第27話 異世界転生者キラー
大迷宮、B9Fのボス部屋が、ゴゴゴと音をたてて開く。そこから顔を、のぞかせたのは――
「あーあ……3人ともやられちゃったね。コピーのホムンクルス、だけど……さあ、こっちにおいでよ」
俺より年下、あどけなさの残る顔立ちの青年。『ミニスカート』と同様に、不思議なファッションをしている。
立ち襟の黒い上着に、5つの金ボタン。下半身は、同じ色の漆黒のズボン。足もとは……革靴だ。いっけん、王族の礼服に見えなくもないが……華美な装飾は、まったくほどこされていない。
ボス部屋からぴょこんと身をのりだし、手まねきする彼に――
「オマエ、なにもんだ……? いや、それより、向こうにいる俺の仲間の、手当てをさせてほしい。重傷者が、いるかもしれない」
ゼラたちに、俺の声が聞こえる心配はない。普通のことばで、話しかける。だが……
「それはダメかな。キミを心配させて焦らせたほうが、ボクにとって有利だろ? 嫌だと言うなら、ここから、彼らに攻撃を仕掛けるけど。ちなみにボクの強さは、さっきの3人を合わせたのと同じぐらいだよ。それでも、いいかい?」
……おいおい。正真正銘の、バケモンかよ……!
「……分かった」
「嬉しいね。じゃあ、闘ろうか。もちろんその前に、いろいろお話してもいいよ」
仕方なく、誘われるがまま、ボス部屋に入る俺。
(……おい、召喚者よ)
アモンが、念話で話しかけてきた。
(なんだよ、さっきから、えらく静かだったじゃないか)
(いや、考えておったのじゃが……さっきの奴らとコイツ、どうも、ワシが元々おった世界の雰囲気を感じる。くれぐれも、油断するでないぞ)
(ハァ、この期におよんで、油断なんかできないって……)
ずしん。俺のうしろで、扉が閉まった。
◇◆◇◆◇
直径300メートル、高さ50メートルほどの、巨大なボス部屋。
奥のほうに、青年が座っていたであろう簡素な玉座。すみっこにB10Fへの階段と、B1Fへの転送装置がバリアに守られている以外は……無地の岩盤でおおわれた、広大な空間だ。
「……さて、まずは、さっきの3人について説明してもらおうか。オマエの仲間なのか? そこそこの強さだったけど……俺には、遠く及ばんかな」
黒服の青年に、質問を投げる。正直、ゼラたちや連隊のみんなの状態が、気になってしょうがない。しかし少しでも情報をあつめて、勝率を高めないといけないのだ。
「いいよ。えっと、誰からにしようかな……東の国の服を着た、状態異常呪文をつかう女性は、覚えてるかい?」
「ああ。俺の魔術防壁を貫いて毒呪文や麻痺呪文をかけてきたから、ちょっと驚いたぞ」
「彼女は……アオイ=マツモト」
「んなっ……!?」
――アオイ=マツモト。人呼んで、後宮喰らいの大公主。
500年前に、極東の帝国で活躍した女傑。後宮のしがない下女であった彼女だが、なぜか、卓越した医療の知識があった。スリープとパラライズを駆使して、世界初の全身麻酔手術を成功に導く。
さらに、斬新な料理をつぎつぎと世に送りだし、皇帝の胃袋をがっちりホールド。そのままのし上がり続け、ついに――帝国はじめての、女帝となる。
そのあとも健康と美食をもたらすべく、彼女の帝国は西に拡大を続けた。医療と料理の水準を、300年は早めたといわれている、ガチの偉人。そんな人が、なんで、ノエガンドに……!
