表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/43

第25話 蘇る伝説

 ★迷宮地下第九層 虚ろなる英雄たちの霊廟★


「……なんだ、これ。もしかして、ホムンクルス……? しかし、こんなに大量の……」


(ほっほ……ヤバいにおいが、プンプンしおるわい……!)


「ヨハンさん、怖い、怖いよォ……でも、ヨハンさんも、おっかねぇ……っ!」


 大迷宮のB9F、深層の最下部。俺と100人の冒険者の前に、広がっていた光景は――


 例えるなら、巨大なホムンクルス研究所。俺も魔術学校の学生じだいに、社会見学で訪れたことがある。しかしここは、規模も、おそらく技術もけた違いだ。


 高い天井にはB8Fと同じような、白く輝く棒のランタン。それが、回廊の横面にびっしりと並んだ、ガラス製の容器を照らしている。


 その中におさめられているのは――のっぺらぼうの人間。容器にみたされた培養液にぷかぷかと浮かんで、静かに(たたず)んでいるのだ。


 ところどころに、B5Fと同じような機械の構造物。階段とその踊り場、何につかうのか分からない小部屋などが見えている。


 しかしルートは、見わたすかぎりの一本道。迷宮とは名ばかりの、手抜き構造だ。と、すると……


「……にゃあっ、ウチ、いまめっちゃ嫌な予感がしてるんやけど……」


「私もよ。たとえば、あのガラスの扉がいっせいに開いて……」


「残念ながら、大当たりのようだ……来るぞ!」


 3人のことばに、呼応するように――ぴこん! ごうんごうんごうん! ばしゃあ! 全てのホムンクルス培養槽が解放され、肌色ののっぺらぼうたちが、迷宮の通路にまろび出る!


『シンニュウシャ、シンニュウシャ、シンニュウシャ……サイゲンタイ、ゲイゲキモード……』


 回廊にひびきわたる、不自然に合成されたような声! ホムンクルスたちが、もの凄いスピードで迫ってくる!


「引けば老いるぞ臆せば死ぬぞ、俺が殺すからなァ――! 探索者連隊クロウラーズ・レギオン、突撃――!」


『うおおおおおおお――っ!』


 バフをかけ直された100人の冒険者たちと、謎のホムンクルス軍団。激突! ダンジョン最深部に、魔術の華が咲き――血と臓物の、雨が降る!



 ◇◆◇◆◇



「――ぬうっ、その身に受けよ、不動剣――!」


 ずばばぁ! ゼラが攻撃を受けとめた勢いそのままに、体を回転させての斬撃! ホムンクルスが、三枚におろされ地面に倒れ伏す。


「ブキミなわりに、大したことないわね! 食らえ、亜空間斬り!」


 ざしゅざしゅざしゅ! 縮地で敵の背後をとったエレの、忍者刀が光る! 人造人間たちが首を飛ばされ硬直し、3体まとめてその場にくずおれた。


「……なんか、おかしいで。これなら7層とか8層のモンスターのほうが、ぜんぜん強かったやんか――呼ッ!」


 ネロが怪訝そうな顔をしながら、掌底から聖闘気(オーラ)を飛ばす。別の冒険者に襲いかかろうとしていたホムンクルスの、胴体に巨大な穴があいた。


 彼女たちの言うとおりだ。この謎のホムンクルス軍団、はっきり言って拍子抜け。たしかに一般モンスターと比べると、弱くはない。


 しかし大迷宮(ノエガンド)で対決してきた他の魔物と比べると、格落ちと言わざるをえない。まあ敵が弱いに、越したことはない、のだが――


「……お、おい……あいつは、なんだ……!? 顔がある! のっぺらぼうじゃ、ないぞ――!」


 いまネロに助けられた、最前線ちかくにいる戦士。彼が指さす、その先には――


 冒険者? いや、違う! 探索者連隊クロウラーズ・レギオンに、あんなヤツはいなかった!


