第36話 ソロモン、そして……
迷宮街ノエガンド住宅エリア、午前2時。 魔導ブロードキャストネットワークの、局長の自宅。彼は、けたたましくドアが叩かれる音で、目を覚ました。
こんな夜更けに、地震!? ……は、なさそうだ。まさか、大型モンスターの襲来? それとも、あのヨハンとかいう若造のパーティが、また何かやらかしたのだろうか。
急いでドアをあけた彼の目の前には、部下の女性局員。
「あの……局長、夜分、すいません……。ご相談なんですが……先ほど宿直をしていたら、例のヨハンパーティの女性3人があらわれて。あした、朝からの広告枠ぜんぶを使って、この動画を流してほしいって言うんです。凄いけんまくで、私、どうしたらいいか……」
「なに!? 広告枠、ぜんぶだって……? いやいや、それはキミ、お断りしなさいよ。いくらノエガンド最強のパーティだからといって、すでに決まってるスポンサーを、無視するわけにはいかないぞ」
女性局員は、困ったような顔で――
「はぁ、そう申し上げたんですが……広告費とか言って、スパイシーキャット商会の……店舗の権利書を、置いていってしまったんです。街はじまって以来の緊急事態、データを見てもらえれば、重要さが分かるからと……」
そう言うと、小さなクリスタルを、局長に差しだした。彼は顔をしかめて、受けとる。
「フゥーム……あの、がめつい女店主が……たしかに、尋常なアレではなさそうだな。では、動画を確認するとしようか。ワシもすっかり、目が覚めてしまったよ」
「お付きあいします、局長」
◇◆◇◆◇
ぐぼり、ぐぼりと、アジ・ダハーカの食道に飲みこまれてゆく、俺とエレ。彼女はもう、息をひきとってしまったようだ。再び、なきがらを抱きしめた俺の手に、硬いものが触れる。
それは、BCC――ブロードキャスト・クリスタル――だった。ああ、そーいえば、B10Fに下りるとき、彼女が配信モードをオンにしていたな。
朝っぱらからとんでもない放送事故、こいつは一発BAN間違いなしだなぁと思いつつ、BCCを目の前に持ってくると……
<がんばれ……ヨハン、いや、ウィルさん……! また、良いとこ見せてくれ……!>
<あんな王妃とドラゴンに、負けないで! コレットちゃんを、助けるのよ!>
<ウィルさん、酷いじゃないっすか、俺たちを、置いていくなんて……! 連隊の結束は、どこ行ったんすか……!>
<帰ってきたら、気がすむまで、お尻揉ませてあげるから……!>
<エレにゃん、貯金ぜんぶ送金したから、どうか生き返ってほしいでござる……>
<うぐっ、坊や、いままで、ひとりで戦って……アンタ、馬鹿野郎だよ。でも、泣けるじゃ、ないかい……!>
<受付嬢です! あきらめないで! 入口で、待ってますからね!>
<魔導ブロードキャストネットワーク、局長です。この街のすべての放送で、ウィルさんのお話の動画を流しています……もし何かあっても、コレット嬢は、われわれにお任せください。でも、皆さんが帰ってくるのを、心から願っていますぞ……!>
……は?
