第30話 嫌われウィザードの誤算
取り残された冒険者が、いるかもしれない、だと……!?
「貴様ら――! なぜ、もっと早く言わんのだ! 配ったマップに、ちゃんと4人ひと組になって動けと、書いてあっただろうが――!」
ソードマンとサムライに詰めよる。彼らは――
「ひいっ、ヨハンさん。勘弁、してくれよ……! ロベルトのやつ、7層の戦闘から、逃げまわってばっかりで……! 9層のときも、気付いたらいなかったからさ……! てっきり、戦いが終わったらヒョッコリ出てくるもんだと……」
「それにヤツは、数週間前にこの街を訪れたばかりの新入り。気を配ってくれる者も、いなかったのであろうな……まあ、ダンジョンでの死亡など、日常茶飯事。残念だが、尊い犠牲ということで――」
振りかえる俺。ダンジョンの次元隔壁の自己修復がはじまり、どんどん地表にあいた穴が閉じていく!
(お、おい……おぬし、まさか……! それは、リスクが大きすぎる! いかん、いかんぞぉ――!)
(うるせェ――!)
頭の中で、アモンをどなりつける。
迷っている時間は、ない。いま一度風纏翼を起動し、大迷宮にその身をおどらせる。地面が見えなくなる瞬間、ゼラたち3人が、ぽかんと口をあけて俺を見ていた……
こんどは、迷宮を下へ。毒沼、樹海、ゴーレム工場。火山、王宮、謎の回廊――一秒また一秒と、ダンジョンにあいた穴の大きさが、小さくなっていく。
ばちん。B9Fのボス部屋に戻ってきた瞬間、俺の頭上で、次元隔壁がふたたび閉ざされた……
◇◆◇◆◇
数分後、俺はホムンクルス製造工場のがれきの下に埋もれていた、冒険者ロベルト――俺が誘っておいてなんだが、普通のおじさん――を発見。
どうやら、敵の睡眠呪文を食らってそのまま置きざりになっていたようだ。回復魔術をかけたところ、彼はすぐに目を覚ました。
ひと安心した俺だったが……彼はふたたび、全身の痛みを訴え意識を失った。
両足を長時間、がれきで挟まれていたことによる後遺症……そーいうのがあると、“鷲獅子の骨”の授業で言っていた気がする。
一刻の猶予もない。さあ、あらためて帰還装置で……あっ。
(アホじゃのう……さっきおぬしが自分で、破壊しておったじゃろうが)
帰還ポータルには自己修復機能があることが知られているが、それまで座して待つわけにはいかない。ふん、ならばもう一度、壁をブチ抜いて帰還するまで。俺はふたたび、天に手をかざし――
「絶魔無尽光――!!」
ぎゃぎゃう! 光の奔流が、天井を灼く――灼いて――あれ?
前回とちがって、俺の光禁呪に持ちこたえる、ダンジョン天井の次元隔壁! 力をふり絞って撃ちつづけるが……びくともしない! ついに俺はあきらめ、照射を止めた。
(あーあ……言わんこっちゃないわい。魔術の出力が、下がっておるのはの……言わずもがな、冒険者たちの、おぬしへの好感度が上がってしもうたからじゃ。あとふつうに、距離も離れておるでな。いつものごとく、詰めが甘いのう……)
やれやれ、という顔のアモン。しかし、これも想定のうちだ。飛翔呪文で、ばく進するまで!
俺はローブをやぶいて即席の縄をつくり、自分と冒険者ロベルトの体をしばって固定し――ばひゅん! 一目散に、B1Fを目指す!
◇◆◇◆◇
B8Fの謎軍団を蹴ちらし、B7Fへ。デーモンたちを追いはらい、B6Fへ。
この場合、とうぜんB6Fの帰還ポータルは使えない。マジで、意地の悪いシステムだ。上半身が再生した古代巨人が投げてきたこん棒を避け、吹雪のなかを進み――
がくん。急に、風纏翼の出力が落ちた。風にあおられ樹氷に突っこみそうになるところを、急いで立てなおし先を急ぐ。
おかしい。すこしINTが下がったとはいえ、MPはほぼ無限のはず。4君主との戦いで、血を失いすぎたか……?
