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第29話 タテヌキだよ、タテヌキ

「どんだけ待たせんのよ、このボケ――! ケガ人が多すぎて、もう……!」

 

 フロアとボス部屋をへだてていた扉が開くやいなや、エレシダが叫びながら飛びこんできた。その後ろからも、つぎつぎと連隊(レギオン)のメンバーたちが入ってくる。

 

 十数人の冒険者が、壊れたホムンクルス培養層の扉でつくられた、即席のタンカにのせられている。皆、苦しそうにうめいたり、あえぎ声をもらしていた。

 

 ゼラトリスが俺の近くに、タンカの一つを置いて――

 

「ここで出来る治療や回復は、あらかた終わったんだが……何人も、重傷者が出ている。貴様は、このまま10層に進むと言いだすのだろうが……思いとどまって、街に帰還してほしい。この通りだ……!」

 

 そう言うと、また頭を地面にこすり付けて、土下座のポーズをとった。

 

 回復術といえど、万能ではない。

 

 たとえば、完全に失った指や臓器を再生するためには、専門の寺院や医療機関での処置が必要。傷をふさいでも、出血が多い場合は輸血が必要だ。

 

 見たところ、生死の境をさまよっている冒険者が、何人もいる。当然、いったん戻るべきだ。しかし……

 

「おい、帰還装置が使えるぞ! うちのパールドンが先だ! はやく、右手を生やしてやらないと――」

 

「なに言ってんのよ! この子を、見なさいよ! 顔が真っ白……はやく輸血しないと、助からないわ!」

 

「マオの体のふるえが、止まらねぇ……! たぶんあの、デタラメな状態異常の後遺症だ! 助かりそうにないヤツは、置いていくしかないだろ!? なァ、ヨハンさん……様!?」

 

 冒険者たちが、自分と仲のいい者を助けるため、我さきにと帰還ポータルに押しよせていく。冷静になれと止める人もいるが、少数派だ。

 

「帰還装置の定員は、最大4人……しかも、いっかい起動したら半日は使われへんのやで? アンタが責任をもって、帰す人を選ぶんや。この、クソッタレ……!」

 

 回復術を使いすぎてげっそりとやつれたネロディが、恨みの言葉をぶつけてくる。

 

 もちろん、帰還方法については俺も考えていた。圧倒的チートパワーでB10Fを攻略したあとに、ダンジョン崩壊までのタイムラグを使って、徒歩で戻るつもりだったのだ。

 

 だが、500年前の4君主の想定外の強さ。そのせいで、全ての計画が狂ってしまった。この状況から、犠牲者ゼロで撤退する方法。俺がとっさに考えた、悪魔的なアンサーは――

 

「うろたえるな、カスどもォ――!」

 

 叫ぶが早いか――ぼかん! 大火球をとばして、帰還装置を破壊! ばちばちと音をたてて、機械の光が消えた。

 

「貴様……なにを、した……!? うおおおっ、殺す、刺し違えてでも、殺してやるぅ――!」

 

「ああっ、もう、おしまいよ……! 私、ぜったいここから、動かないから! アンタだけでも、勝手にひとりで、下に向かえば! ぐすっ……」

 

「最低や、人間が、終わっとる……戦われへんヤツは、用済みってことかいな…… ボス戦には参加できへんかったけど、みんな、アンタのために頑張ってきたのに……」

 

 3人の、絶望にあふれた慟哭。そして、俺に明確な殺意をむける連隊(レギオン)の冒険者たち。チートスキルの効果で、俺のINTが極大に達した――

 

「貫け、絶魔無尽光ルミナス・ヴォイドブリンガー!!」


 ぎゃいいいいい! 右手のひらを上にかざし、光属性禁呪を発動! 直線状すべてのものを貫く、まばゆき光の奔流が、ボス部屋の天井に炸裂――

 

「ううっ、ウチら全員、生き埋めにして殺すっちゅうんか……それとも、激闘のせいで、ついに頭が……へ?」

 