おびただしい数の応援コメントが、リアルタイムで送られてきていた。同時接続は……約2万人。端末クリスタルの数を考えると、この街の人口、ほぼ全員だ。
しかもなぜか、俺の事情が知れわたっている。何が起こっているのか分からず、自分の本心を、ぶつける。どれだけ言いたくても、今まで絶対に口にできなかった、その言葉――
「ううっ、皆さん、コレットを、助けて、ください……!」
その瞬間、俺とエレのなきがらの周囲が、まばゆい光と熱気に包まれ――
ぼごん! アジ・ダハーカ中央ヘッドの首、その中心部を突きやぶり、外に飛びだした。
「グエエエエエエエエアァ――!?」
首に大穴をあけられ、苦しむ邪竜。地面に投げだされた俺の目に、映ったのは……
「ク、ク、ク……召喚者よ。とんでもない事が、起こってしもうたぞ。まさか異世界で、この姿を取りもどすとはの。さあ、勝ち目が出てきたぞい……!」
BCCから流れでる、いくつもの黄金の光の帯。その先には、ハヤブサの頭をした上半身ハダカの男性。頭上の紅い円盤には……蛇が巻きついている。そいつが、ドヤ顔で空中に浮かんでいた。
「お、お前、アモン……か? なんか、えらく変わり果てて……」
とまどう俺に、トリ頭――悪口ではない――の男性が説明。
「まさしく、アモンじゃが……それは、仮の姿よ。今のワシは……異世界エジプトの太陽神にして主神、アメン・ラーじゃ。このクリスタルに流れこんだ大量の願い、エネルギーによって、一時的に先祖返りをしたというわけじゃな。ふふふ」
「むっ……アメンってのは分からないけど、ラーは知ってるぞ! たしか、ピラミッドと……!」
「おおっ、ワシの威光が、異世界にも轟いておったかぁ!」
「カード遊びの、神……」
「がくっ、なんじゃそりゃ……ぜんぜん違うわい。まあ、よかろ。ダハーカのやつが焦っておるうちに、おぬしにいま一度、チートなスキルを授けるとするかの……!」
彼がそう言うと、俺の両足が光りだし、みるみるうちに治りだした。ゼラたち3人のなきがらも、空中に浮かびあがる。彼女たちが光に包まれ、もとの形を取りもどしていく。
「これは、リザレクション……!? それも、超強力な……!」
「ふふふ、左様。ワシは、太陽の運行を司っておるでな。日の出のときと同じ姿に、戻してやれるというわけよ。あとせっかくじゃからお主には、太陽が象徴する光と熱のパワーを与えておくぞ。さらに……」
「まだあるのか!? スゲェ! すげぇぞ、エジプト!!」
「ク、ク、ク……もっと褒めるがよい、崇めるがよい。なんたって、最高神じゃからな……ほれ、ワシの眷属たち、ナイルの神々が、助けにやってきおったぞ。さあ、形勢逆転じゃ。ゾロアスターの邪竜ごとき、一気にブチころがしてしまえ……!」
光の中から、現れたのは――
「ふん、くっ殺ばっかり言ってきたが、やっぱり生きているというのは、素晴らしいものだな。しかし、なんだこの恰好は……いろんなところが、スース―するぞ」
先ほどまでのフルプレートアーマーとは違う、黄金に輝く軽装鎧に、身をつつんだゼラトリス。
鳥をモチーフにした兜に、見慣れない甲虫をかたどった手甲。折れた直剣も修復され、柄の十字架が、聖なるオーラを放っていた。
「ウィル、やっぱりあるんじゃない、奥の手……! 私、信じて……ひやぁああっ!? い、一体、どうなってんのよ……!?」
蘇ったエレシダが絶叫。それもそのはず、彼女の体を包むのは……亜麻色の包帯。あと、下半身の前垂れ。以上だ。
ラピスラズリのピアスに、蛇のバングルと足環……いやいや、末端にくらべて、中心が貧弱すぎるだろ。さいわい、かなり厚手の包帯のようで、透けたりとかはなさそうだ。
リザレクションされたことは分かるようだが、まだ戸惑っている彼女たちに――
「聞け、貴様ら――! 故あって我らに助力せしは、異世界エジプトの太陽神と眷属たち! 俺はいまから必殺の禁呪詠唱に入るから、時間を、かせ、ぎゃあああっ!?」
ずしーん! カッコつけて叫んだ俺の目の前に、巨体が着地! 獅子の体に、巨大な女性の……ネロディの、顔? 一般的なマンティコアの、たてよこ高さ3倍ぐらいある、その大魔獣が――
「ガゴアアアアアッ!!」
咆哮を轟かせると、邪竜に向かって突進!
「お……おい、アモン! あれは、大丈夫なのか!? ちゃんと、ネロに戻るんだろうな!?」
「……アジ・ダハーカは傷を負うと、そこから魔物を生みだす。ちゃんと一撃で、仕留めるんじゃぞ」
「こ、こいつめぇ……!」
あせる俺と、関係ないアドバイスをして誤魔化そうとするアモン……アメン・ラー。
「よく分からんが、やるしかない! ウィル! 今度こそ、禁呪をブチ当ててくれよ……! いくぞ、エレ! まずは……頭を潰す!」
「ううっ、恥ずかしい……でも、分かったわよ……!」
向かって右がわの頭に向かって、走っていくエレ。ゼラは軽鎧の背中から……ばさっ! まさかの、翼を展開! 空中に飛びあがり、中央ヘッドを目指す!
さあ、ハッタリとか嫌がらせじゃない、正真正銘の禁呪詠唱だ。俺は猛然と、魔力を練りはじめた。太陽の加護があるなら、アレが、撃てるはず……!
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