第3話(2/8)
2050年、フロートインターナショナルゲームズ──TOP16の試合はすでに6試合分が終わった。同時進行している第7試合の結果はまだわからない。勝ったほうと当たることになるから気になるところだ。
もっとも、それは私自身が第8試合で勝利し、ウィナーズブラケットに進める場合に限るので、気にしてる場合じゃない。
幸い、先制点は私が取った。
「しゃっ!」
小さくガッツポーズをしたら、睨まれた。会釈して顔を背けるが、にやけてしまう。どうか誰も気づきませんように……さすがに無理か。試合の様子は公式チャンネルでライブ放送されていて、たいてい選手の顔をワイプで抜いている。
さて、インターバルは10秒。
『ナイスやな』
『ありがとうございます』
晩鐘さんのコーチングが始まって、1年が経ったが、こうもハマるのは珍しい。思えば、APAC予選も波乱万丈で、実況・解説でいじられたこともある。思いついてもやらないのは、うまくいかないって分かるからだ、と言われたときは効いた。
『相手が手を変えるまでは、そのままでええよ』
『分かりました』
10メートル先、宇宙を背景につま先で地面を蹴っているのはモーゼス・K・O選手。本大会初出場の大型ルーキー。年齢はこの間二十歳になったばかり。ジャンプスーツは肌に沿うような形にマイナーチェンジしており、肉食獣みたいな筋肉の形がよく分かる。
ごりごりのフィジカルエリートで、聞けばもともと短距離走者としても期待されていたとか。国籍がどうのとかで大会参加が難しかったとかなんとか。まぁそんなことはどうでもいい。
(速過ぎる)
平均の2倍どころか3倍近い速度でこちらに迫ってくる。時速60キロで走る人間が、わずか10メートル先から殴りかかってくるのだ。逃げようにも、幅2メートル、後ろの端も2メートルとなれば限界がある。
もはや、ちょっとしたホラーである。
試合前、晩鐘さんと野球とどっちがマシか、みたいな話をした。野球なら打者と投手の間は18.44メートル、ただし球速は時速160キロと倍以上。いやしかしこっちは相手がデッドボール狙いで来るわけで、いやでもゴーストに当たり判定はないし……と収拾がつかなくなった。
(落ち着こう)
カウントが始まる。
3・2・1──ゼロ。
1秒で決着はついた。
モーゼス選手は正面からの最短最速コースを選択。さっきと違ったのは、二歩目の踏み込みだった。私から見て右手側に深く、低く切り込み、そして勢いそのままに、独楽のように体を回転させ、指先で弾くように私の頭の中、コアを壊した。
私はへその前あたりに置いていた右手で、反射的に反撃した。殴るというよりは後ろ手に払いのけるような動きは、肩や腕の脱力から生まれる柔軟性と速さをもっていた。高さ、いやこの場合、低さに関しては、右膝を抜くように曲げて相手に合わせた。
コアの壊れる音、ガラスが割れる音が、ふたつ響いている。
相手の得点1秒以内に得点すれば、相手の得点は無効……カウンターの成立である。
これで2点先取。
試合時間はこの時点で2秒ぐらいと、インターバルの10秒よりもはるかに短い。1ラウンド99秒の中、異常な試合体験だ。
(初見だったらまず無理だったな……予習する余裕がある初戦でラッキーだったかも)
ともあれ、7番勝負の1本目は、私のものになった。
そして二度目のインターバル。
『いやしかし、くじ運最高やったな』
軽く息を吐きながら、晩鐘さんは言葉を続ける。
『まさかサウンドアクセシビリティを温存できるとは思わんかったわ』
『まったくですね』
幸運に恵まれた初戦、絶対に落としたくない。