B5F。違和感が止まらない。飛翔呪文の速度も遅いし、ゴーレムたちにかけるテンプテーションの持続時間も、あきらかに短くなっている。
……ゥン、ティウン、ティウン……ステータス低下のアラートが、頭の中で鳴り響く。
(おい、アモン! どうなってんだよ……! 地上に近づいてるんだから、チートスキルの効果は、どんどん回復していくはずじゃないのか!?)
(ええい、ワシにも分からんわい……! ひとり助けに戻っただけで、これほどとは……!)
なにか、地上でよからぬことが――俺の好感度を上げてしまうようなことが、起こっているのだろうか。いや、いまは、前に進むしかない。
B4F。亡霊たちの墓場。とうぜん、ターンアンデッドで――
「範囲が、狭い……!」
半日前に訪れたときには、フロア全域をおおってまだ余裕があった、俺のターンアンデッドの効果エリア。それが今や、目の届く範囲ぐらいにまで、落ちてしまっていたのだ。
いや、最上位呪文が使えるのには、変わりはない……! スケルトン軍団を消しとばし、罠を避けながら先へ。
B3Fのボス部屋。巣食っていた上層ボスの巨大蛇を、氷棺で氷漬けにして――
バキン。
「ッシャアアアアアア――!」
「なっ……!? ワンパン……できない……!?」
いたる所を凍傷で壊死させながらも、俺に追いすがってくる大蛇。
「しまった、うぐっ……!」
尻尾の一撃を、わき腹に食らってしまった。いまいちど大魔術を放って仕留め、先へ。
「ギャア! ギャア! ギシャアア!」
「クソッ、邪魔だ、どけ――!」
ティウンティウンティウンティウン。どんどんINTが下がっていく。禁呪はもう、ぜったい無理。最上位呪文も、撃てるかどうか怪しいレベルだ。
襲いかかってきたのは、おびただしい数のリザードマン軍団。ヤツらが投げた槍の一本が魔術防壁をかいくぐり、俺のふくらはぎを貫く――
「う、ぐあっ……やっぱり、詰めが甘かったのか。アモンの言うことを、聞いておけば……!」
(あきらめるな、召喚者よ! また地上にもどって、ヘイトを稼ぐのじゃ……!)
「ううっ、風塵斬波――!」
ずばずばん! 詠唱に2回失敗したあと、やっと成功した複合呪文でモンスター軍団を撃破――
B3Fの樹海を抜け、B2Fの毒沼の上にさしかかったところで――
「お、重い……! ウィングが……維持、できない……!」
2人以上を乗せた飛翔呪文は、MP消費が跳ねあがる。浮遊呪文に切り替えようとするも、焦りと動揺で間に合わず……ばしゃーん! 毒沼に着水。
背中のケガ人を濡らすまいと庇ったせいで、全身が瘴気まみれになってしまった。キュアポイズンで立てなおし、浮遊呪文でノロノロ進む――
もはや俺の魔力は、ふつうの上級ウィザードぐらいまで落ちこんでしまっていた。回復呪文の効果も遅く、どんどん失われていく血とHP……ついにMPも底をつき、徒歩で移動。
B1F。ゴブリンたちをなんとか振りきり、やっとの思いでダンジョン入口の階段をのぼる。街の人たちの姿が見えた瞬間、力が抜け――俺はその場に、気を失って倒れてしまった……
◇◆◇◆◇
目を覚ますと、宿屋の自分の部屋だった。俺の視界に映るのは、ゼラトリス・エレシダ・ネロディ3人の顔。彼女たちのまなざしは……優しかった。
「ヨハン、気がついたか。どうやら貴様は、悪人を演じていただけらしいな。まったく、素直に頼ってくれればいいものを……さあ、事情を話してみろ。それとも、誰かに脅されているのか?」
「なんか、おかしいと思ってたわよ……そもそも、キャラが安定してないのよね。傲慢だったりネチネチしてたり、スケベだったり……無理してやってたんなら、納得だわ」
「せやせや。やたら肉壁とか弾避けとか言うくせに、他の冒険者がケガすんのを異常に嫌がっとったもんな。それにしても、なんで入り口で倒れとったんや? アンタほどの強さなら、楽勝で戻ってこれるやろ」
「ひぃっ……!」
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