第23話 召喚術は、パワハラ儀式とともに
★迷宮地下第八層 遺都アビス・プラムナード★
俺と100人の目前に広がっていたのは……いたのは……なんだ、ここ?
低い天井には、規則的に配置された棒状のランタン。それが明滅し、無機質な白い明かりを放っていた。
床は、安っぽいタイル張り。ところどころに、未知の古代文字が書かれた貼り紙が落ちている。回廊の両側には、お店……だろうか?
割れたショーウインドーやカウンターのなかに、何に使うのか分からない品物が並んでいる。看板は……読めない。やはり、古代文字のようだ。
むろん、人の姿はない。お店らしき場所の多くは、鉄製のジャバラでできたカーテンで閉ざされている。回廊の先を見ると、たくさんの分岐が、誘うように口を開けていた。
とうぜん、ほぼ前人未到の地なのでマップとかはない。どうしたもんかなぁ、と思っていると……
「この面妖な場所は、ともかくとして……ものすごい、枝分かれの数だぞ。ヨハン、無理を承知でひとつ、お願いをしていいか」
ゼラがいつの間にか、俺のとなりに立っていた。エレとネロも、すぐ後ろにひかえている。
「ほう……俺は貴様らがグズなせいで、ひとりであの大魔族どもを相手しないといけなかったから、疲れているのだ。めったなことでは、お願いを聞いてやる気分じゃあないなァ?」
すると、彼女は額を床につけ、土下座のポーズをとって――
「このフロア、冒険者たちを斥候として各ルートに送りだすのは、許してやってほしい。貴様のバフで大幅強化されているとはいえ、みんな、もとは普通の人間……! どんな敵が出てくるかも分からん状況で、彼らを危険に晒したくは、ないんだ……!」
ゼラ、大丈夫だ。もともと、そんなつもりはない。しかし折角だから、俺は、彼女の後頭部を踏みつけつつ――
「フゥーム……もちろん貴様たちの命を、ここぞとばかりに使い捨てるつもりだったが……そこまでされては、しょうがない。では召喚獣たちに、偵察をお願いするとしよう」
ぐりぐり。
「ああっ、配慮、感謝する……!」
頭を踏みつけられたまま、プルプルとふるえるゼラ。感激か、怒りか。……おそらく、後者だろう。
「苦しゅうないぞ……だが、召喚術を使うためには特殊なポーズをとる必要がある。おい、そこの雑種。四つんばいになれ。椅子だ」
エレシダを指さして命令。
「う……うぐぅっ……このボケ、ふざけんじゃ、ないわよ……!」
そう言いながらも、手と両ひざをつけてポーズをとる彼女。俺はハーフエルフ人間椅子のうえに、どかっと腰を下ろし、ゼラの頭を足置きにすると――
「よし。もうちょっとで魔力が溜まりそうだ。おい低能。お前はそこで気をつけをしたまま、俺を褒めたたえ続けろ。心を込めるほど、こいつらが苦しむ時間が少なくてすむぞ?」
顔をゆがめるネロディ。だが、すぐに――
「ヨハン……かっこええ。切れ者や。最強。ローブもええ感じや。才能のかたまり。優し……ううっ、優しい……」
「おいおい、ぜんぜん褒めようという気持ちが、感じられないぞ? このザマでは、ノーム一体出すのに1時間は、かかってしまいそうだなァ。いやぁ、参った……」
そう言いながら、お尻でエレの背中をグリグリ。「うぷっ……」と彼女がうめく。ごめん……
「ぐうっ……! 一緒にいて楽しいわ! たまらん匂いがする! 雰囲気ええねん! ほんま頑張り屋さんやわ! めっちゃ好きやねん! ああ、に゛ゃあっ……!」
彼女の瞳から流れる、大粒の涙。まわりの、冒険者たちも――
「……クソッ、おい、俺たちもやるぞ! 大英雄! 詠唱の発音がキレイ! 魔法陣から気品を感じる!」
「生ける伝説! 回復も攻撃も支援もできる! 人類最後の希望! 最推し! 抱いて! グスンっ……」
悲壮な顔で俺を賞賛しまくる、大合唱がはじまった。
<なんだコイツ、そんなに嫌がらせばっかりして、なにが楽しいのか……>
<私の彼氏、無事に帰してくれなかったら、一生呪ってやるから……>
<支部長がショックで寝込んでるってのに、いい気なもんだぜ……>
エレの腰のBCC――ブロードキャスト・クリスタル――だけが、辛辣なコメントを吐きだし続けている。
ここまでやればボス戦で無双しても、好感度が上がることはないだろう。みんな、申しわけない……!
