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第32話 <回想>たのしいダンジョン探索

 聖都から約20キロメートルの距離にある、B+級ダンジョン、“エ=ザームの祭壇”。


 そのB10F、大ボス部屋の前室に待ち構えていたのは、2体のレッサーデーモン。俺とデギが、そいつらに気を取られている隙に――


「きゃっ……!」


 壁面の彫像に化けていた、3体目のデーモン。ヤツの投げた槍が、コレットの弓をはじき飛ばした。


「ニン……ゲン……ガアアアッ!」


 ぼぼうっ! デーモンが呼びだした何本もの炎の矢が、彼女に襲いかかる――


「こんなヤツに、コレットさんをやらせませんわ! 魔術防壁(マジックシールド)!」


 どかどかん! すんでのところでマリエラが、シールドを発動! 魔界の炎が光壁に阻まれ、部屋が熱気につつまれた。


「クソッ……デギ、ちょっとだけ頼む!」


 俺は振りかえって、複合呪文の詠唱を開始。爪をふりかざし、デーモンが後衛の2人に迫る!


「罪を照らし、咎を鎖せ――聖牢光縛(ルクス・ヴィンクラ)!」


「ギイイッ!?」


 凛然とそいつを睨みつけたマリエラが、光属性呪文を発動! 虚空からあらわれた光の楔に貫かれ、デーモンが動きを止める――


蒸爆土砲(ヴェイパーキャノン)!」


 そこにドンピシャで放たれる、俺の大技。床から突きでた土槍が、敵を串刺しにして打ちあげ、水蒸気爆発! 断末魔の叫びすら許されず、爆散するデーモン――


「すいません、マリエラさん……! えいっ!」


 取りおとした弓を拾ったコレットが、狙いすましてスナイプ! デギを挟み撃ちにしようとしていた前方のデーモンの、一体の肩を矢が貫く!


「後ろかぁ、どりゃああああああ!」


 そいつの悲鳴を聞いて、デギがふり向きざまにヘヴィーストライク! グレートメイスで頭を潰され、倒れ伏すデーモン。最後の一体は、俺とマリエラ、コレットの集中砲火の前に成すすべなく塵に還った。



 ◇◆◇◆◇



「へっへ、ありがとうよ……回復だけじゃなくて、シールドにエンチャントまで……地獄に仏とは、このことだぜ」


 マリエラに回復術で傷を癒してもらいながら、デギが感慨深げにつぶやく。信心のカケラもないようなヤツだったのに、その手はがっしりと組まれていた。


「ホントよ……ターンアンデッドの範囲も、ファデウスのおじいちゃんとはえらい違いじゃない。聖女様として神殿に囲っとくには、もったいないわね」


 コレットも同調。


「うふふ。まだ聖女候補生、ですが……そう仰っていただき、嬉しい限りですわ。でもわたくし、攻撃のほうは苦手ですの。最後の戦いも、皆さまを後ろからサポートさせて頂きますわね」


 デギとコレットに回復呪文をかけ終え、顔をほころばせるマリエラ。俺はその様子を、マジックポーションを飲みながら見守っていた。


 レッサーデーモンたちの死体が、魔界に還ったあと。俺たちはマリエラが聖水――ヘンな意味じゃないぞ――で作った結界のなかで、ミニキャンプを張って準備をととのえていた。


 このダンジョンのモンスターは、“祭壇”の名のとおり上層はアンデッド、下層は低級デーモンがメイン。必然的に、マリエラの光属性術の独壇場だ。


 スケルトンや竜牙兵は、ターンアンデッドで一掃。デーモンに対しても、神聖エンチャントで強化されたデギの大槌が猛威をふるった。さしたる苦戦もせずに、迷宮の最深部に到達。


 それよりも俺は、彼女のスキルではなく度胸に感服していた。レッサーデーモンが間近に迫っても、まったく動じず詠唱をつづける、その姿――


 無理なこととは知りつつも、彼女が俺たちのパーティに加わってくれればと、思わずにはいられない。


「ねえ、ウィル……」


 コレットが、うつむいてモジモジしながら話しかけてきた。


「ん、どうした? 手の痺れが、とれないのか?」


「ちがうわよ。今回の探索が、終わったら……ちょっとだけ故郷に戻って、ゆっくりしない? お金も、だいぶ貯まったし」


「おっ、珍しいことを言うじゃないか。まあ、そうだな……しばらくぶりに、村の人に顔を見せるのも悪くないかも……俺のワガママで遠征に付きあってもらったのもあるし、考えとくよ」


「ほんとっ? ありがと」


 顔をほころばせるコレット。


「ガハハ、でもそーいうのを、死亡フラグって言うんだぜ。次のボス戦には、細心の注意を払って挑まねえとな。なぁウィル」


「あ、あはは……デギ、俺が貸した本を、ちゃんと読んでるみたいだね……」


 顔を引きつらせる俺のほうを向いて、マリエラが――


「あら、ウィルさん。聖騎士団の魔術顧問になる話は、考えてくださらなかったのですか? わたくし、全力で推薦いたしますのに……寂しいですわ」


 泣きまねをする彼女。道中、ちょいちょいプレッシャーをかけられていたのだが……


「いや、ちょっとそういうのは、今はいいかな……俺はもともと、フリーで動きたいタイプだから。宮廷魔術師の口も、断ってきたし」


「まあっ、一匹狼ってのも、ステキですわね……羨ましいです」


「なんだなんだ、ウィル。お前……モテモテじゃねえか! 俺も今回の報酬で、お姉ちゃんでも侍らしてよろしくすっかなあ。それとも、どっかのお嬢様でもさらって……」


「なに言ってんのよ。せっかくダンジョン攻略の功績で、前科をチャラにしたのに……つぎ何かやらかしたら、容赦なくお役所に突きだすからね」


 そうこうしている間に、聖水の効果が切れてきた。ぼちぼち、ボス部屋へ突入のタイミングだ。


「みんな、準備はいいかな。じゃあ開錠の呪文で、扉をあけるぞ。大ボスを倒したら、ダンジョン・コアのアーティファクトを回収して、すぐに帰還装置に乗ってくれ。油断せずいこう」


「おうよ」「腕が鳴るわね!」「ふんす、ですわ……!」


 ゴゴゴゴゴ。音をたてて、巨大な青銅の扉がひらいた……



 ◇◆◇◆◇



「ちょっと待てい! ウィルって、誰やねん! あんた、ヨハンちゃうかったんか!?」


 耐えきれなくなったのか、ネロディがつっこみを入れてきた。


「……偽名に決まっているだろう。いや、ウィルが本名で、ヨハンのほうが偽り……ということか。宮廷魔術師に推薦されるほどのウィザードなら、名が知られていないはずはないからな」


「ネロ、そんなことも分からないの……? 話の腰を、折らないでちょうだい」


 あきれた口調のエレシダ。


「はい、おっしゃる、通りです……続けさせて、いただきます……ぐすっ」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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