「ふしゅるるるる……」


 こちらにゆっくりと歩いてくるのは、細身の女性。


 騎士鎧の上から、赤いマントを羽織り――たずさえたロングスピアの穂先が、マントと同じ深紅に輝いていた。足運びを見ただけで、その強さ、底知れなさがビンビンに伝わってくる。


 後ろに続きしは、むくつけき大男。


 身の丈は二メートル半近くあり、横幅もそれ相応のバカげたサイズ。額には、ツノを切りとったような傷あと。半人半魔の、混血……? 肩にかついだグレートクラブの持ち手が、握力でひしゃげている。


 さらにその横に、小柄なドワーフ。


 腰と背中に光るのは、斧、斧、これまた斧。長さや分厚さ、魔術的エンチャントの有無がそれぞれ違う、7本の戦斧が彼の体を、防壁のようにおおっていた。


 空中に浮かぶのは、妙齢の女魔術師。


 銀髪を背中までのばし、紺色のローブを纏っている。豊満なバストの前に浮かんだ、子どもの頭ほどの大きさの天球儀。彼女の手がそれに触れるたびに、魔力のきらめきが周囲にほとばしった。


 そのうしろにも、合計十数名の冒険者ふうの男女が続く。彼らの目は、いちように赤黒く濁っている。理性とか知性とか感情は、まったく感じられない。


 謎の軍団の登場に、連隊(レギオン)がうろたえ、じりじりと後退。かばうように、先頭に立って対峙する俺。すると、エレシダが、走りよってきて――


「ヨハン、アンタ宛てに赤おひねりよ! ホラ、見て!」


 緊張した面持ちで、BCC(なまはいしん)のコメントを見せてきた。その、内容は――!


<冒険者ギルドの、受付嬢です! ヨハンさんは、どうでもいいんですが……冒険者の皆さんのために、助言を! ……間違いありません、彼女は、“赤備え”リゼルダ=フォーベル! そのうしろは、“砕骨鬼”グラッハ=ムルドン! 浮かんでるのが、“星詠み”センレ=アルシェナ! いずれも遠い昔、大迷宮(ノエガンド)の深層に挑んで、戻らなかった探索者たちです……!!>


 おいおい、嘘だろ……!? 星詠みセンレといえば、100年前の俺の母校――“鷲獅子の骨”の、もと学院長じゃないか。


 魔術師としての名声をほしいままにしたあと、キャリアの最盛期でこつぜんと姿を消した彼女。まさか、ノエガンドに潜っていたとは。いや、でも俺は、彼女の顔なんか知らないし……


「クッ……どうやら、受付嬢の言うことは本当だぞ。あれを見ろ」


 ゼラトリスが謎軍団のひとりを、指さして言う。


 その先には、両手にそれぞれタワーシールドをくくりつけた、ビキニアーマーの小柄な少女。そして盾に刻まれたエンブレムは……ゼラの母国、ザリア公国の紋章!


「“絶鎖門”のキルシェ=ジャガーハート……あんな珍妙な装備のパラディン、ヤツしかおらん。50年前の、我が国のもと騎士団長……人間ばなれした強さを誇ったらしいが、彼女の最期はダンジョンに挑み、命を落としたと伝わっている。まさか、よりによって、ここで出あうとは……」


 俺は、すべてを察した。


 これまで深層で倒れた冒険者たちの遺体から、情報を収集。容姿と強さを、ホムンクルスに落としこむ。そのコピー軍団でもって、新たな探索者を襲撃……


 のっぺらぼうのホムンクルスが、多かった理由。それは、今まで深層にたどり着いた冒険者が、迷宮の設計者――そーいうのがいればだが――の想定よりも少なかったからに、ほかならない。


 雪だるま式に増えていく、レジェンド冒険者軍団の製造工場。これが、大迷宮深層、脅威のメカニズムか――!


