第39話 集結! ダンジョン街義勇軍
「あの、支部長……ほんとうに、良かったのですか? 年齢のこともありますし、あなたにも、立場というものが……」
「ふん、コムスメに心配されるほど、なまっちゃいないよ。それにアタシはもう、ギルド支部長は辞めたからね。そこの男前のウィザードのせいで、さ」
「ほんっとうに、申し訳ございませんでした……」
迷宮街ノエガンド、正門を出てちょっとだけ離れた場所。心配そうなゼラトリスに、ハルバードを研ぎながらやる気まんまんの(元)支部長が大見得を切る。
「それにあたしゃ、さいきんの聖都の横暴っぷりに、嫌気がさしてたんだよ。なにが協力金だい……アンタも税金をつり上げられて、思うところがあったんだろ? ナァ、市長?」
「私が市長です」
ノエガンド市長のじいさんも、得物の蛇腹剣に油をさして、戦いの準備に余念がない。うーむ、ここの住人たちの、殺意が高い……!
「それに、コレットさんのディスペルが終わるまでは、逃げるわけにもいかないでしょう。もう乗りかかった船ですから、精いっぱい協力させてもらいます」
冒険者ギルド受付嬢が、三連クロスボウに矢をつがえながら宣言。そして、俺たちの周囲には――
「ヨハン……じゃなくてウィルの兄貴! アンタの漢気、大したもんだぜ! 聖騎士団が、なんぼのもんじゃい……迷宮探索者の力、見せてやろうぜ!」
「まえから気にいらなかったけど、あの王妃……ぜったい許せないわ! 何としても、きゃんって言わせてあげるわよ!」
「義によって立つ我らに、一切の曇りなし……サムライ道とは、死ぬことと見つけたり……!」
もと探索者連隊のほぼ全員が、完全武装で勢ぞろい。そのほかにも、彼らの誘いを受けたり、配信を見て参戦してくれた、有志の冒険者たちもいる。
「皆さん、ありがとうございます……! でも、もう俺は、9層とか10層のときみたいなチートスキル……超魔術は使えません。ただの一人の、上級ウィザードです。ヤバくなったら、すぐに逃げてくださいね……」
平身低頭する俺。
まず、コレットのディスペル作業には、ある程度の時間を要することが分かった。専門家によると、最短で半日から、長くてまる1日ぐらい。
解呪が始まってから終わるまで、彼女の身体は動かせない。再生しつつある臓器が損傷して、深刻な障害がのこる可能性があるからだ。
かと言って、俺が断呪剣と異形コレット入り容器を背負って逃げても、この距離ではすぐに聖騎士団に追いつかれてしまうだろう。
ゼラたちと一緒に途方にくれていたとき、支部長や連隊の皆さんから、共闘の申し出があったというわけだ。
「ううっ、ウィルさんの背中、あったかかった……! コレットちゃんを助けるために、この命、使わせていただきます……!」
2日前に迷宮9層から運びだした冒険者ロベルトが、俺の手を両手でがっしりと握る。おいおい、せっかく助けたのに、死なないでくれよ……!
「ウィル! 私のチャンネルの、視聴者さんたちが来てくれたわよ……!」
エレに続いて、陣地に入ってきたのは……うほっ、匂い立つような、いい男たち!
彼女のチャンネルの、精鋭メンバー……月額サブスクリプション課金をしている、筋金入りのオタクどもだ。もちろん、今回の探索であらたにファンになった人たちもいる。
あとは、もともとのパーティメンバーや、なじみのコラボ先に、ダンジョン配信者なかま……全員、エレぬいを体のどこかからぶら下げ、やる気十分だ。
「商工ギルドのみなさんも、参戦や! レベルはそんなにやけど、武器はすごいで!」
ネロのまわりにも、人だかり。おのおのが鍛冶につかう槌や、お店から持ち出してきた業物で武装している。なんか、人相の悪い人も混ざっているようだが……
そーいえばゼラが、“ノエガンド特殊酒場協会”のケツモチたちも協力すると言っていた。おそらく、そのスジの方々だろう。
「兄ちゃん、うちのナンバーワンを、キズモノにしやがって……あの顔と乳だけはいい王妃をとっ捕まえたら、必ず引きわたせよ? 系列店で、ボロ雑巾みたいになるまで働かせてやる」
「あはは……恐縮です。戦利品よりも、命をだいじにいきましょう」
小指がないコワモテの一人に、肘でわき腹をつつかれ、しどろもどろになりながら返事する。
俺たちの作戦は、こうだ。聖騎士団を迷宮街てまえの防御陣地で迎え撃ち、時間をかせぐ。そのあいだに、コレットのディスペルが完了。
彼女がクイーン・マリエラの悪事を告発して、騎士団の士気を下げて、なんやかんやする……うーん、雑!
