第26話 チートスキル対チートスキル
「嘘だろ、大砲!? さっきまで、そこには何もなかったぞ!?」
予想外の攻撃に、素に戻ってさけぶ俺。だが、魔力の流れを感じないということは、防壁などは張っていない可能性が高い。速攻で、仕留め……うぐうっ!?
――苦しい。これは、毒……!? おいおい、状態異常耐性のバフも、かけてある筈なのに……!
俺のまわりにいる冒険者たちも、喉をかきむしって苦しみだしている。魔力の流れは――後ろ! 振りかえった俺の目に、映ったのは――
年齢は、俺より一まわり上ぐらいか。山吹色の、東国ふうの服を身にまとった女性。後ろで束ねた黒髪と、白い肌。そのバストは……貧乳であった。いやいや、そんなことは、どーでもいい。
彼女の両手から放たれる毒魔術が、防壁と耐性を無視して貫いている。あきらかな緊急事態だ。さらに、前方から轟音と悲鳴。
三方からの、同時攻撃!? すぐさま自分と周囲に、キュアポイズンをぶち撒けて飛翔呪文! 俺の目が、とらえたのは――!
ばきい! どかん! ががん! ひとりの少女が、冒険者たちを次々と殴りとばしながらこちらに接近する様子だった。
明るい金髪に、褐色の肌。もしや、ダークエルフ……!? いや、耳は長くないので、ふつうの人間か。
すんごく短いスカートと、白いブラウス。胸もとに、えんじ色のリボンが揺れている。ムチムチとした、健康的な太もも……だからそれどころじゃないって、言ってるだろ。
おおよそ、戦場とは似つかわしくない姿。っていうか……あんなファッション見たことないぞ。なんらかの、魔術的な外装なのだろうか。
彼女を止めようと盾を構える重装戦士たちが、狂ったオークキングに蹂躙されるゴブリンのごとく吹っとんでいく。
敵の新手は、合計3人。謎の大砲を呼びだす『オッサン』。レジスト不能な毒魔術の使い手『オリエンタル』。そしてバケモノじみた膂力で粉砕してくる『ミニスカート』だ。
彼ら彼女らの目は、例にもれず赤黒く濁っている。伝説ホムンクルス兵のとっておきが出現……と、いうことか。
右往左往する冒険者たちのなかに、エレシダを見つける。
「雑種――! あいつらの、情報はないのか――!」
上空から大声でさけんだ俺に反応して、彼女がおおきく手でバッテンを作った。どうやら、受付嬢のデータにもない敵らしい。
「俺が、なんとかする――! 貴様らはケガ人の救護と、避難だ、急げ――!!」
言うが早いか、呪文の詠唱を……ぐがっ!? 動けない、これは……麻痺呪文! 見やると、『オリエンタル』が地上から、こっちに両手を向けている。
すぐさま自分に、麻痺解除呪文! だがその間に、『ミニスカート』が大跳躍! 飛行呪文もかくやという勢いで、目前に迫る!
ぶんっ! どっがあああ! 彼女のパンチが俺の防壁を砕き、吹っとんで床に叩きつけられる。いってぇ……! 横を見ると、『オッサン』にも動きが!
ばしばしばしぃ! がしゃん! 彼がプラズマをはなつ手で、謎の大砲にふれると――ぐいんと旋回して、砲口がこっちを向く! やばい、砲撃が、来る――!
「うおおおおっ、金剛結晶壁――!」
土属性の最上位呪文が、間に合った。土中の元素を変質させ、すべてを阻む超防壁を作成! 俺のまわりをドーム状におおった、結晶バリアに――
ばちぃ、どかんどかーん! 謎の大砲から超高速で射出された、砲弾がつぎつぎと命中! 3つの砲身を器用に撃ちわけ、つるべ打ちでブチこんでくる。
どうなってんだ、この『オッサン』……魔力もなしに、どうやって、これほどの攻撃力を……? しかも、発射のときに火が出ていない。火薬とかも、使っていないようだ。
たんっ! 地面に下りたった『ミニスカート』が、呪文の詠唱を開始! うおっ、圧倒的な暴力だけじゃなく、魔術も……!?
ぼっ! 彼女のまわりに、火球が生まれ出る! なんだ、ファイアボールか……ん? いや、ちょっと、炎がデカくないか……!?
ぎゅいいいいん! なんとふつうの火球の、100倍近いデカさの大火球! それを思いきり振りかぶって、こっちにぶつけてきた!
