第24話 <回想>聖女との再会
魔術学校“鷲獅子の骨”を卒業してから、数年後。
宮廷魔術師への推薦を断って、フリーの冒険者になった俺は――誰かの下で働くのが、あんまり向いてないと思ったからだ――とある目的で、仲間たちとともに聖都を訪れていた。
「……ったくよお、なんか街ぜんたいが堅っ苦しくて、しょうがねえぜ。さっさと用をすませて、酒場にでもくり出すとしようや」
宿の1階の食堂で――机に頬杖をついて不満そうな顔をしているのは、重装戦士のデギ。ザリア公国出身の、もと山賊だ。
俺が駆けだし冒険者だったころ受けた、山賊討伐クエスト。奮闘むなしく、捕まってしまったのだが……その山賊団の副頭目をしていたデギと、意気投合。
そろそろ潮どきかと思っていた彼は、俺を連れて足抜け。そのまま腐れ縁で、相棒として旅を続けているというわけだ。自慢じゃないが、前衛の彼と後衛の俺でいいコンビだと思っている。
「ほんっと、気が短いんだから……いい? 聖都には、強いお酒を出す店はないのよ。もちろん、エッチなお店もね。そこのアンタも、残念でしたぁ」
ローグのコレットが、こっちを見てからかう。彼女は、俺の幼馴染だ。俺の両親が流行り病で亡くなってから、“鷲獅子の骨”に入学するまでのあいだ、彼女の家に厄介になっていたことがある。
里帰りもかねて、1年ほど前に故郷の村に立ちよった、のだが……なんか冒険者になりたいってことで、着いてきてしまったのだ。
身の安全を考えて、俺とデギはなんとか追い返そうと、頑張ったのだが……幸か不幸か、彼女には才能があった。弓矢とシーフ系のスキルをぐんぐん伸ばし、今ではパーティの重要な戦力だ。
「バカ、分かってるよ……」と返事して、隣のファデウスに体調をたずねる。
「ふむ……やはり、腰が痛うてな。このトシでの長旅は、こたえるわい。ダンジョンへ潜る前に、湯治にでも行きたいかの。このへんは、いい温泉が湧いとるそうじゃ」
ファデウス老は、これまた1年ほど前にスカウトしたクレリック。隠居していたところを無理やりお願いして、パーティのヒーラー兼お目付け役として同行してもらっているのだ。
しかし寄る年波には勝てず、ぼちぼち引退を考えているとのこと……新たな白魔術師のスカウトが、俺たちの課題のひとつになっている。
「よし、じゃあ善は急げだ。まずは大聖堂に行って、オマエの……ぐひひ」
デギが立ちあがって、意味深な顔を俺に向ける。
「コレだな」「コレね……」「コレじゃな」
3人が同時に、小指を立てた。
「そんなんじゃないって……」と言いながらも、顔が熱くなる俺。
なにを隠そう、俺が聖都に訪れた目的のひとつは、聖女候補として活躍している(と思われる)マリエラに会うため。そのあと近郊のダンジョンを攻略して、遺物を狙うという算段だ。
あと、ファデウス老のバトンタッチ先として、彼女の知り合いのプリーストだかを紹介してもらえれば……という打算が、ないわけではなかった。
はたして、大聖堂をおとずれた俺たち4人のまえに、現れたのは……
「お久しぶりですわ、まあ、ご立派になられて……! わたくし、ずっと待っていましたのよ……!」
聖女候補筆頭にのぼり詰め、押しも押されぬ大神官となったマリエラ。彼女が、俺の手をしっかと握って出迎えてくれた。
彼女の美しさは、全く変わらず……いや、さらにその美貌に、磨きがかかっている。以前の少女らしさは影をひそめ、あふれ出る大人の気品。
額に輝く、黄金のサークレット。金糸の刺繡でいろどられた、純白の修道服……“神聖にして侵すべからず”という言葉が、これほど似合う人はいないだろう。
「ヒューッ! 聞いてた以上の、とんでもねえベッピンさんだぜ……」
「なによ、アンタも、すみに置けないわね……!」
「うほっ、これは、眼福じゃわい。ありがたや、ありがたや……」
腕組みをしてうなるデギに、ちょっとふくれっ面のコレット。ファデウス老にいたっては、手を合わせて拝んでいる。恥ずかしいから、やめてほしい……
「パーティの皆さまにも、お会いできて光栄ですわ。ミサが終わったら、ゆっくりお話しましょうね」
彼女はそう言ってしずしずと、儀式に戻っていった。
そのあと、彼女の私室で――いい匂いがした――しばし歓談。俺が、近郊のダンジョンに潜る予定だと伝えると――
「まぁっ、迷宮に……! でも、見たところ、ご老体の体調がかんばしくないご様子。さっきから、腰をさすっておられて……。よろしければ、わたくしが代わりに、ご一緒いたしますわ」
とか言いだした。とまどう俺とコレットに、「万一のこともありますじゃ」と遠慮するファデウス老。だが――
「さいきん聖都近郊の村では、ダンジョンから出てくるモンスターの被害に、悩まされておりますの。もともと、わたくしと聖騎士団のかたがたで攻略に向かう予定でしたし……熟練の冒険者である皆さまと同じパーティなら、より安心ですわね」
「なら、丁度いいじゃねえか! ファデウスのじっさまの腰も、いつガタが来るか分かんねぇし……なあ、ここは渡りに船ってことで、いっぱつ聖女サマのお力を借りねぇか!?」
「うふふ。冒険者登録はしていませんが、光属性の上級呪文はぜんぶ使えますわ。わたくし、精いっぱい頑張りますわよ。ふんす……!」
結局、ノリノリのデギとマリエラに押しきられた。ファデウス老を聖都にのこし、彼女と同行することに。
目指すはB+級ダンジョン、“エ=ザームの祭壇”。期待される成果……ダンジョン・コアのアーティファクトは、召喚術に関連した遺物。彼女にいいところを見せようと、張りきる俺――
しかし、これが俺の人生の、地獄の一丁目だった……
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