こんなガバガバなプランで皆さんを危険に晒すわけにはと、必死に説得したのだが……結果は、ごらんの有様だ。
「ゼラ、即席とはいえ、理にかなった防御陣地だね。さすが、ザリアの騎士団長。本当にすごいよ」
俺たちの陣地を構築しているのは、街から持ち出してきた大量の荷馬車。それを鎖でつなぎ、ぐるりと円形にならべて、馬防柵にしているのだ。
防壁の役割だけでなく、敵が近くに寄ってきた場合は、馬車の上から高さをいかした投擲攻撃もできる。コレットのディスペル作業のあいまに、ゼラの指示で突貫工事で作りあげたのだ。
もちろんスルーされて街を攻められては無力だが、誇り高い聖騎士団はそんなことしないだろう。無関係の市民を巻きこみたくないのは、味方も敵もおなじ……だと信じている。
「いや、じつは……昨日の夜、私の夢枕に黒服の青年が立ってな。いろいろと、策を授けてくれたんだ。ダンジョン9層のボスとか、言っていたが……」
「うげっ……」
「これも、“わごんふぉーと”とか“ぶぁーげんぶるく”という、れっきとした異世界の戦術らしい。『ボクは戦争で防御に回ることなんてなかったから、一回も使わなかったけどね』とか言って……なんか、イヤミなやつだったぞ」
「は、は、は……彼なりの、恩返しってことじゃないかな」
そうこうする内に、聖騎士団の先頭が、見えてきて――
「ノエガンドの冒険者および市民たちよ、聞くがよい――! 我らは、王妃の命によって参上した聖騎士団! パーティメンバー殺しの大罪人、ウィルフレド=キーツを、大人しく引きわたすのならば、良し! さもなくば、武力でもって容赦なく制圧する――!」
豪華な鎧に身をつつんだ、壮年の男性――おそらく、聖騎士団の団長だろう――が、大声を張りあげる。そして、その横には……
「マリエラ……!」
輿に乗って、無表情で――いや、わずかに、眉をひそめている――こちらを見つめる聖女王妃のすがた。必死で、彼女をにらみつける。
俺の記憶にある、彼女の最後のことば。「あなたが全部、悪いんですのよ」――いったい、何がダメだったのか。もしこの戦いで命を落とすにしても、それだけは聞いておきたい。
「いきがるんじゃないよ、若造――! アタシらは、ぜんぶお見通しなんだからねぇ――! くされ王妃の言いなりになって、ガキの使いみたいなことしかできない騎士団に、冒険者の戦いってのを教えてあげるよ! さぁ、どっからでも……かかってこんかい!」
「そうだそうだ――!」「いいぞ、ババァ!」「市民に剣をふるって、なにが聖騎士団だ、税金かえせ――!」
荷馬車の上に立って、血管が切れそうな勢いで言いかえす支部長と、同調してヤジる冒険者たち。マリエラが、騎士団長になにか耳うちをする。
「彼らは悪のウィザード……ウィルの口車とテンプテーションで、平常心をうしなっていますの。かまわず、蹂躙しなさいな」とか言っているのだろうか。
どどどどど! ひづめの音をとどろかせ、騎兵突撃で押しよせてくる、聖騎士団3000。ワゴンフォートのなかで、迎撃のかまえをとる冒険者と市民たち1500。
ノエガンドの人口3万および、王国の正規軍にケンカを売ることを考えると……メチャクチャ、集まったと言うべきだろう。
「さあ、みんなやるぞ、ノエガンド義勇軍、戦闘開始――!」
『うおおおおおおお――っ!!』
頼む、なんとかなってくれ……!
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