第3話(3/8)
あり得ねぇ……。
だが二度あることはまぐれじゃない。あの野郎、俺に勝てるなにかを持ってやがる。
(問題は、それがなんなのか、だ)
心の声を聞いたかのように、凛とした女性の声が通信に乗ってきた。コーチの声だ。
『カウンターが得意な格闘型……近づいてくるなら上等ってことかもね。なるべく近くに留まりたくないな』
『ああん? 今までもそういうやつらをノしてきたろうが』
『なにか違う部分があるんだよ。よく観察して。点も欲しいけど、それ以上に情報が欲しい。せめて1点でも取って、ラウンド数を増やして』
ラウンド数を増やせ。
つまり、最悪1本取られてもいいってことだ。普段のコーチならまず口にしない言葉だ。一に前向き、二に前向き、俺に向かって来月の大会で優勝しろ、世界大会狙えるから、と言ったときのことを思い出す。
(『あなたには夢を見る才能がある。見失わないで』……だったっけか)
一攫千金までの黄金の道を、コーチは示した。こんな俺にもゴールはあるのだと示し、今、世界で一番強い16人というところまで来たんだ。
第二セット、最初のカウントが聞こえる。3、2……。
(俺は、スプリンター)
走るだけだ。
カウントゼロと同時にスタートを切る。だがほんの少しだけ速度を低くしている。到達時間が遅れるだけじゃない。相手を観察するための余裕が増える。
(これなら、見えるぞ──)
ケントは、はっきりとこちらを捉えている。何の遮蔽物もないんだから驚きゃしない。右手をへその高さに、左手を胸の高さに構え、頭はまるっきりのノーガード。
殴ってこい、殴り返すから、というメッセージ。
(上等だ。──カウンター狙いのやつへの対応なら知ってる)
射程圏内。
俺は今まで通り、まっすぐこぶしをぶつける、ように見せかける。
フェイントだ。ケントのコアに触れるぎりぎりで手のひらを開いて、動きを止めた。ケントが俺のコアを壊すから、今度は俺がカウンターを決めればいい。コアが壊れる音がする。俺がコアを壊した音だ──。
(──わざと頭を動かしやがった!)
普通なら自殺点だが、この距離、この状況ではまったく違う意味を持つ。逃げなくてはならないのはわかっていたが、間に合わない。飛びかかってきた野良犬を追い払うように、ケントが左手を払うと、頭の中でガラスが割れる音がする。
第二セットも先制された。
膝をついて右手を飛ばした俺を、ケントが見下ろしている。じぃっと、ただ生き物を観察するような目で俺を見ていやがる。
(見下してんじゃねぇぞ)
でも、負けてるのは俺だ。
視線を切って、スタート位置に戻るために歩く。放っておいてもゲームシステムの力で転移するが、車酔いみたいな気持ち悪さがあるから嫌いだ。走りにも支障が出るし。
『さすがに経験の差が出たね、駆け引きじゃ相手に分がある』
コーチが言う。相手のほうが強いと。
『あんたが、俺をここまで連れてきたんだろうが』
『そうだね。だから私が、君より先に諦めることは決してない』
『……作戦は?』
『ここで負けて、初日からルーザーズに行くのはきつい。駆け引きはしない。でも相手を駆け引きの土俵に乗せることはできる』
……わけがわからん。コーチってのはみんなこうなのか?




