↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/43

第36話 ソロモン、そして……

 迷宮街ノエガンド住宅エリア、午前2時。 魔導ブロードキャストネットワークの、局長の自宅。彼は、けたたましくドアが叩かれる音で、目を覚ました。


 こんな夜更けに、地震!? ……は、なさそうだ。まさか、大型モンスターの襲来? それとも、あのヨハンとかいう若造のパーティが、また何かやらかしたのだろうか。


 急いでドアをあけた彼の目の前には、部下の女性局員。


「あの……局長、夜分、すいません……。ご相談なんですが……先ほど宿直をしていたら、例のヨハンパーティの女性3人があらわれて。あした、朝からの広告枠ぜんぶを使って、この動画を流してほしいって言うんです。凄いけんまくで、私、どうしたらいいか……」


「なに!? 広告枠、ぜんぶだって……? いやいや、それはキミ、お断りしなさいよ。いくらノエガンド最強のパーティだからといって、すでに決まってるスポンサーを、無視するわけにはいかないぞ」


 女性局員は、困ったような顔で――


「はぁ、そう申し上げたんですが……広告費とか言って、スパイシーキャット商会の……店舗の権利書を、置いていってしまったんです。街はじまって以来の緊急事態、データを見てもらえれば、重要さが分かるからと……」


 そう言うと、小さなクリスタルを、局長に差しだした。彼は顔をしかめて、受けとる。


「フゥーム……あの、がめつい女店主が……たしかに、尋常なアレではなさそうだな。では、動画を確認するとしようか。ワシもすっかり、目が覚めてしまったよ」


「お付きあいします、局長」



 ◇◆◇◆◇



 ぐぼり、ぐぼりと、アジ・ダハーカの食道に飲みこまれてゆく、俺とエレ。彼女はもう、息をひきとってしまったようだ。再び、なきがらを抱きしめた俺の手に、硬いものが触れる。


 それは、BCC――ブロードキャスト・クリスタル――だった。ああ、そーいえば、B10Fに下りるとき、彼女が配信モードをオンにしていたな。


 朝っぱらからとんでもない放送事故、こいつは一発BAN間違いなしだなぁと思いつつ、BCC(クリスタル)を目の前に持ってくると……


<がんばれ……ヨハン、いや、ウィルさん……! また、良いとこ見せてくれ……!>

<あんな王妃とドラゴンに、負けないで! コレットちゃんを、助けるのよ!>

<ウィルさん、酷いじゃないっすか、俺たちを、置いていくなんて……! 連隊(レギオン)の結束は、どこ行ったんすか……!>

<帰ってきたら、気がすむまで、お尻揉ませてあげるから……!>

<エレにゃん、貯金ぜんぶ送金したから、どうか生き返ってほしいでござる……>

<うぐっ、坊や、いままで、ひとりで戦って……アンタ、馬鹿野郎だよ。でも、泣けるじゃ、ないかい……!>

<受付嬢です! あきらめないで! 入口で、待ってますからね!>

<魔導ブロードキャストネットワーク、局長です。この街のすべての放送で、ウィルさんのお話の動画を流しています……もし何かあっても、コレット嬢は、われわれにお任せください。でも、皆さんが帰ってくるのを、心から願っていますぞ……!>


 ……は?


 おびただしい数の応援コメントが、リアルタイムで送られてきていた。同時接続は……約2万人。端末クリスタルの数を考えると、この街の人口、ほぼ全員だ。


 しかもなぜか、俺の事情が知れわたっている。何が起こっているのか分からず、自分の本心を、ぶつける。どれだけ言いたくても、今まで絶対に口にできなかった、その言葉――


「ううっ、皆さん、コレットを、助けて、ください……!」


 その瞬間、俺とエレのなきがらの周囲が、まばゆい光と熱気に包まれ――


 ぼごん! アジ・ダハーカ中央ヘッドの首、その中心部を突きやぶり、外に飛びだした。


「グエエエエエエエエアァ――!?」


 首に大穴をあけられ、苦しむ邪竜。地面に投げだされた俺の目に、映ったのは……


「ク、ク、ク……召喚者よ。とんでもない事が、起こってしもうたぞ。まさか異世界で、この姿を取りもどすとはの。さあ、勝ち目が出てきたぞい……!」


 BCCから流れでる、いくつもの黄金の光の帯。その先には、ハヤブサの頭をした上半身ハダカの男性。頭上の紅い円盤には……蛇が巻きついている。そいつが、ドヤ顔で空中に浮かんでいた。


