第37話 核熱呪文
「ギャシャアアアアアッ!!」
ばしゅしゅしゅしゅん! 中央ヘッドの再生を終えた邪竜アジ・ダハーカが、迫る大聖獣――ネロディ・スフィンクス――に向かって、瘴気をまとった鱗を発射!
闇色の尾を引いて、襲いかかる十数発の鱗弾を――
「グウォオオオオン!」
スフィンクスのまわりに、これまた多数の、黒き球体が生まれでる! 球体と鱗弾が、ぶつかり合って対消滅! そのまま邪竜右ヘッドに跳びかかり、大口をあけて食らいついた!
「グウゥ……ウゥ……ウウウウゥ――!!」
顔面に牙を、首すじに爪をたてられ、暴れまわる右ヘッド! 振り落とされまいと、しがみ付く大聖獣――
「ネロ、過去いちばん、ワイルドじゃない……! 私も、負けてられないわね!」
びしゅしゅん! どこから取りだしたのか分からない手裏剣を、エレが邪竜左ヘッドに投擲! 注意を引かれた左首が、彼女に攻撃、しかし――
「ふふん、遅いわよ……!」
目にも止まらぬ速さの、左ヘッドの連続噛みつき。それを彼女は――紙一重で、ひょいひょいと躱していた。どんどん早くなる、エレのスピード。なんか、もう、物理的なアレを無視してないか……!?
「ををっ! ワシの相棒……時の管理者ジェフティの力を、いい感じに使いこなしておるのう。そんで、もう一柱じゃ……ヤツの火力は、なかなか、すごいぞい……!」
俺の真うしろに浮かびながら、ドヤ顔――見えないが、たぶんそうだ――を決めるアメン。
ゼラのほうは大丈夫か、と見ると――
「ふっ! はっ! でやぁ!」
邪竜中央ヘッドから放たれる、瘴気のブレス。それを剣で切りはらい、受けながし、ターンして避け……上空を飛びまわりながら、攻撃の機会を、うかがっていた。
数瞬後。ついにエレが、ダハーカの足もとに到達し――
「邪竜滅ぶべし、陰陽遁大忍法、オシリス神楽――!!」
ずばずばずばぁ! 上昇しながらの、黒き忍者刀での連続斬撃! 左ヘッドの首が、輪切りにされて爆発四散! そのショックで、硬直した中央ヘッドに――
「これで決める……! ホルス・インパクト――!!」
ごうっ! カイトシールドの前面に風の魔力をあつめ、ゼラが急降下! 天空神の全パワーを集中させた、垂直落下式シールドバッシュ! 圧倒的なダウンバーストで、中央ヘッドが瞬時に圧壊!
右ヘッドも、スフィンクスの牙が頭のまん中に達して、機能を停止……胴体が、あらたな動きを見せた。
ばきばきばき! 俺に向いている、アジ・ダハーカの胴の正面。その部位に、何本もの管が生えてくる。周囲にあつまる、紫のオーラ……おそらく、極大の瘴気ブレスだ。
だが、その時にはもう、俺は禁呪の詠唱を終えていた。
――200年前、“鷲獅子の骨”に、ひとりの天才がいた。彼は長年にわたる研究のすえ、ひとつの魔術を生みだす。
その威力はすさまじく、学院の裏山を、一瞬で空き地にしてしまうほど。そこは今にいたるまで、ぺんぺん草も生えていない。しかし彼もまた、魔術の制御に失敗して消滅した。
いらい200年間、“鷲獅子の骨”は、その魔術を再現すべく探究をかさねてきたのだ。歴史上、過去いちどしか発動していない、超難解な魔術理論。
太陽神の加護が可能にした、火光複合禁呪、その名は――
「――核熱呪文!!」
ただならぬ気配を感じたのか、ゼラとエレ、スフィンクスが邪竜から飛びのいた、瞬間――
ごごうっ! 俺の正面の魔法陣から、1万度の熱波がほとばしる! アジ・ダハーカ・ボディがはなった瘴気ブレスを蹴ちらして、炸裂――胴体が沸騰し、みるみるうちに削れていく!
