第3話_SPRINTER(1/8)
2050年10月8日土曜日。
大阪の、夢洲という場所にいる。
ここのことはガイドから聞いた。要するに、ごみでできた人工の島らしい。マジのマジで驚いたね。だって、ここは綺麗すぎる。
ごみなんてひとつも落ちてない。気持ち悪いぐらい落ちてないから、人がいないんじゃないかと思った。でも見渡せば小ぎれいな格好の連中があちこちを歩いてる。枝葉をせん定してある街路樹、落ち葉を回収する自動ロボット、どこまでも作られた世界だ。
中に入ることすらできない高級ホテル、金を捨てることをいとわないやつらのためのカジノ、高いだけの酒を出せば立派だって思い込んでるバー……なにもかもむかつく。
ここは俺の場所じゃない。
(出ていけって言われてる気分だ)
だが、違う。呼ばれてきたのだ。いや違うか。やつら、俺を呼ばざるを得なくなったんだ。だって俺が強いから。
世界大会TOP16、DAY1だ──ついに来てやったんだ。
俺の名前はモーゼス・K・O。ディビジョン大会をもちろん1位で通過してやった。なんでもディビジョン大会ごときを目標にしてるやつもいるらしいが……俺からすれば通過点に過ぎない。
ある程度勝てればいい、なんて浅い動機だ。別に死ぬわけじゃないし、なんて聞いたときには腸が煮えくり返った。そんなお遊びのやつらに、飢えを知らないやつらに、負けるはずがない。
まして、初戦の相手は無名の日本人である。
月面で向かい合っている。偽物の月にはいくつもクレーターがあって、そのうちの一つに水がはってある。そんな月の溜め池に浮かぶ細長いステージで、殴りあう。いや、一方的に俺が殴る展開になる。
相手を見れば骨格はよくて並。プロ歴は長いらしいが、裏を返せばそれだけ勝ててないってことだ。何年も何年も負け続けて、まだしがみつくなんて、情けないやつだ。
(楽できていいけどな)
カウントが鳴る。3、2、1、そしてカウントゼロの瞬間、体が滑るように前に動く。
俺は、誰よりも速い。
0.6秒。
10メートルを走るのにかかる時間だ。普通は2秒近くかかるが、そんなにチンタラ走ったことはない。
速さとは暴力。
見ることはできるだろう。体を動かすことはできるだろう。だがそれだけだ。正しい対応ができるやつはいない。0.6秒という時間制限の中で、相手だけが不自由である。速さは思考を奪うだけでなく、技巧をも奪う。
いつも通り、1秒以内にガラスの割れる音がする。
(は──?)
だが、音がふたつ重なって聞こえる。鼓膜を震わす音だけじゃない、頭の中から直接、頭蓋骨を揺らすような音。
(俺のコアもやられたっ!)
第8試合はカウンターから始まった。
対戦相手の名前はケント・ノイシ。俺とおなじでTOP16初出場。今年、カウンターだけで勝ってきた選手で、下馬評では下の下の下。こんな毛並みがいいだけの牙の抜けた負け犬に、俺が先制された……?
あり得ない。
なにか仕掛けがあるはずだ。