「お、お前、アモン……か? なんか、えらく変わり果てて……」


 とまどう俺に、トリ頭――悪口ではない――の男性が説明。


「まさしく、アモンじゃが……それは、仮の姿よ。今のワシは……異世界エジプトの太陽神にして主神、アメン・ラーじゃ。このクリスタルに流れこんだ大量の願い、エネルギーによって、一時的に先祖返りをしたというわけじゃな。ふふふ」


「むっ……アメンってのは分からないけど、ラーは知ってるぞ! たしか、ピラミッドと……!」


「おおっ、ワシの威光が、異世界にも轟いておったかぁ!」


「カード遊びの、神……」


「がくっ、なんじゃそりゃ……ぜんぜん違うわい。まあ、よかろ。ダハーカのやつが焦っておるうちに、おぬしにいま一度、チートなスキルを授けるとするかの……!」


 彼がそう言うと、俺の両足が光りだし、みるみるうちに治りだした。ゼラたち3人のなきがらも、空中に浮かびあがる。彼女たちが光に包まれ、もとの形を取りもどしていく。


「これは、リザレクション……!? それも、超強力な……!」


「ふふふ、左様。ワシは、太陽の運行を司っておるでな。日の出のときと同じ姿に、戻してやれるというわけよ。あとせっかくじゃからお主には、太陽が象徴する光と熱のパワーを与えておくぞ。さらに……」


「まだあるのか!? スゲェ! すげぇぞ、エジプト!!」


「ク、ク、ク……もっと褒めるがよい、崇めるがよい。なんたって、最高神じゃからな……ほれ、ワシの眷属たち、ナイルの神々が、助けにやってきおったぞ。さあ、形勢逆転じゃ。ゾロアスターの邪竜ごとき、一気にブチころがしてしまえ……!」


 光の中から、現れたのは――


「ふん、くっ殺ばっかり言ってきたが、やっぱり生きているというのは、素晴らしいものだな。しかし、なんだこの恰好は……いろんなところが、スース―するぞ」


 先ほどまでのフルプレートアーマーとは違う、黄金に輝く軽装鎧(スケイルアーマー)に、身をつつんだゼラトリス。


 鳥をモチーフにした兜に、見慣れない甲虫をかたどった手甲。折れた直剣も修復され、柄の十字架(アンク)が、聖なるオーラを放っていた。


「ウィル、やっぱりあるんじゃない、奥の手……! 私、信じて……ひやぁああっ!? い、一体、どうなってんのよ……!?」


 蘇ったエレシダが絶叫。それもそのはず、彼女の体を包むのは……亜麻色の包帯。あと、下半身の前垂れ。以上だ。


 ラピスラズリのピアスに、蛇のバングルと足環……いやいや、末端にくらべて、中心が貧弱すぎるだろ。さいわい、かなり厚手の包帯のようで、透けたりとかはなさそうだ。


 リザレクションされたことは分かるようだが、まだ戸惑っている彼女たちに――


「聞け、貴様ら――! 故あって我らに助力せしは、異世界エジプトの太陽神と眷属たち! 俺はいまから必殺の禁呪詠唱に入るから、時間を、かせ、ぎゃあああっ!?」


 ずしーん! カッコつけて叫んだ俺の目の前に、巨体が着地! 獅子の体に、巨大な女性の……ネロディの、顔? 一般的なマンティコアの、たてよこ高さ3倍ぐらいある、その大魔獣が――


「ガゴアアアアアッ!!」


 咆哮を轟かせると、邪竜に向かって突進!


「お……おい、アモン! あれは、大丈夫なのか!? ちゃんと、ネロに戻るんだろうな!?」


「……アジ・ダハーカは傷を負うと、そこから魔物を生みだす。ちゃんと一撃で、仕留めるんじゃぞ」


「こ、こいつめぇ……!」


 あせる俺と、関係ないアドバイスをして誤魔化そうとするアモン……アメン・ラー。


「よく分からんが、やるしかない! ウィル! 今度こそ、禁呪をブチ当ててくれよ……! いくぞ、エレ! まずは……頭を潰す!」


「ううっ、恥ずかしい……でも、分かったわよ……!」


 向かって右がわの頭に向かって、走っていくエレ。ゼラは軽鎧の背中から……ばさっ! まさかの、翼を展開! 空中に飛びあがり、中央ヘッドを目指す!


 さあ、ハッタリとか嫌がらせじゃない、正真正銘の禁呪詠唱だ。俺は猛然と、魔力を練りはじめた。太陽の加護があるなら、アレが、撃てるはず……!

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。