「よぉ――し! 魔力チャージ完了だ! では、召喚――!」
ぎゅいいいいいいん! ぽこぽこぽこ! 俺の周囲に発生した、6つの魔法陣。そこから、つぎつぎと召喚獣たちが生みだされた!
サラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフ、ウィルオウィスプ、シェイドソウルそれぞれ50体ずつ、合計300体の精霊が、迷宮の奥に走る!
「う、うおおっ、すげぇっ……! 普通のウィザードなら、同時に数体が限界なのに……!」
冒険者たちから上がる、感嘆の声。エレの体からおりて、しばし待つ。敵にやられてどんどん消えてゆく、召喚獣たちの反応。そして、ついに……
「ふふん、シルフ35番が、第9層へのルートを発見したようだぞ。……さぁ貴様ら、前進だ! 召喚獣ごときよりも役に立たなかった罪、せいぜいその身体で償ってくれよ? ハハハーッ!」
どかどかどか! 探索者連隊、進軍開始! すぐさま、敵モンスターの姿が見えてくる。どうやら召喚獣たちが刺激になって、こっちに押しよせてきたようだ。
このフロアの魔物は、名状しがたき謎のモンスター。身体の半分が機械化されたワイバーンに、空中をふわふわ漂うでかいタコ。
さらに、既存の人類――ヒューマン・エルフ・ドワーフ・獣人――とは似ても似つかない、巨大な頭と目、ひょろ長い手足をもったヒト型の生物!
そいつらが筒状の武器から、光魔法てきな何かや、砲弾などを撃ちだして攻撃してくるのだ。モンスター間での意思疎通があるようで、連携もカンペキ。しかし……
「火穿槍!」「蒸爆土砲!」「風塵斬波!」
どかあああん! ずばずばずばぁ! 謎のモンスターたちが、次々と粉みじんになって吹きとぶ! みんなは、大丈夫か。後ろを見やると……
「人間の、誇りを踏みにじりよって……絶対に許さん、はああぁ――っ!」
「で、出たぁ! ゼラトリスさんの、怒りのシールド投げだ――!」
「う……うぷっ、どうでもいいから、さっさと死んで――! 水遁・粘糸毒龍……オロロロロ」
<エレにゃんが、口から忍術を……! これは、半端ない撮れ高でござるぅ――!>
「キモい! しばくぞ! ――銀牙流星脚!!」
「絶対に……生きて帰る! このパーティを、解散するために……!」
「業火!」「業火!」「業火!」
どうやら、心配はいらないみたいだ。
謎のパワハラ儀式で魔力マックスな俺と、憤怒に血をたぎらせる100人の冒険者たち。その迫力に気圧されて、正体不明のモンスターたちが、潮が引くように逃げていく。
……いったい、ここは何だったのだろう。もしかすると、魔力が発見されないとか、そもそも存在しないとかで、別の世界線をたどった人類文明。
そこに、俺たちが知っているのとはべつの魔界からの、侵攻軍が襲来。激戦のすえ、世界を乗っ取られてしまった……とか。いや、あくまで、すべて仮定ではあるのだが……
そんなとりとめもない妄想をしながら進むこと、数十分。かくして探索者連隊は、またも全員健在のまま、B9Fへの階段を駆けおりていた……
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