戦相手について語りだす。
この大会はダブルエリミネーションだ。負けてもまだ戦える。
(できれば、もう一度)
すぐにでも、ケントと戦いたい。今度は正面から目を見てやる。もっと早く、もっと自由に戦って、あっと驚かせてやる。勝って、大きな声で吠えてやる。強ぇやつに勝ったんだ、と世界に教えてやる。




