第3話(5/8)
野石研人……1セット、1点。対するモーゼス・K・O……0セット、1点。
現在、2セット目の最終ラウンド前のインターバル。
『予想の範疇やろ。面白いのはこっからやで』
『ですね』
もとよりでき過ぎだった。最速最短で来るのだから、カウンターで重要なのはタイミングのみ。攻撃後の隙がデカいから、別に速さは怖くない。タイミングを合わせればいいだけ。おかげ様で、まだ有利を保てている。
『こうなると、こっちから攻めたいところやけど』
『分かってますよ、何年やってると思ってるんですか』
『言うやん。ほな任せまっせ』
助走作戦は想定の範囲内だった。後ろに下がれば、距離が伸びるし、後ろに下がる時間もかかる。代わりに、瞬間最高速度が上がる。
(しかも攻撃のタイミングだ)
速度と攻撃力が発揮されるタイミングが完全に一致している。それに、今までの速度とは違うから、こっちもカウンターが合わなかった。急に一段速くなられちゃ、目が慣れてるのも逆効果になってしまう。
(キャパのなせる技だな)
フロートにおける選手性能のひとつに閾値がある。フロートでは、生身をスキャンし、アバターが作られる。運動能力や知覚能力も再現される。そしてゲーム内の100ポイントのリソースを配分し、アバターの性能をプラスアルファで強化する。
だから、小さな子供でも、マッチョな大人に腕相撲で勝てるようになる。その一方で、結局もともと筋肉がある人が一番強い──ように思える。だが実際は、そうはうまくいかない。使いこなせないのだ。
イメージは、車の運転に近い。素人が急にスーパーカーに乗ったとき、アクセルを踏むことはできるだろう。失神したり事故ったりするまではスピードも出て速い。だが、それだけ。
まして、フロートの狭いステージでは、場外のリスクも大きい。
(それでも、モーゼス・K・Oは全速で来る。どれほど人間離れした身体能力でも、使いこなせるからだ)
と、なれば奥の手も見えてくる。
ラウンド開始直後ふたつのことがほぼ同時に起きた。
ひとつめはもう一度カウントダウンが始まった。3から始まるそのカウントダウンは、モーゼスがフロートにおけるもっとも分かりやすい下剋上用のシステムを使ったのだ。
そしてもうひとつは、私はこの試合中、初めて最短で走り始めた。我ながらキャリアは確かなもので、モーゼスほどではないにせよ、スタートも加速もプロらしいレベルだ。
カウントはまだ2である。