どがあああああん! 水晶防壁が、びりびりと揺れる。つづいて、氷矢! これも、通常とは比べものにならない、巨大な大氷塊! 命中、ぱっきいいん! ヤバい、ヤバすぎる――!
『オッサン』の物理砲撃と、『ミニスカート』の超巨大魔術。その十字砲火で、水晶壁にどんどんヒビが入っていく。さらに――
「ぐうっ、眠気……が……! 集中が、切れるぅ……っ!」
とうぜん、『オリエンタル』も黙って見ているはずはない。爆炎で見えないが、おそらく睡眠呪文の連続照射! くそっ、シールドが、もたない……!
「脱出するしかない、地隧穿!」
ぐいん! 両手から地面に魔力をながし、結晶ドームの下をとおって、外に抜けるトンネルを作成! しかし眠気のせいで、トンネルが無駄に枝分かれ。出口が、いっぱいできてしまった!
――ええいままよ。シールドが崩れると同時に、穴に身をおどらせる。飛行呪文でトンネルを抜け、脱出!
さいわい、出てきたところを攻撃されることはなかった。出口がたくさんあったせいで、敵の狙いが定まらなかったからだ。よし、まだ俺にも、ツキが残ってるぞ……!
そのまま風纏翼で、味方の冒険者たちから、引きはなす方向に高速飛翔! 目指すは、B9Fの最奥、ボス部屋の手前!
「ついてこい、オラァ――!」
ばんばんばぁん! 閃轟弾で注意をひきながら、狙われないよう不規則な軌道で奥に向かう。後ろを見ると――
だだだだだだ! 『ミニスカート』が、ものすごい勢いで追いかけてくる! 『オリエンタル』も、普通の速さで俺を追う。『オッサン』は……その場に、とどまったままだ。
……悪くない展開。機動力のちがう複数の敵を、相手にする場合。圧倒的スピードで離脱したと見せかけることで、順番に追いついてきた敵を各個撃破できるのだ。
魔術学校を卒業したあとに実戦できたえた、ケンカ殺法。『オッサン』ひとりなら、ゼラたちだけで、何とかしてくれるだろうか……いや、甘えは禁物だ。そんなことを、思っていると……
ぱちん、どしーん! 『オッサン』が指を鳴らすと、虚無から、また謎の機械が生まれでる!
車輪が前後に2つ連なった、金属の……馬? いや、さいきん都市部で流行っている、自転車ってヤツか? それにしては、えらくゴッツいが……
ばちばちばち! ぎゅい――ん! 『オッサン』がそれにまたがると――みるみるうちに、急発進! 前方をゆく『オリエンタル』を引っつかんで、こっちに高速移動!
「はあああぁ!? なんだ、あれ――!!」
あ然としていると、前方にボス部屋の扉が迫る。すぐ後ろの地上には、『ミニスカート』の姿が! 今のうちに、コイツに少しでも、ダメージを……!
ばしゅん! 『ミニスカート』が俺を殴るべく、前方に大跳躍! 俺はすかさず、振りかえって――
「うおおおお、風塵斬波!」
ずばずばぁ! 風の刃の、2連撃! 相手はジャンプしているだけなので、空中で軌道を変えられない! ガードした彼女の両腕の、ひじから先がちぎれ飛んだ!
「よし……っ! って、うああああ――!?」
どかん! ダメージをまったく意に介さない『ミニスカート』が、ボス部屋の扉を両足で蹴って反転! そのまま空中の俺にぶちかましをかけ、地面に叩きおとす!
「うぐぅっ……!」
あおむけに転がる俺。背中が、痛い……
きゅいいいいん! 車輪が地面を、すべる音。横を見ると、『オッサン』が鉄の馬を跳ねあげ、大ジャンプ! それを乗りすて、『オッサン』と『オリエンタル』が、俺の頭上に出現!
ぴかっ! かざした『オリエンタル』の、手が光る。びしぃ! またも麻痺呪文――! 硬直する俺。
ぱちぃ! つづいて『オッサン』の指パッチン。空中に出現したのは、もちろん、三連大砲! 重力にしたがって、砲門が、俺を向く――! 防壁……治療呪文……間に合わない……!
「あああああっ、自爆するしかねぇ――!」
ぼかん! たまたま丁度いい感じで地面についていた右手から、全力でエクスプロージョン! その反動で横に吹っとび、砲撃の火線からのがれる! チクショウ、右手が、右手が焼けるぅ……っ!
