↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FLOOAT(フロート)  作者: Jake
第2章 2050年、世界大会TOP16

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/35

第3話(4/8)

 今、実況・解説席には微妙な空気が流れている。


「いやーこれは、その、どういうことでしょうね? 状況が呑み込めないのですが」


 実況担当のアナウンサーが、なんとも気まずそうに話を振ってきた。この場を繋ぐためだろう。言葉が詰まってしますなら、助け舟を求めるのは正しい。しかし、解説者として恥ずべきことだが、なんて解説したらいいのか私自身さっぱり分からない。


「ええ私もです。史上最速の称号を恣(ほしいまま)にし、競技者としても最速でTOP16に進出したモーゼス選手。1セットを取られ、追いつきたいはずの第2セット──」


 言葉を溜めて、そして私は続ける。


「──ラウンド開始からすでに30秒、モーゼス選手は1(・)歩(・)も(・)動(・)き(・)ま(・)せ(・)ん(・)」


 モーゼスはこれまでの試合とはうって変わって、その場から動かない。対戦相手の野石もこれには動揺したのか、動かない。


 両者のにらみ合いが続く。


 フロートインターナショナルゲームズ2050のTOP16の実況・解説を担う私たちだが、これでは実況も解説もなにもない。動いていないと繰り返す実況と、見えない狙いに対する推測を語るしかない。


「作戦、でしょうね。おそらくコーチの考えたものでしょう。モーゼス選手は競技歴が浅いですから──」


 モーゼス・K・Oは居場所なき天才と称された。


 もっと直接的に「国籍なき」と表現した海外のとあるメディアは大炎上した。だが、事実ではあった。この世界には、そこで生まれても、そこに住んでいても、決して国籍が得られない場所がある。日本で生まれ育った自分からは想像のできないことだった。今だって、その歪(ひず)みを理解してるとは言えないだろう。


(彼は法的には、どこの国民でもない。だから国際大会において、どこの国の代表にもなれない)


 モーゼス選手が短距離走を諦めたのも無理からぬことだ。


 たとえ誰よりも速くても、先に進むことができないのだから。


(だから、フロートに来た)


 本大会はAPAC(エーパック)やEMEA(イミア)、NCSA(アメリカズ)の三つの地域ディビジョンに加え、オンライン上の区分であるMETA(メタ)ディビジョンを有している。そして、その理由を「なんらかの理由で所属する国や地域、国籍を表明あるいは証明できないプレイヤーのため」であると運営は明言している。


「まさにフロートのビッグドリームを体現している選手ですね! 競技歴わずか1年弱でTOP16という実力。しかもMETAディビジョンを1位通過ですから」


「そうですね」


「それに対し、研人選手は競技歴10年以上のベテランです。初のTOP16進出! 先制している有利を守り切り、このチャンスをつかむことができるでしょうか?」


 実況が意気揚々と試合の構図を煽る。


 実況として組まされたのは、美形で有名なアナウンサーだ。発声は言わずもがな、言葉の確かさも感じるいいアナウンサーだと思う。だが、やはりフロートの捉え方は「あの明星夜雨(あかほしやう)がやっているタイトル」程度のものだ。


(誰もができる万人競技)


 いかにもな謳い文句を体現するプレイヤーが、本大会にもたくさんいる。でも、そうじゃない。彼らは己の強さのみを証明しに来たはずだ。


(彼らの強さを伝えるのが、私の仕事だ)


「……タイミングが分からないのが怖いですね」


「と、おっしゃいますと」


「モーゼス選手の強み、静止状態からの0.6秒での突進……これは99秒の間のいつでも可能な攻撃です」


 体勢が崩れていなければ、1秒あれば攻撃を成立させることができる。逃げ場がないフロートにおいて、そして1秒以内であればカウンターが成立するフロートにおいて、凶悪な性能である。


「この状況は、過去の試合でも見たことがありません」


 それだけ、野石が脅威なのだろうか。


「動いた!」


 ラウンド開始から45秒。


「モーゼス選手が動きました。後ろに! 後方のステージ端のギリギリに行きました! どういうことでしょう?」


「おそらく助走距離を稼いだんです」


 この私の推測はすぐに証明された。


 モーゼス選手の最初の得点によって。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。