第28話 物語喰らいの勇者
魔法剣の光刃が、消えてゆく。
物語喰らいの大勇者ワタルは、信じられないといった顔で、自らの左胸に刺さった黒い両刃の剣を眺めていた。
数秒ののち、彼は苦笑いして、ぽりぽりと頭をかくと――
「あーあ、負けちゃった。……この剣、そんな逸話あったっけかなあ」
どっかと腰をおろして、あぐらをかいた。彼の手足の先が、徐々にホムンクルスの素体にもどり、ボロボロと崩れはじめている。
「いや、その剣は関係ないぞ? アンタの、最後の……アレは、完全な善の心をもった人間しか、使えないんじゃなかったか? 俺の仲間を人質にとった時点で、ダメだろう」
彼を見下ろしたまま、言いはなつ。
「ああ、そういえば、そうだった……まいったな、現地の人のほうが、話を読みこんでるなんて……」
悔しそうに、こつんと自分の頭をたたいた。
◇◆◇◆◇
俺と勇者とのバトルは、こんな感じだった。彼のチートスキルは、というと……
案の定、彼がこれまで伝えてきた、異世界の物語。その主人公たちの、必殺技を借りて使えるというものだった。
たしかに、技はどれもハンパなく強力。しかし彼のスキルには、明確なウィークポイントがあった。
主人公のフィニッシュアーツには、多くの場合、返し技や弱点が設定されていること。あと俺が異世界のストーリーの、熱狂的なファンだったことだ。
たとえば、逆属性の魔力を融合してすべてを崩壊させる呪文は、すこしでも両手の魔力のバランスが崩れると暴発する。
問答無用で精神支配して自害させる術は、俺のほうが最大MPが高いので通用しない。
また垂直落下式の投げ技は、なにがしかの方法で――俺は、重力を上下反転させる禁呪を使ったのだが――体勢を入れかえると、こちらが攻撃する側にまわることができる……といった、あんばいだ。
一進一退の攻防がつづく。
勝負をあせった彼は、俺の焦火蓋山吼――無数の火山弾を発射する、火土属性複合禁呪――を空中から召喚した大量の剣で撃ち落とすと、超大技の準備モーションに入った。
“スパーキング・ミーティア”。世界じゅうの生き物から少しずつ魔力を集めて撃つ、超巨大な無属性魔力弾。
しかし彼はそれを撃つ直前に、こう言った。
「はぁ、はぁ……じゃあ、これで、本当に終わりね。あっ、もし避けたら、ボス部屋の扉を突きやぶって、キミの仲間を巻きこむ方向に撃つから。バイバイ……最強の、現地人さん」
ご存知の通り、邪念がすこしでも入った時点で、ミーティアは成立しない。
勝ちを確信した俺は、彼が呼びだして地面に刺さっている魔剣の一本を引っつかむと、六魔混沌覇王斬を発動して突撃。
魔力弾をあっさり突破して、彼の心臓に刃をブッ刺した……というわけだ。
ほんとうは、もっと事細かくバトルの様子をお伝えしたい。だが、やめておく。素晴らしい物語を生みだした異邦の語り部たちへの、敬意というヤツだ。
(お、おぬし……メチャクチャ、異世界のストーリーに詳しいではないか!? あったじゃろ!? ほら! ワシ、魔神アモンがモチーフのあんな話や、こんな話……!)
(なんだよ、急に……だから魔神アモンなんて聞いたことないって、言ってるだろ。いまから勇者と話すんだから、黙っといてくれ)
(ううっ……ぐっすん……ひっぐ……ひどいのぅ……!)
なんか、アモンが勝手に曇って泣いている。彼の知名度がもうちょっと高かったなら、良かったのだが……
◇◆◇◆◇
「じゃあ、消えるまで時間がなさそうだから、ボク達がここにいる理由を教えとくね。ボクと3人の君主……アオイさんと、キョウカさんと、セイジロウのおっちゃん。500年前に、大陸の中央で、ついに全員の領土が接触したとき……無用な戦争を避けるために、4人だけで話し合いをしたんだ」
「ふーん……歴史には残っていない、裏の会談ってわけだな」
「そうそう。そこで全員が異世界からの転移者で、チートスキルを持ってることが分かって……意気投合して、各地のダンジョンを攻略しようぜって流れになったわけさ」
「えらく、フットワークが軽いな……で、ここのダンジョンの大ボスに負けて、ホムンクルスになってしまったと――」
「ああ、違う違う。S級ダンジョンのボスぐらいなら、ボクたち4人は余裕で倒せちゃうんだ。現に、当時10個あったS級ダンジョンの、8個までは攻略したからね」
「うげっ、マジか……」
伝説に残っている、500年前の大量ダンジョン消失事件。それも、コイツらの仕業だったというわけか。ダンジョン攻略も、お忍び……迷宮探索者の名簿に、情報がないわけだ。
「ボクたちの死因は、仲間割れ。ここの9層まで来た時点で、ボクがほかの3人を殺したんだよ」
「むっ……そりゃ、穏やかじゃないな。いったい、どういう風の吹きまわしだ」
「ちょっと説明するのが、難しいんだけど……物語の、終わらせどきかなって」
「マジで意味がわからんぞ。いや……アレか。これ以上やることがないってヤツか」
「そうそう。最強のパワーに、好感度マックスのかわいい女の子たち。でっかい領土と、忠実な国民……将来もこれが約束された状態で、キミは、お話を終わらせない自信はあるかい?」
「……現実は、フィクションじゃないからな……」
「魔王とかもいなくなって、ダンジョンをぜんぶ制覇して、無限にこの世界が発展しつづけて……ああ、つまらない。セイジロウのおっちゃんと違って、ボクはスローライフとかいうのには、興味なかったからさ」
「だんだん分かってきたが、それでも、3人を殺す理由までは……ひょっとして、物語の、最後の盛りあがり……」
俺の言葉にこたえて、勇者がにやりと笑った。
「さすがだね。ボクの異世界冒険譚の、ラスボス……それに相応しいのはもう、あの3人しかいなかったというわけ。あとは、そろそろこの世界の運営を、現地の人たちに戻そうかなっていうのもあったよ。んで、相打ちになって、このザマ……ってわけさ。いちおう勝ち判定になって、ここのボスとして再利用されちゃったから、意識は残ったんだけどね」
「はは、なんて自分勝手な……まるで、出来の悪い打ち切り小説の主人公だな」
「主人公ってのは、だいたい自分勝手なもんさ。さて、そろそろ意識がなくなりそうだ。このあとキミは、下の大ボスを倒してここを制覇するんだろうね。ボクとみんなの魂も、解放してやってくれよ……じゃあ、がんばって……」
大勇者の身体が、塵に還る。
それと同時に、B10Fへの階段と帰還装置を包んでいたバリアが消え、ボス部屋の扉がふたたび開いた……
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!




