第34話 イカれたメンバーたち
「それで、このアモン……見えないけど、ここに浮かんでます……からチートなスキルの説明を聞いた、俺は……できるだけ嫌われながらダンジョンを攻略するための、パーティメンバーを探して……それが、皆さんというわけです……」
窓から、夕日が差しこんでいる。俺が話を終えたあとも、3人はしばらく黙っていた。
「えっと、なんか、すごい話やな……アンタはウィル。ヨハンじゃなくて、ウィル。よし、覚えたで」
ネロが口火を切る。
「でも、辻褄は、あってるわね。人間ではあり得ない強さと、不自然に謎の嫌がらせばっかり、くり返してた理由。それに、この……」
エレが横を見た。
「ううっ……がわ゛いそうだ……コレット……ぐすっ、ひぐっ……ずまん、誰かハンカヂを、貸してぐれないか……!」
コレットの入った瓶を抱きしめて、泣きじゃくっているゼラ。エレが彼女に、ハンカチを差しだしながら――
「ちょっと待って。アンタの強さって、嫌われ度てきなヤツに依存するのよね。ってことは……私たちが今の話を聞いちゃったのって、メチャクチャまずくないかしら」
おっしゃる通り、メチャクチャまずい。だが、一つだけチャンスがある。
彼女たちが今の話をぜんぜん信じずに、たちの悪いホラ話だと決めてかかった場合だ。ゼラはもう、望み薄だが……。その場合、俺は詐欺師、大ウソつきとして、ステータスが回復――
(召喚者ウィルよ、貴様のステータス、INTと最大MPは……いま、完全に初期値に戻ってしもうたぞ)
アモンが無慈悲な宣告。クソッ、だめだったかぁ……!
「あの、じつは、俺は学生時代、“噓つきウィル”って呼ばれてて……信じるも信じないも、みんな次第、なんだけど……」
もちろん、そんな事実はない。わるあがきだ。
「なに言ってるんや、ヨハンじゃなくてウィル。アンタは何回も、体を張ってウチらを守ったやないか。取り残された連隊のおっちゃんも、助けに戻ったし……ウチは、その行動を信じるで」
力強く、俺の手を握るネロ。嬉しいけど、かなしい。
「それに、マリエラってあの、クイーン・マリエラでしょ? 1年前に国王に見初められて、歴代聖女ではじめて王妃になった……彼女、半端なく評判わるいわよ。正直いって、納得しかないわね」
「エレ、信じてくれて、ありがとう……」
そうなのだ。あの後しばらくして俺は、マリエラが王と結婚したことを知った。むろん、教会はとんでもなく反発。しかし、彼女の美貌にトロかされた聖王が、権力でゴリ押したらしい。
政治にどう関わるのか、それとも大人しくしているのかと、見ていたのだが……ひと言でいうと、終わっていた。
まず、聖都の税金が3倍。諫言した大臣や側近の、謎の死……おそらく暗殺だ。最近は、領土内の街や村の税金も上がったり、各ギルドに協力金という名の上納金を払うよう、圧力がかかっているらしい。
で、上がった税収はすべて彼女のぜいたくに使われている。食事、豪邸、庭園、宝石、珍獣、私兵団……まあ、いろいろだ。
すぐに破綻するのでは……と思っていたが、彼女の巧妙なところは、払えるギリギリぐらいの税金アップにおさめている点だ。あと、演説がうまい。聞いていると、怒りが消えていくとのこと。
聖騎士団を中心として、熱烈なファンも多い。また聖王としても、前例のない結婚をゴリ押しした手前、離縁も切りだせず……そもそも美人だし……ということで、困っているらしい。
「ぐずっ……私は、ごの国のことには、あまり興味なかったの、だが……冒険者たちが、聖騎士団が大捕り物のために、ここに向かっていると言っていたぞ。王妃みずから、陣頭指揮していると……もしや、貴様を狙ってではないのか?」
ゼラがようやく泣きやんで、衝撃の事実を告げる。
「間違いないな……ってか、彼女も、来てるって……そんなに、俺が、憎いのか……聖騎士団は、今どれぐらいの距離にいるのか、知ってるかい?」
「ああ、私が聞いたとき、ガドールの橋の近くだったから……順調にいけば、明後日には到着だな」
「早いなぁ……じゃあ、明日じゅうにはダンジョンの10層、最深部を攻略しないといけないわけか。こうしちゃいられない。また強制パーティ許可証をつかって、俺のことを嫌いな冒険者をかき集めないと。もちろん、ほとぼりが冷めたらゼラの国にも行くし、エレとネロに報酬も払うからね。みんな、今まで、ありが――」
「それは無理。アンタが寝てるあいだに、ギルド支部長が辞職の手続きを済ませたの。彼女の署名は、効力を失ったわ。強パ証は、もう使えないわよ」
「うげっ……!」
や、やられた……! いや、支部長の気持ちを考えると、当然といえば当然、なのだが……
ここで、いまの状況を整理しよう。俺のことを信頼してくれている連隊の冒険者は、B10F攻略に同行してくれるだろう。だが、その場合ステータス的な恩恵は、まったくない。
俺のことが嫌いな冒険者も、まだいる。しかし、強パ証を使わずに言うことをきかせる自信はない。丁寧に弱みを握るにも、リサーチの時間がなさすぎる。ああ、これが、“詰み”か……
「話は信じるけど、弱体化したアンタと最深部に潜るかどうかは、まだ迷っとるんや。命あってのなんとやら……やからな。ゆっくり考えたいから、今晩は、となりの部屋で寝るで。盗み聞き対策で、押さえとった部屋やけど」
「へ……? いや、ダメだ。10層に潜るにしても、アンタらだけは、連れてくわけにはいかない。分かるだろ? もう、みんなを守れないんだ。シールドは使えないし、ステUPのバフもショボいし、禁呪だって――」
「貴様、水くさいぞ……! リーダーが弱くなったからといって尻尾を巻くなど、騎士の名折れ。一晩かかってでも私が、2人を説得してやるから、ゆっくり休め……! いや、もちろん、無理強いはできないが……」
「私も、きょうは隣で寝るわね。まだ決めたわけじゃないから、勘ちがいしないでよ。でも、アンタ、なかなか格好いいじゃない。冒険者の男たちがみんなアンタみたいなヤツなら、よかったのにね」
「う、ううっ、ぐすっ、3人とも、ありがとう……!」
そのあと3人は、部屋を出ていった。おそらく、隣で話しあっているのだろう。その気持ちだけで、嬉しかった。
◇◆◇◆◇
翌朝、まだ日がのぼらない時刻。俺は戦闘の準備を済ませ、コレットにあいさつをして――彼女の左目が、1回だけまばたきした――ドアの音をたてないよう、気をつけて部屋を出た。
そして、隣の部屋の前に立つと――
「――睡眠」
全力で睡眠呪文をぶっ放したあと、宿屋をはなれた。
彼女たちを、勝ち目の薄い戦いに、巻きこむわけにはいかない。俺はひとり、ダンジョンの入口に向かった……
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