 ――ゆらり。レジェンドたちが、動く。


 先頭の槍兵――赤備えリゼルダが、得物をかまえた瞬間……


「うああああ、ちくしょお、死ねぇ――!!」


 レンジャーの女の子――俺がプリケツをモミモミした子――が、となりの剣士からロングソードを奪いとる! そのまま絶叫しつつ、弓に剣をつがえて、発射! ばひゅん!


 すっ飛んでいった剣が、すんでのところで阻ま……れない! 槍のガードをつきやぶり、攻城砲のような一撃が、敵の胸に大穴をあける!


 赤備えリゼルダのホムンクルスは、無表情のまま数回けいれんしたあと、ドロドロとのっぺらぼうに戻った……


「へ? や、やったぁ……」


 呆然とする彼女。うおっ、攻撃が通るのか……!? ならば……!


「ク、ククク……! 何を、うろたえている。たしかにヤツらは、いずれも名の通った冒険者たち。しかし貴様らも、俺のバフで超絶強化されているのだぞ? しかも……見ろ! いずれもご本人ではなく、ただのホムンクルス、劣化コピーではないか! 我らのやることは、変わらん! そう! 蹂躙だ――!!」


『う……うおおおおおおおおっ!!』


 士気、回復。気炎をあげる冒険者たちが、レジェンド軍団におそいかかる!



 ◇◆◇◆◇



「はぁ――、はぁ――、先輩、ご指南、ありがとうございました……!」


 ゼラがカイトシールドで、絶鎖門キルシェの身体を、得物のタワーシールドごと壁に押さえつける。そのまま、顔面にブロードソードを突きたてた。


 戦いは、一方的な展開だった。


 砕骨鬼グラッハは、7層のデーモン戦で獅子奮迅の働きを見せた蛮族戦士(バーバリアン)に、頭を潰され退場。七斧のドワーフも、エレが影縫い(シャドウバイト)で動きを止めたところを、ネロが首をねじ切った。


 ほかのレジェンドたちも、連隊(レギオン)の波状攻撃に、ひとり、またひとりと倒れていき……


「――かぁっ、暴君旋風葬インペリアルトルネード!」


 どどどどどどど! 風属性の禁呪で生まれ出た竜巻が、星詠みセンレを防壁ごと押しながす! そのまま数人の敵を巻きこんで、壁面とのすき間ですりつぶした。


 けっきょく俺たちはまたも全員で、伝説ホムンクルス軍団を突破。冒険者のみんなが、そこかしこで(とき)の声をあげている。


(うーむ、ワシのチートスキルのおかげとはいえ、あっけなかったのう)


 何とも言えない顔のアモン。


(いやいや、彼らは侵入者を倒すために自動で動く、操り人形みたいなものだったじゃないか。意志をもって作戦を立てたり、こっちの弱みを突いてきてたら、違った結果だったと思うよ)


(そんなもんかのう……して、召喚者よ。もしやあれは、ここのボス部屋ではないか……?)


 上空からアモンが、進行方向を指さす。おおっ、ついに来たか。突入にそなえて、冒険者たちのケガを確認したり、イヤミを言ったりしなければ。


 連隊(レギオン)の人だかりに、近づこうとした、瞬間――


 どっかあああああん! そこが、爆ぜた。歓談していた冒険者たちが、大きく吹きとばされ散ってゆく!


 クソッ、俺の防壁バフを打ちやぶる、高火力呪文だと……!? しかし、魔力の流れは、感じなかった! いったい、どういうことだ? 混乱するなか、煙が徐々に晴れてゆく、その先には――!


 年のころ40代後半の、中肉中背の男。


 短く刈りこんだ黒髪には、ところどころ白髪がまじり、無精髭がくたびれた雰囲気を醸し出している。革製のへたった胸当てに、なんのへんてつもない麻のシャツとズボン。


 左手首で、銀のアミュレットが、きらきらと光っていること以外は――どう見ても、一般冒険者。普通のおっさんだ。


 手持ちの武器はないが、そいつの目の前には、見たことがないデザインの大筒が3門……その砲口から、うっすらと煙を立ちのぼらせていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ブクマや感想・評価など頂けたら、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