ばりぃ、どががががーん! 砲撃が地面を撃つ! 立ちこめる、土けむり。すぐさま完全回復とキュアパラライズで体勢を立てなおし、反撃の機会をうかがう。
土けむりが、晴れていき……そこに、現れる人影! 魔術の閃光がきらめき、極大の火球が飛ぶ! ぴかっ! どっかあああああん!
ばたり。『ミニスカート』が、全身をふるわせ倒れ伏す。その反対側では、さっきまで『オリエンタル』だった物体が、ぶすぶすと煙をふきあげながら崩れつつあった。
――地隧穿で地中にのがれた俺は、舞い散る砂と地面の砂に魔力を通して固め、砂でできたダミー人形を作成。
その幻影をふたりの火線が、ちょうど重なる場所に移動。同士討ちを、誘ったというわけだ。
「……」
それを見て、ほんのわずかに顔をしかめた『オッサン』。彼がふたたび、指を鳴らすと――
ずっしいいいん! 虚空より生まれでたのは……出たのは……ハァ――!?
それは、巨大なゴーレム。いやいや、B5Fで見たようなのとは、ぜんぜん違う。
身のたけ、約15メートル。両手には、それぞれ大筒と……光の剣!? 俺があ然として固まっている間に、その胴体の扉から、『オッサン』が、乗りこんだ!
きゅいいいいいん……ぐぽん! ブッピガァン! 大ゴーレム、起動!
「……もう、勘弁してくれ……」
◇◆◇◆◇
どぎゅん! どぎゅん! どぎゅん! 大ゴーレムの右手に持った大筒から、光魔術てきな何かが連続射撃!
俺のカンだが、おそらく、普通の魔術理論で放たれている呪文ではないのだろう。被弾のリスクが、大きすぎる。飛行呪文で必死にかわしながら、魔術で反撃。だが――
「クソッ、対策ずみってわけかよ……」
生半可な呪文は、装甲に弾かれる。大魔術も何回か撃つチャンスがあったのだが、左手の光の剣で切り払われてしまった。
ぐずぐずしていると、『ミニスカート』が復活してしまう。何とか、しなければ……
ふと、これまでの戦いを思いだす。『オッサン』が謎の兵器群を動かすとき、必ずばちばちとプラズマがほとばしっていた。ということは、雷が関係しているのではないだろうか。
ならばあの機械から、雷を奪うか、もしくは与えまくって狂わせることができれば……!
「いくぞ……落雷、落雷、落雷――!!」
ごろごろごろ! ぴしゃん! ぴしゃん! ばりばりばりぃ!
大ゴーレムの頭上に生みだした黒雲から、つぎつぎと閃光がおそいかかる! 無数の落雷を浴びつづけた、ゴーレムの頭部の2つの目が、しだいに明滅し――
ばちばちばちぃ! 関節部分から、火花が散る。機械のうごきが、止まった。
「――よし、これで決める――!」
俺はただちに、禁呪詠唱! 手持ちのショートソードに、火水風土光闇、全属性の魔力をまとわせる!
「うおおおおおおおっ、六魔混沌覇王斬――!!」
ずっばあああああん!
極彩色の巨大な光刃が、大ゴーレムを肩口から一刀両断! ぼろぼろと崩れていくゴーレムと、俺のショートソード。負荷に耐えられなかった剣の柄を捨てながら、振りかえると……
「……」
『ミニスカート』が、そこに立っていた。切断されて短くなった腕を持ちあげ、大火球を生みだしている。魔術とは、心の所作。必ずしも、手のひらから撃つ必要はない。
彼女の脚が、きらきらと輝いている。『オリエンタル』が撃ちこんだ、麻痺が残る体。どうやら凍結呪文で両足を凍らせ、むりやり立っているようだ。
――最後は、魔術の撃ち合いというわけか。
彼女の、強さの秘密。それはおそらく、莫大なステータス。初歩魔術しか使えないハンディキャップを、天文学的なINTとMPでごまかしているのだろう。
俺と、ちょっと似ているかもな……だが、ステータスが同じなら、魔術ランクが高い俺のほうが有利。彼女に応えて、魔力を練りあげる。
火球に氷の魔力をぶつけ、対消滅。逆にフリーズボルトは、業火で蒸発させる。風刃を、土の壁でガード。巨大な土槍は、地隧穿でくり抜いて回避!
数分間の、魔術の応酬。その後に立っていたのは……俺だった。
圧倒的な強さを誇った、謎の3人の冒険者。『ミニスカート』が塵に還ると同時に、ボス部屋の扉が、ひとりでにゆっくりと開いた……
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