第8話 ようこそ、オワコンエルフの配信へ
迷宮街近郊、町の北門からそれほど離れていない、森の林道。俺は仕込みをすませ、ゼラと一緒に、森の奥――ゴブリンのねぐら方面――に向けて歩みを進めていた。
(……おい、召喚者よ。“ダンジョン配信”とはいったい何なのだ? わし、意味が分からんのだが)
さっきからけげんそうな顔をしていたアモンが、ついに自力での理解を諦めたのか聞いてくる。
(10年前ぐらいから始まった、新しい冒険者のスタイルだよ。じつはダンジョン攻略って、死ぬリスクが高いわりに、遺物をゲットしないとたいしたお金にならないんだ)
(ふぅーむ……そういえば、宝箱とか見当たらんかったのう。モンスターの素材ってヤツも、二束三文じゃったし……)
(だから魔導具で、自分の冒険を最寄りの町の人たちに実況中継して、おひねりとか投げ銭をもらうって寸法だね。ブロードキャスト・クリスタルっていうんだ。もちろん、視聴者からのコメントも来るよ)
(うむむ、プライバシーと引き換えに、お金を……夢があるのかないのか、わからんのう)
そんな念話をアモンとしていると、ちょうどエレシダが生配信のアフタートークをしながら、戻ってくるところだった。ゼラは、うつむいたまま俺の少し後ろに控えている。
「投票の結果……じゃじゃーん! 明日の配信は、コボルト50匹倒すまで帰れません! に決まりました~。えっと……エリクサー飲み太郎さん、いつもコメントありがとう! 明日のパンツ……? もうっ! それは、ブロック案件なんだからね♡ ……ん?」
ただならぬ雰囲気で立ちふさがる俺たちに気付いたのか、彼女が足を止めた。
「エレシダ=エルクレインだな。配信中おそれいる。単刀直入に言うぞ……大型コラボのお誘いだ。俺と、このパラディンと一緒に、大迷宮の最深部を目指してもらおうか」
ずずいと迫りながら言う。だが、こういうのには、慣れっこなのか――
「みんな、ごめんね……ちょっと、迷惑系が来ちゃったみたい。何よアンタ。見てのとおり、ソロ専でやってんのよ。ってか……ゼラトリスじゃない。実力者のアンタまで、迷惑系の仲間入りとはね。見損なったわ」
「す、すまん、エレシダ……だが、こいつの強さは、本物だ……私からも、恥をしのんで、お願いしたい……」
悔しそうなゼラの声が、後ろから聞こえる。
「ふん、お断りよ。こー見えて、私は今のスタイルに満足してるの。迷宮街にも、いっぱいファンがいるし」
「ククク……現状に満足とは、片腹痛い。確かに貴様のチャンネル登録者は、約3000人……しかし生配信の同時接続は、わずか10人ちょっとではないか。かわりばえのしないパンチラの連発に、みな、飽き飽きしているのだ。このままだと、チャンネルが先細るいっぽうだぞ。いや、もうすでにオワコンか、クハハ……!」
「くうっ、言わせておけば……!」
顔をしかめるエレシダ。
<エレちゃん、負けるな!>
<俺たちがついてる!>
<迷惑系死すべし、慈悲はない!>
BCC――ブロードキャスト・クリスタル――もコメントを空中に吐きだして、盛りあがっている。おひねりは……ないようだ。おいおい、こういう突発イベントで稼がなくて、どーすんだよ。
「と……とにかく、ダンジョンはダメ! もうあそこには潜らないって、決めたんだから! ええい、どきなさいよ!」
横を通りすぎて町に戻ろうとする彼女に、俺は――
「ふーむ……では、気を変えさせてやろう。ハーフエルフの貴様は、配信で一発あてて故郷のエルフどもを見返すために、冒険者をやっているそうだな。こんな情けないパンチラ姿をご両親が見たら、いったい、どう思うかねェ……」
だが彼女は、気丈な態度を崩さなかった。
「ふふん、おあいにくさま! もともと、あんな所に戻る気なんて、これっぽっちもないんだから! 脅迫しようったって、無駄なんだからね! 配信アーカイブでもなんでも好きなだけ、里に送りつけるがいいわ、バーカ!」
「おいおい、誰が、“エルフの里に”と言った? 俺がアーカイブを送るのは、貴様の母親の――」
ブチッ。エレシダが配信を止めた。彼女は目を見ひらき、握りこぶしをわなわなと、震わせながら――
「あ、アンタ、なんで、それを……!」
「ククク……このヨハン=シュード様の暗黒情報網を舐めてもらっては困るぞ。ヴィアドロ原罪修道院……不犯の戒律に厳しいあそこの大マザーが、あろうことか昔、エルフとの間に子を作っていたとはな。驚きのあまり、修道院に使い魔を飛ばしてしまいそうだよ。さぞかし、と~んでもない大騒ぎに、なるだろうなァ……!」
「……そんなことされたら、お母さまの、立場が……この、卑怯者……最低の、クズ野郎……! ぐっ、ううっ……」
へたりこんで目をうるませるエレシダ。ゼラが、おろおろしながら彼女を見守っている。
(なーにが、暗黒情報網じゃ。また、ワシをこき使いよってからに)
不満げなアモン。そう、俺はここに来る前、ギルドに寄って彼女の探索者名簿をチェックしていたのだ。受付嬢にそこそこの賄賂を握らせる必要があったが、まあ必要経費だろう。
名簿には、不測の事態――ほとんどの場合、ダンジョンでの死亡――が起きたときの緊急連絡先として、2人の名前を書く欄がある。
だいたいは、両親の名前が記載されているが……彼女の場合、エルフの男性名が2つ書かれていた。おそらく、父親と親戚のものだろう。
……おかしい。俺が彼女なら、迫害を受けた父方ではなく、ヒューマン――母方の名前を書く。
それが意味するのは……“母方に連絡されたら、何らかの不都合が発生する可能性が高い”ということ。
ピンときた俺は、書かれていた住所を頼りに、アモンを彼女の借家に送りこんだ。その結果……ビンゴ。テーブルの上に、母親からの手紙が広げたまま置かれていた、というわけだ。
「さあ、エレシダよ。ママンを大切に思うのなら、おとなしく俺に従っておいたほうが、いいと思うが? なぁに、俺の強さはこのゼラトリスが、とっくりと証言してくれる……2日後、ダンジョンの入口で待っているぞ。フ、フフフ、フハハハハ――!」
「ひっ、ひぐっ、嫌だ、嫌だぁ……! 助けて、ママぁ……!」
「ヨハン、貴様、いくらなんでも、やりすぎだぞ……! ああっ、エレ、泣くな! すまん、私が、私が悪いんだ……!」
なんて……なんてひどいヤツだ。望まない人間――エルフだが――をダンジョンに無理やり連れこむばかりか、隠された出自まで暴いて……!
後ろからは、エレシダの号泣と慰めるゼラの声が聞こえてくる。
俺は自己嫌悪におちいりながら、その場を後にした……
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