「あと、やたらとスカートが短いお姉さんがいたでしょ? 彼女は、キョウカ=イノウエ」
「なん……だと……!? あの有名な、淫乱暴力クイーン……!?」
「あはは。さすがにそう言われたら、怒るだろうなぁ……」
――キョウカ=イノウエ。人呼んで、経験値喰らいの大妖女。
これまた500年前の、西の王国の女王。彼女は、立派な逸話は……特にない。
しかし、夜ごとに彼女の部屋に連れこまれた、有名な将軍や冒険者たち。それが翌朝には、必ずレベル1になって、帰ってくるというのだ。
西の王国に、軍隊はなかった。なぜなら、戦闘員が全員レベル1。それに女王が前線に出て、圧倒的なパワーと魔力で、すべてなぎ倒してしまうからだ。
彼女の王国も、東に拡大をすすめた。一説には、いい男・強い男を探しもとめるためだったと、言われている……
「で、さいごの、くたびれたオッチャンが、セイジロウ=ホンダ」
「伝説の、大辺境伯……!」
――セイジロウ=ホンダ。人呼んで、小麦喰らいの大辺境伯。
500年前にとつじょ現れ、北の大地を支配しつくした辺境伯。彼の逸話は、無尽蔵に生みだされる謎の機械。
雷で動くカラクリが、地を耕し、水を運び、種を植え……不毛の地だった極北を、一大穀倉地帯に変えてしまったのだ。ふしぎなことにその機械は、雷雨がない日も動き続けたという。
とうぜん、近隣の国が放っておく筈もなく、いくども戦争をしかけられた、のだが……そのたびに巨大ゴーレムが現れ、すべての侵略を、跳ねかえしたと聞いている。
彼はぎゃくに、いたずらに領土を広げることはしなかった。理由は……なんか、“すろーらいふ”とかいうよく分からない単語だけが、後世に伝わっている……
「おおっ、キミは、歴史の勉強をしているみたいだね。感心、感心……じゃあ、これもおまけに教えとこう。僕たち4人は……違う世界から来た異邦人。そのとき各自に与えられたのが、独自のチートなスキル……彼らが国を大きくできたのも、何を隠そう、チートスキルの恩恵というわけさ!」
「ふーん……」
「ええっ、そこは、びっくりしないのかい!?」
青年が、はじめて意外そうな顔を見せた。
いや、だってもう、アモンがいるし……っていうか、アモンが、(わしの世界の雰囲気がする)とか言ってたし……俺も、チートスキル持ってるし……
「いや、びっくりしすぎて声が出ないだけだ。では、3人のチートスキルの内容を、教えてもらおうか」
「……調子くるうなあ、もう……。でも、いいよ。アオイさんのチート能力は、状態異常の超強化。ポイズン・スリーブ・パラライズが、ほぼ永続でレジスト不能になるんだ。あっ、医術と料理のスキルは、純粋に、彼女の努力のたまものらしいよ」
「なるほど、予想通りだ」
「つぎに、キョウカさんのチート能力ね。レベル上限解除と、粘膜からのレベルドレイン。チューすることで経験値を奪いとって、無限に強くなっていくんだ。ちなみに、もとの世界にいたときからキス魔で、女性もイケちゃうってさ。僕もいっかいやられたけど、思い出したくもないなあ……」
「……それで、ステータスがバカ高かったのか。でも、呪文は初歩のヤツだけだったな。もしかして、ちょっと地頭のほうが……」
「それは、言わないであげてほしい、かな……ホント、どうやって国を治めてたんだろうね、彼女」
やれやれ、という顔の青年。さらに続けて――
「セイジロウのおっちゃんは、ちょっと難しいんだけど……電気って、分かるかい?」
「雷のことだろ? 風と水の魔力を合成して、バリバリっと」
「そうそう。おっちゃんのチートスキルは、体から無限に電気を生みだすのと、電気で動く機械を召喚できるんだ」
「召喚魔法の、物質版……ってことか。あの大砲とかゴーレムも、雷、つまり電気で動いて……それで、火薬の音がしなかったんだな」
彼は、親指を立て――
「ご名答。大砲は、レールガンっていうんだ。ゴーレム……ロボットは、おっちゃんの必殺技だね。電気で動くものなら、もとの世界にない兵器でも、呼びだせるんだってさ」
「なるほど、だいたい分かった。じゃあ、最後の質問だ。オマエの名前とチートスキル、そしてアンタら4人がこんなとこで、死亡だか封印だかされてる理由を教えてくれ」
「最後って、2つじゃないか……でも、それは嫌かな。ボクの名前を言ったら、戦いに不利になるじゃん。で、こんなとこにいる理由は……勝ったら教えてあげるよ。ふふ、そろそろバトルしないと、物語が進められないだろ?」
物語……と来たか。
――その必要はない。目の前にいる、黒服の青年の正体。ここまで聞いたら、誰でも分かる。
ワタル=ハヤサカ。人呼んで、物語喰らいの大勇者。ほかの3人と同じく、500年前の南の国王。
彼の逸話は、ひと言でいうなら、超弩級のストーリーテラー。
血わき肉おどる冒険譚に、涙なしには語れない、悲恋のものがたり。腹がよじれるようなコメディに、一人でお風呂に入れなくなるほどの怪談。
この世界の神話や伝説を、ひとりで塗り替えてしまった謎の偉人だ。彼ゆらいのスラングやフレーズ、言いまわしが、今でもたくさん残っている。……かくいう俺も、愛読者のひとりだ。
彼の戦闘スタイルは、伝わっていない。だが、おそらく、彼が生前に語ってきた異世界の伝説――それに、関連したものだろう。
500年前に栄華を極めつくしたすえ、こつぜんと姿を消した4人の君主。彼らがここで、眠っていた理由。そのへんは、ブチのめしてから聞いてやるとしよう。
「ああ、話は、終わりでけっこうだ。……時間がない、500年後の魔術で、瞬殺してやる……!」
はやく、ゼラたちと皆のところに、戻らないと。俺は、猛然と、魔力を練りはじめた……
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