 どかん! 光の柱が、天井を突きやぶる! そのまま、B8Fの巨大タコを壁のシミに変え、B7Fのレッサーデーモンを消しとばし――

 

「う、ウソ……ダンジョンまるごとブチ抜いて、出口を作るつもり!? でも、階層のあいだには、次元の壁が……!」

 

 エレがぺたんと尻もちをついて、おパンツをさらけ出した。

 

 過去にも、「下への階段まで行くのが難しいなら、入り口から穴を掘って進めばいいじゃない」という理屈で、ダンジョンの掘削がチャレンジされたことがある。

 

 しかしその試みはすべて、フロア間にある超強力な次元隔壁のせいで失敗してきたのだ。その壁を、至境に達した俺の禁呪が、つぎつぎと溶解させていく。


(ほほう……たしかに、全員を一挙に帰らせるにはこの方法しか……おぬし、考えたのう! じゃが、かなり強力なバリアじゃわい……正直、さいごの一押しがなければ危なかったぞ)

 

 どかん! どかん! どかん! どかかかかん!

 

「が、がんばれ、ヨハン……!」

 

 固唾をのんで見つめる、ゼラたち冒険者全員。

 

 ……はたして、数十秒後。上方はるかかなたに、地上の夕焼けが姿をのぞかせた。

 

「うおおおおおっ、ヨハンさん、すっげえええええ……うおあ!?」

 

 ごごごごごうっ! すぐさま全員を巻きこむ、超大型の風纏翼(テンペスト・ウィング)を発生! 100人全員をのせて、上へ……飛翔開始!


『きゃあああ――っ!?』「おおおお落ちつくんや……!」


 エレとプリケツレンジャーの子が、空中で抱きあって絶叫。ネロもくるくる回りながら、そのへんを飛びまわっている。なんとか、重症者だけは揺らさないようにしないと……!


「貴様ら――! 無念だが、MPが切れそうゆえ一時撤退する――! しかし、これで終わりではないぞ……! 明日は全員で、10層の大ボスに特攻してもらうからなァ――! ハハハハハ――!」


 上昇をつづける、俺と100人の冒険者たち。吹雪の中をぬけ、トラップの残骸を突きやぶり、瘴気の毒沼を見おろして……ついに、地上に帰還! 夕日が、まぶしい……


「うおおお、探索者たちだ、出てきたぞ――!」


「ケガ人が、あんなに……! 寺院の神官たちを全員連れてきといて、正解だったぜ!」


「あんなヤツのために、だれ一人死なせない……! すぐに、治療に入るわよ!」


 迷宮街の上空から見おろすと、俺があけた大穴――ダンジョンの入り口がある、森の中――のまわりに、人だかりができている。


 エレシダの配信を見ていた人たちが、連隊(レギオン)の帰還にそなえて、救護班を集めてくれていたようだ。


「ふん、街のヤツらめ、余計なことを……! おのおの勝手に、着地するがいい――!」


 ぶんっ! 右手を振って、極大風纏翼(テンペスト・ウィング)を解除!


『ああああああ――!』「レ、浮遊(レビテーション)――!」


「あの、馬鹿野郎、また嫌がらせを……!」


 どさどさどさぁ! 冒険者たちが、受け身をとれるギリギリの高さから、地面に叩きつけられていく! 重傷者だけは、できるだけ衝撃を与えないように、ふわりと救護班のちかくに下ろした。


「っつう、いってえよ、ちくしょう……」


「でも、地上だわ! 私たち、戻ってきた……! あの、魔境の9層から……!」


 打ち身にうめきながらも、喜びの声をあげる冒険者たち。あとは、重傷者の手当てが間に合うことを祈るしかない。長居は無用……さっさとその場を立ち去ろうとした、俺の耳に――


「……おい、そーいえば、あのロベルトってヤツがいなくねーか?」


「ぬ? うーむ、たしかに姿が見えぬな……まあ、戦いにもろくに参加せず、スミで震えていただけの――」


 そばに立っていた、ソードマンとサムライの会話が聞こえてきた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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