「これが、ウィルのとっておき……すごい、すごいぞ……!」
「熱気が、ここまで……ああっ、見て、ドラゴンの、体から……!」
エレが、驚きの声をあげた。邪竜の体から……ぼこぼこ……ぼこん!
ラーヴァワーム、ブレイズリザード、メルトスライム、インフェルノタイタン……火炎耐性のモンスターが、つぎつぎと出現! 魔術の火線を、はばむように押しよせ……
――ぼろぼろと、崩れていった。
■■■■■■■■は、ただの魔術にあらず。それは、異世界の太陽を呼びだす、一種の召喚術。
術式の核心は、1万度の熱線ではない。熱と同時に、指向性をもって、放たれる――
あらゆる細胞を、生命の設計図ごと灼き切り崩壊させる、不可視の極光である。
存在のコアを放射光で貫かれ、アジ・ダハーカが、灰が吹き散らされるように消えていく。全てが終わったあと、邪竜のいた場所に、ひと振りの剣が落ちていた……
◇◆◇◆◇
「に゛ゃ――! にゃにゃに゛ゃ――!」
「おい! そろそろいい加減、落ちつかんか! ほら、猫じゃらしだ……!」
「にゃーん」
暴れるスフィンクスを押さえつけ、やっとのことでネロディが、もとの姿を取りもどしたあと。
「ゴメンね、ウィル。じつは、アンタの話を……なにか、力になりたくて……」
「エレ、分かってるよ。そのおかげで勝てたんだし、いいんじゃないかな」
今さら、説明は不要だろうが……
きのう、俺の身の上話がスタートするやいなや、エレシダが無断でBCCを起動。
余すことなくバッチリ録画して、3人で相談して。そのデータを……魔導ブロードキャスト放送局に、持ち込んだというわけだ。
うーん、これぞ永久に刻まれしマジカルタトゥー、SNSのおそろしさよ……
「召喚者ウィル、みごとな戦働きじゃったぞ。これが、戦利品……みなで話しあって、“ウルスラグナの断呪剣”と名づけたゆえ、大事に使うようにな」
「ありがとう、アメン・ラー。神々の皆さんにも、よろしく言っといてくれ」
彼が、黄金にかがやく剣を、俺に差しだした。うやうやしく、両手で受けとる。
ラーは、エジプト風のネーミングを、希望していたようなのだが……ほかの5柱が、「ゾロアスターの神格に敬意を払わんかい」と主張したため、この名前になったらしい。
「では、ワシはぼちぼち、消えるからの。チートなスキルも、なくなるからの。ここからは、おぬし達だけで頑張るんじゃぞい」
さっきまで謎のポージングをキメていた、ナイルの神々……ホルス・バステト・アヌビス・ジェフティ・オシリスの姿は、もうない。ラーの姿も、足もとから徐々に薄くなっていた。
「アンタには、本当にお世話になった。ぜんぶ終わったらピラミッドの祭壇をつくって、まいにち拝むからな」
「ををっ……嬉しいのう。じゃが、ワシからも礼を言わせてもらおうか。仲間どうしが、互いを信じあうことの貴さ……それを、いま一度教えられたぞよ」
ラーが、ハヤブサの嘴のはしをゆがめて笑った。
「それに、のう。ワシがアモンとしてこの世界にいた理由じゃが……もしかすると、ここは……信仰を失った異邦の神たちの、最後の晴れ舞台なのかもしれんな」
「うーん……できれば、いい神様だけにして欲しいもんだけどな。あの邪竜みたいなのを大量に送りつけられたら、さすがに困るぞ」
「フ、フ、フ……ダハーカめも、ひと暴れできて満足しておるのではないか? まあ、今後、ほかの神や魔神に出あったら、良くしてやってくれ……では、さらばじゃ……」
彼のヴィジョンが退去する直前、握手をかわす。俺の手のひらに、太陽のあたたかさが、しばらく残っていた。
……さあ、この剣でコレットの呪いをといて、あとは……どうしよう。
もとの格好にもどった3人とともに……シュイン。ダンジョン入口への、転移装置が起動する。俺は、ノエガンドの大迷宮の完全踏破を成しとげ、地上に帰還した……
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