↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FLOOAT(フロート)  作者: Jake
第1章 去年、予選で負けてから

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/35

第2話(8/8)

 フロートにはゲーム内のマイルーム機能がある。


 だいたい七畳ぐらいで、家具や装飾は課金制だ。こだわる人はとことんこだわるらしいが、私は興味がない。なさ過ぎて初期設定のままにしてたら数年前ネットでバズった。


 ローテーブルが1つあって、それを挟み込むように二人掛けのソファが1つ、一人掛けのものが2つ。真っ白な部屋に薄青のライティングが色付けをしていて、窓からは月の地平線と、その先の地球が見える。初期設定のままでも、私は結構気に入っている。


「ほな反省会しよか」


「はい」


 1(・)点(・)も(・)取(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のだから当然である。


 チャンピオンと七番勝負をする貴重な機会に、ストレート負けした。4本取られて負けたので、8点分の攻防しかなかったわけである。フルで戦えれば21点分やりあえたわけで、理論値の3分の1ぐらいしか戦えなかったことになる。


「数字好きやなぁ、自分」


「なるべく正しく損失を理解しようと思って……」


 ああも点が取れないとは思っていなかった。実のところ結構へこんでるのだ。


 極めつけは試合が終わった後のチャンピオンの言葉である。


『手の内は明かせへんってことですね! さすがです! あたしなんてマジでやってもうて恥ずかしいです! でも次戦うときはもっとパワーアップしてますから! 公(・)式(・)戦(・)の(・)と(・)き(・)は(・)本(・)気(・)で(・)や(・)り(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)ね(・)! 約束ですよ!』


「つらい……」


 誓ってもいいが、リアルマジ本気(ガチ)だった。その上で完封された。一応、サウンドアクセシビリティは奥の手だったかもしれない。しかし、その手の内を明かさないと決めたのは晩鐘さんだし、いよいよ私はいいとこなしである。


「ま、期待の裏返しってこっちゃな」


「期待って、どこに期待できる要素が……」


 ここで五日間、聞き損ねていたことを思い出す。


「そういえば、私が選ばれた理由ってなんなんですか?」


 私がOSAKA OCT(オーサカオクト)に加入できた理由を私は知らない。なんだかんだ言っても、夜雨さんの件で炎上したのが大きいと思っている。炎上直後に引退となれば、結びつける人は多いだろう。他ならぬ夜雨さん自身も、自(・)分(・)の(・)せ(・)い(・)で(・)引(・)退(・)し(・)た(・)、と考えてしまうかもしれない。


 夜雨さんというかわいい孫のために、オーナーが私と契約するのはまだ分かる。


「でも、晩鐘さんが働くこととか、コーチになることは、この件とは無関係ですよね」


 タイミング的に合致しただけで、別の話だ。ほかの仕事でもよかったし、ほかの選手のコーチでもよかった。競技シーンやフロートに関わる仕事はたくさんある。そもそもOCTの事務方の仕事だってあるだろう。コーチになるとしても、強い選手はたくさんいる。


「なんで私のコーチになることを選んだんですか?」


 言外に「なんでわざわざ」と尋ねると、晩鐘さんは深く、ソファに座りなおす。


「……きっと夜雨は、世界大会連覇を達成する。キミの前に立つとき、彼女は3連覇がかかってるやろうな」


 だろうな、と思った。


 強い選手はたくさんいる。


 だが優勝しても驚かないような、きっと優勝するだろうな、と頷ける選手はなかなかいない。そして恐ろしいことに、今年の世界大会において、驚くに値しない選手は明星夜雨たった一人。それほどまでに、今の彼女は強く、ほかの誰もが見劣りする。


「世界中があの子の勝ちを望んでる。来年──、16歳の病気の少女。外に出れんけど、ネットで世界とつながっとる。明るくて、人好きのする性格。家族や友達、ファンのみんなを大切にする」


 その結果、フロートの知名度をぶち上げた天才である(特に国内。これまで見向きもしなかったくせに!)。


「どう思う?」


「どうって……」


 そんなの決まってる。


「すごいっすね……」


 いやマジぱねぇ。


 21世紀初頭は「ゲームをすると馬鹿になる」と言われていたらしい。今でも「VRをすると廃人になる」と言う年配の人は多い。しかし最近の子は、そもそも親世代がVRに慣れていることもあり、早くに触れるそうだ。


「まして夜雨選手は幼少の頃から長時間のVR体験をしてきたわけでしょう? あの脳波コントロールは達人っていうか、もはや仙人みたいでした」


「……世間の期待とかの話やってんけど」


 晩鐘さんの片眉が持ち上がって、なんとも言えない顔になった。


「でも関係ないですよね?」


 ひとつ断言できる。世間からの期待がフロートに直接関係するなら──私はプロになれなかった!(とても悲しいことだが認めざるを得ない)。


「せやな、関係ない。そう言い切れると思うて選んだねん……音への反射能力がええっちゅうのもあるけどな!」


「メンタルと反射神経ですか……」


「元プロとして、けっこうモヤモヤすんねんな。そりゃ夜雨が勝つんは嬉しいけど、別にただのいち選手やし、ただの──俺(・)ら(・)ん(・)と(・)こ(・)の(・)ガ(・)キ(・)ン(・)チ(・)ョ(・)や(・)ね(・)ん(・)」


 付け加えた言葉は小さかった。


 でも、多分、それが一番言いたいことだったんだと思う。


「負けて泣くんはええよ。でも勝っても『手加減されてた』とか『かわいそうだから勝ってよかった』とか水差されんのは、見てられん」


「勝っても喜べない、的な……?」


「的なて。俺、まじめな話してんねんけど……」


 親戚のお兄ちゃんがいたらこんな感じなのか。夜雨さん、私、晩鐘さんの順番にちょうど一回りずつ歳が離れている。


 子供時代の私が手加減されて、それに気づいたら怒るだろうな、あと泣く。かといって、本気を出されて負けたら、再戦を要求するだろう、あと泣く。勝ったら、大声で自慢するし、連敗後だったら、泣くほど喜ぶかもしれない。……子供のころは泣き虫だったのだ。


 勝利の喜びに、ケチをつけられるなんて最悪だ。


「結局、本気で戦って勝てってことですよね」


「……まぁー、そうや」


「いいですよ、優勝のついでっていうか。もともとそのつもりなので」


 晩鐘さんは、珍しく控えめに笑った。輝かしいものを見たように、目を細めているようにも思えたが、きっと勘違いだ。


 視線の先には、私しかいないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。