第41話 決死隊
地上、義勇軍のワゴンフォート外周。
「あ――ッ! 見ぃ! 来た! 来たで――! コレットや!」
荷馬車の上に立ったネロディが、大声を張りあげ指をさす。その先には、一頭の馬。
背中に、栗毛色の髪の少女が、必死にしがみ付いているのが見えた。街の方角から、どんどん、ワゴンフォートに接近してくる。
「はぁ、はぁ……このままだと、聖騎士団の戦列にぶつかるわよ!」
エレシダが荷馬車のすき間から、クナイを投げながら指摘。ここから、どうやって事態をおさめるのか。ゼラトリスは、開戦前の、ウィルとの作戦会議を思いかえす。
ひとつは、コレットの呼びかけに応じて、聖騎士団が話を聞いてくれた場合。このケースでは、スムーズに停戦の申し入れをおこなう必要がある。だまし討ちと取られては、絶対にアウトだ。
もうひとつは、聖騎士団が、問答無用でコレットに襲いかかった場合だ。こちらのケースでは、何がなんでも彼女を、保護しないといけない。
どちらに転ぶにせよ、いまの時点では、コレットのほうに向かう決死隊を選ぶのが最優先。
「コレットを、迎えに行かないと……! だが、危険が大きすぎる……!」
自分たち3人は確定として、あと誰を死地におくるのか。悩むゼラトリスのそばに、寄ってきたのは――
「エレにゃん! 拙者が同行するでござる……! こう見えても昔、Bランクダンジョンをクリアしたことが、あるでござるよ! ハァハァ……」
「エリクサー飲み太郎さん……!」
エレシダが、目をかがやかせた。
「可憐な少女救うべし、慈悲はない! おじさんも行くぞ!」
「慈悲はないおじさん……!」
「エレちゃん、頑張るからブロック解除して……!」「俺も」「俺も」
「アンチのみなさん……!」
エレシダの配信チャンネルの、トップ・オタ軍団!
「ネロディの嬢ちゃん、いままで、騙しててスマンかった……あのデギってヤツの居た山賊団とは、昔ちょっと付きあいがあってな……これも何かの縁だから、ひと肌脱がせてもらうぜ」
「バルトフ商会……いや、盗賊団のおっちゃんら……!」
反社の人とあわせて、約50名の命知らずたちが集結!
「よし、我々はこれから、最短距離でコレット嬢の確保に向かう! 伝令――! もし、騎士団の動きが少しでも鈍ったら、いっさいの攻撃を禁ずる! ゆくぞ――!!」
『うおおおおおおおっ!!』
50人の決死隊が、ワゴンフォートから離脱! 荷馬車を乗りこえ、聖騎士団から飛んでくる投げ槍や魔術をかいくぐりながら、必死にコレットを目指す。
だが、苛烈な攻撃に、ひとり、またひとりと脱落していき……
「チクショウ、間にあわない、ここまでか。すまん、ウィル……!」
ゼラトリスが、嘆きのことばを吐く。聖騎士団の射程距離に、コレットが達しようとした、次の瞬間――
◇◆◇◆◇
「いい加減、落ちてくださいまし、神罰聖裁陣――!」
「うおおっ……!?」
ふたたび、戦場の上空……ばしゅしゅん! マリエラの上空の魔法陣から放たれる、何本もの光の柱!
すんでのところでかわしきり、火球で反撃……むなしく、彼女の魔術防壁にはばまれ消えた。
たしかに、以前ダンジョンで共闘したときよりも遥かに、マリエラは強かった。光属性の上位・最上位魔術を、惜しげもなく撃ちこんでくる。シールドも、メチャクチャ硬い。
だが……迷宮9層のときの俺や、いにしえの大勇者には、遠くおよばない。理由は……いうまでもない。
好感度があんまり高くないせいで、チートスキル狂信が、効果を十分に発揮できていないのだ。もし、彼女の政治がマトモだったら、俺は瞬殺されていただろう。
攻撃をしのぎ続ける俺に、あせり始めるマリエラ……
「なぜ……なぜですの! どいつもこいつも、わたくしの、邪魔ばかり……! 私は人なみ、いえ、人なみよりちょっといい生活が、したいだけですのに……! こんなに、民と国のことを、思っていますのに……!!」
彼女が、上品な唇をゆがめて叫ぶ。
「もう……やめてくれ、マリエラ! 今なら、まだ戻れる! みんなに謝って、これまでの、償いを――」
「お黙りなさい! なぜ、わたくしが謝ったり、償わないといけませんの!? それは、こっちのセリフですわ……! あなたに、ウィルさんに最低限の常識があれば、コレットさんは、バケモノにならずに、済んだのに――!」
「……この、クソ女……! 風塵斬波――!」
「主よ、力を……! 聖光斬!」
ずばずばん! 互いの魔力の波が、ぶつかりあって……ばきん!
風の刃が、光の刃をかき消した。そのままマリエラのシールドにぶつかって、はじけ飛ぶ。
「……!? 魔術の、パワーが……!? 狂信が……!? そんな、ありえませんわ……!」
血相を変え、下を見やる彼女。その、先には――
戦場のうごきが、止まっていた。
人だかりの中心にいるのは……いるのは……コレット、なんだけど……なぜ、裸?
あぶみを両足で踏みしめ、馬上に凛々しく立っている、すっぽんぽんの彼女。そのまわりには、彼女の話に耳をかたむけている、聖騎士団のめんめん。
武器を置き、ひざまずいて、コレットを拝んでいる騎士もいる。その外側には、ゼラたち3人と、冒険者たちの姿……
「おのれ、ふしだらな、魔女……! いえ、幻覚……!? あろうことか、わたくしの騎士たちに、色仕掛けを……!」
マリエラが動揺し、地上にむけて、魔術の詠唱をはじめる。その隙を見のがすほど、俺はバカではなかった。
「業火!」
「きゃあっ……!」
俺の放った大火球が、マリエラに直撃。シールドのおかげで致命傷はまぬがれたが、聖衣のそこかしこから火の手があがる。ばしばしと布を叩いて、炎を消そうとする彼女。
「ううっ、くたばれ、クソ女……!」
俺の、MP切れが近い。風纏翼の出力を上げ、彼女に急接近! 闇の魔力を直接、腕にまとわせ、拳をふりかぶる――
「ああっ……! ウィルさん、わたくし、正気を取りもどしましたわ……! いままで、よこしまな神、悪霊に、操られていましたのよ……!」
――まさか。
そのことばを聞いて、俺の手が止まる。だが――
(ウソに決まってんだろ! ぶん殴れ! ウィザードの、にーちゃん!!)
俺のあたまの中に、大音声が響きわたった。
「うあああああああああああっ!!」
「ぎゃぅん……!」
かこぉん! 右拳フックのタイミングが狂って、俺の肘が……彼女の形のいい顎を撃ちぬいた。
勢いあまって空中で回転した俺の目に、映ったのは……迷宮9層で戦った『オッサン』ことセイジロウが、親指を立てながら、消えていく光景だった。
マリエラの頭上に浮かんでいた、ジャッジメントレイの魔法陣――おそらく、だまし討ちで光線を当てるつもりだったのだろう――が、崩れてゆく。
脳をゆらされ意識を失った彼女が、どさりと、地上に落ちた……
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